第4話 オタク友達
「オタク友達? 俺と?」
「はいっ。渋谷くんと」
楠木はクラスの中心人物で学校1の美少女。そんな奴がアニメも声優も好きで、しかも俺とオタク友達になってくれって? 何かの罠か? そう疑ってしまう程に驚きのお願いだった。
「私、アニメの話を出来る人が1人もいなくて。普段の私を見てたら分かると思うんですけど、クラスで仲の良いグループの人たちはみんなアニメなんて好きそうじゃないんです。それでそんなお友達が欲しいなと思って……」
「なるほどな。それならなんで無理してそのグループに? 本当の楠木は今の楠木じゃないんだろ?」
「それは……」
あ、もしかして無神経なこと聞いたか? 無神経というか偉そうに何を言っているんだ俺は。
「ごめん。なんでもない。楠木とオタク友達になれるなんてこっちこそ大歓迎だよ」
「ーー‼︎ ありがとうございます‼︎」
楠木は曇り切った暗い表情から一気に雲を払いのけパァッと太陽のような笑顔になった。
同じオタクとして経験した事があるから楠木の気持ちは痛いほどわかる。
自分はアニメが好きで声優が好き。その話を誰かにしようとしても話は合わないし理解されない。挙げ句の果てには気持ち悪いだのなんだのって言われて終わりだ。
恐らく楠木はそんな経験もありオタクということを隠しているのだろう。
オタクがやっていることは、バンドや男性アイドルが好きな陽キャ達となんら変わらない。
それなのに、アニメの事を理解しようともせず偏見だけで迫害するなんて世の中どうかしてる。
最近は世間に認められ浸透しつつあるアニメ文化だが、アニメという言葉を聞くだけで毛嫌いする奴なんて五万といる。根深い問題だ。
ちなみに俺はバンドも好きだし男性アイドルも嫌いではない。何事も一度自分で見て聞いてから判断するべきだと考えている。
「それじゃあ俺は先に行くから。俺と楠木がオタク友達だってバレるのはよろしくないだろ?」
「そうですね……。申し訳ないです。あ、あの、もしよかったら連絡先だけ交換してくれませんか?」
「……お安い御用だ」
その場はクールに振舞ってみせたが連絡先交換は予想外で相当驚いた。オタク友達になった上に連絡先の交換だなんて夢のようだ。
まあ楠木が並外れた可愛さだとしても日菜がいる限り心が揺らぐことはない。ただのオタク友達ってだけだ。
楠木と別れ、駅から学校に向かい歩みを進める。
俺のイヤホンから日菜の曲が聞こえない原因は判明した。
それなのに、相変わらずおれのイヤホンには楠木のiPhoneが接続されておりゆいにゃんの曲が流れている。
楠木がアニメオタクか……。いつも陽キャの集まりにいるからてっきりイケメンダンスグループとかアイドルとかそういうのが好きなのかと思ってた。人は見かけにはよらないもんだな。
俺は学校に到着し自分の席に座る。
しばらくしてから楠木も教室に到着し自分の席に座った。楠木が教室に入った瞬間から男女問わず皆がおはようと挨拶をし、自然と楠木の周りに輪ができる。
あれが本当の自分じゃないってんだから凄い。俺があの輪の中心にいると考えたら気持ちが悪くなる。
自分の好きでもない話を楽しそうに話さなければならないのだから。楠木も大変だな。
俺は今日もその輪には目もくれず風磨と楓の3人でアニメの話をしている。
「昨日の水着回、素晴らしかったですな」
「いやぁ、あれはすごいな。目の保養なんてレベルじゃなかった」
「あれは女子の私から見ても凄い。色々と、羨ましい」
朝っぱらから中々にぶっ飛んだ内容の会話をしている。
「こんな風にアニメの話できるのも風磨と楓がいてくれるからだよ」
楠木の話を聞いて、中学生の頃にアニメが好きと言ってクラスの女子から嫌われていたことを思い出した。
改めて風磨と楓の存在には感謝しなければならないと思うと自然と感謝の言葉が出てきた。
「そうだろ? お前が気軽にアニメの話できるのなんて俺たちくらいなもんだからな」
「ん? まぁ……そうでもないっちゃそうでもないけど」
「嘘つけ。見栄を張るな」
「うん。私も嘘は良くないと思う」
たしかに気軽に話が出来るのは風磨と楓しかいないが、それ以外のオタク友達出来たんだよね。今さっき。しかもめちゃくちゃ可愛い。
楠木がオタクであることは秘密なので風磨達にはこの事実を話すことが出来ない。
風磨達のことを信用していない訳ではないが、噂というのは光の速さで広まるものだ。
陽キャグループに楠木がオタクという事実がバレる危険性が高まることを考えれば黙っておくのが安全だろう。
まあ仮に楠木がオタクだってバレてもあの並外れた容姿なら偏見は持たれないような気がするけど。
というか、オタク友達って何すれば良いんだろうな。
楓は初めて見た時からこんな感じで明らかに隠キャの風貌だったため、楓が女の子だと意識をしたこともなければ緊張したこともない。
女の子の友達なんて初めてだしどう接して良いのかがいまいち分からない。
俺のイヤホンからゆいにゃんの曲が流れる原因は楠木のiPhoneが繋がっていたからだと判明したわけだし、正直なところもう繋がりはない。
連絡先を交換したとは言え、こちらからトークを送ることもないし恐らく向こうから送られてくることもないだろう。
そもそも隠キャの俺が楠木と話せたことが奇跡。この先関わることは恐らくない。俺はいつも通りの生活を送るだけだ。
休み時間も終わりに近づき、俺たちは会話をやめてiPhoneを弄っている。
すると、俺のiPhoneのバイブが鳴り通知が来た。画面上に表示されている通知には楠木と表示されており「こんにちわ」に可愛らしい顔文字が添えられていた。
あれ、俺の予想と全然違うんだけど。
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