第2話 謎の歌

 春休みも終わり昨日から新学期が始まった。


 クラス替えもあったがオタク友達の風磨と楓は同じクラスになったしこれまでの生活と大きく変わることは何もない。


 それは通学の時間も同じである。今までと同様、電車の中ではBluetoothイヤホンを使用して日菜の曲を聴く、はずだったのだが……。


 俺が装着しているイヤホンからは今日も日菜の曲ではなくゆいにゃんの曲が聴こえてきた。


 今日は昨日の様なミスは犯さないと2度も確認してから日菜の曲の再生ボタンを押した。

 それなのに俺のイヤホンからはゆいにゃんの曲が聞こえる。


  接続が悪いのだろうか? 一度Bluetoothの接続を切断し、もう一度接続する。

 それでもイヤホンから流れたのは日菜の曲ではなくゆいにゃんの曲だった。


 それから1週間、この現象に悩まされ続けた俺は毎朝ゆいにゃんの曲を聴いていた。


 なぜ俺のイヤホンからゆいにゃんの曲が流れるのか、ありったけの知恵を絞ったが答えは見つからなかった。


 しかし、改めて冷静になって考えてみると一つの可能性にたどり着いた。


 それは俺のイヤホンが誰かのiPhoneに接続されているというものだ。


 Bluetoothイヤホンは普通、ペアリングをしなければiPhoneと接続されることはないため、その可能性を排除していた。


 それに、俺が流した曲がiPhoneから鳴らないということは、俺のiPhoneにも誰かのBluetoothイヤホンが接続されていることになる。そんなことが起こりえるのか?


 なにはともあれ、俺のイヤホンに間違えて接続されるゆいにゃん好きのオタクを見つけ出さなければならない。俺は寿司詰め状態の電車の中で犯人を探した。


 これだけの高い乗車率の中、犯人を見つけるのは難易度が高いが、地道に探していればそのうち犯人に出会えるだろう。そう考え、血眼になって犯人を探した。


 オタク同士はなんとなく見た目でそいつがオタクかどうかを判断することができる。


 言い方は失礼だが、少し太った中年男性や細身のメガネをかけた人。あるいは少し髪の薄い人。そんな奴を中心に探してみたが犯人は見つからない。


 もう犯人を見つけることは不可能なのだろうか……。半ば諦めた状態で今日も電車に乗り込んだ。


 電車の中は相変わらずの超満員。おしくらまんじゅうをしているような感覚のまま学校の最寄駅へと向かう。


 辺りをキョロキョロと見回してみたが周りに怪しい奴はいない。今日もダメか……。そう思って下を向いた。


 すると、俺の前にいる身長の低い女子高生が開いているiPhoneの画面が目に入った。

 そこにはゆいにゃんのセカンドアルバムのジャケ写が写っていた。


 お、おおおお⁉︎ こいつが犯人か?


 こんな女の子がゆいにゃんを好きだっていうのか⁉︎ 女の子でゆいにゃんを好きなのは珍しいな。


 声優好きの女子高生。恐る恐るそいつがどんな顔をしているのか、目の前を覗き込む。


 俺はその女子高生の顔を確認しおもわず、えっ⁉︎ と思わず声を上げそうになるが口を押さえてギリギリでたえた。


 そこにいたのは俺と同じクラスの楠木祐奈だった。


 く、楠木? こいつってあれだよな。めちゃくちゃ可愛くて優しくておしとやかで誰からも愛される学校1の美少女だよな⁉︎


 じゃあ俺が流していた日菜の曲は楠木のイヤホンで流れているのか?


 楠木のiPhoneの画面にゆいにゃんのジャケ写が映っていたことから俺のイヤホンは楠木のiPhoneに接続されていたとみて間違いない。

 しかし、俺のiPhoneが楠木のイヤホンに接続されているとは限らない。思い切って楠木に直接聞いてみるか?


 いや、俺には楠木に話しかける勇気は無い。何か良い方法はないか、5分程考えて良い案を思いついた。


 仮に楠木のイヤホンに俺の携帯が繋がっていたとしたら、急に音量を上げたらどうなる? 大音量に驚いてイヤホンを外すはずだ。


 俺のイヤホンが本当に楠木のiPhoneに繋がっていたとしたら申し訳ないがやるしかない。


 てかこの方法もっと早く思いついていれば……。


 よし。やるぞ!


 俺は思い切って音量を最大にした。


 すると俺の前にいた楠木はひゃっ⁉︎ と声を上げてイヤホンを外そうと手を耳に持っていく。


 その瞬間、タイミング悪く電車が大きく揺れた。イヤホンを外そうと手を耳に持っていっていた楠木はバランスを取ることが出来ず、俺の方に倒れかかってきた。


「ご、ごめんなさい」


 上目遣いでこちらをみながら少し涙目で俺に謝ってくる。


 上目遣いはやめろ。なんだこの可愛い生き物。やばい好きになりそう。


「あれ、渋谷くん?」


 え、俺の名前知ってるの⁉︎ そう驚いたところで俺たちは目的の駅に到着し電車を降りた。


「あのーもしかして、もしかしてなんですけど。いや、本当にもしかして。もしかしなかったら本当に申し訳ないんだけど……」

「ふふっ。渋谷くんて面白いね」


 首を傾げキョトンとした顔で俺をみる楠木はあまりにも可愛く、むしろ目に毒だった。


「ゆいにゃんのこと好きだったりする?」

「……にゃ、にゃんて⁉︎」


 にゃんが移ってるぞ、にゃんが。

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