第44話 同盟

 結界に対策がほどこされているかと思ったが問題なく転移できた。


 誰かがいるかもしれないので、【完全バニシュ】の状態になっておいた。

 だが、その心配は不要だったので、姿を現し、セオドアに声を掛けた。


「突然、失礼するよ」

「おや、リュウ君じゃないか」


「こうして、部外者が結界の外と中を行ったり来たりしているが、つっこまないんだな」

「あの後、長老と話していたのだが、君については規格外の存在ということで、とりあえず気にしないことにしている」


「少しお願いがあって来たんだ」

「なんだい?」


「アンデッドになってどれぐらい経っているかわからない人間を元に戻すことはできるか?」

「僕にはそこまでの力は無いよ」


「あのフィンなら可能じゃないか?」

「それを、僕からお願いして欲しいということだね」


「いいのか?」

「君には感謝している。これからも娘をよろしくお願いするよ」


「任せてくれ」

「ちょっと待っててくれ」

「ああ」


 彼は目を閉じた。


「オーケーが出たよ。ただしやってみないとわからないみたいだ」

「ありがとう。どうすればいい?」


「長老にここに来てもらう」

「テレパシーが使えたんだな」


「皆、仲間のテレパシーは受信できて、自ら発信できる者も多い」

「最初に会った見習いのようなエルフはわざわざ長老に伝えにいくようなことしていたが?」


「そりゃ、みんな好き勝手発信してたら大変だろう。だから、重要なときだけという暗黙で、長老には特に気を付けるようにしているんだ」

「今はその重要なときだったのか」


「僕は一応ここに捕まっているわけで、これしか伝達手段が無いしね」

「それは仕方ないか」


「待たせたな。こうも早くそなたに会うとはな」


 フィンが現れた。

 やはり転移系の類と見て間違いない。

 魔法を生み出した種族なので、それぐらいできても不思議ではないか。


「こんな簡単に協力してもらえるとは思ってなかった」

「今や守り神でもある、彼のお願いだからね」


 その守り神が牢屋の中って複雑だな。


「では、まずは見てもらおう」


 イフニスを闇から召喚した。

 拘束などしていなかったが、その場に突っ立ったままで、とりあえず都合がいい状態だ。


「なんと醜い……、失礼。君にとって大切な人だったなら謝ろう」

「いや、赤の他人だ。定かではないが、まとまった金が手に入るかもしれなくてね」


「そなたなら、こんなことに固執せずともいくらでも財を成せるだろうに」

「手っ取り早く稼げるなら、それはありがたいことだ。それに、究極の聖魔法というものが見てみたくなってね」


「我らはお互いに興味を持っているようだな。では、友好の証として、このアンデッドを復活させてみよう」


 フィンが握手を求めてきた。


「同盟か。いいだろう。元々アリスの親がいるこの里に、危害を加えるつもりはなかったが、改めて宣言しよう」


 その手を握り返す。


「どうしても困ったことがあれば任せたぞ」

「ああ二言は無い。まあ今まで、ここでこうしてやってきたんなら、俺なんかの手を借りる必要は無いと思うけど……」


「この者に再び生を与えたまえ、【パーフェクト・リザレクション】」

「おお」


 ここが牢獄だということも忘れるほどに、心地よく神秘的な光に包まれた。

 名前からして、完全に復活しそうだ。


「リュウ、その者は間違いなく復活を果たした。しばらく目が覚めることはないと思うが、この光が消える前に然るべきところへ転移させてくれ」


 そうか、本当は知られてはいけない場所だからな。


「わかった。ありがとう」


 イフニスを闇に戻した。

 たしかに、生き返っている。


「満足いただけたかな?」

「充分だ。こんな簡単に生き返るとは思っていなかった。エルフはすごいんだな」


「そんなエルフ達を危機に陥れる者がいるとすればどうする?」

「え、俺?」


「ちがう。そなたが悪ではないことはわかっている」


 俺のなにを知っているのだろうか。

 信頼されているなら問題はないが。


「人間?」

「そうだ」


「そんな強いやついるか? この国で言えば、そんなに強い冒険者はそういないらしいが」

「それは冒険者の中で言えばだな。国があるだろう? この里は関わりが無いが」


「王国……そうか、王国に仕える戦士か」

「黒幕はそやつらを率いている大臣だ」


「大臣が一体なにをしようと言うんだ?」

「エルフ族を使った人体実験のようだ。人間兵器でも創るんじゃないかな」


「この場所が知られているのか?」

「それはないと思うが、彼らが本気になれば時間はそうかからないだろう。結界だけではどこまでごまかせるか」


「この国は平和だって聞いてたんだが、楽しめそうだ」


 ちょっと不謹慎だったか。


「そなたにも立場があるだろうから無理強いはしない。ただ、どんな些細なことからでもいいので、協力してくれないか?」


 断れない流れであるし、むしろ待ってましたという感じだ。


「もちろん同盟を結んだ仲だ。それに見合うことはしてもらったしな」

「決して無理はしないでくれよ」


「この後、国の施設に行く用がある。大した内容じゃないが、もしかしたら国とつながりができるかもしれない」

「それはいい」


「しかしどうやってそんな極秘事項を知ったんだ?」

「我々は外界と直接的に交わらない代わりに、闇魔法の調査員のように、情報収集という名目で様々なところに潜入しているんだ」


「へぇ、スパイのエリート集団だったんだな」

「スパイではない。接触せずに忍び込んでいるだけだ」


 じゃあ、日本人にしか伝わらないけどしのびだな。


「ところで、連絡は取りあうならここに来たらいいのか?」


『聞こえるかい?』

『テレパシーか』


 思わずテレパシーで反応してしまった。


「そなた、テレパシーが使えるではないか。しかも、我らが使うものより質がいいようだ」

「なんと! リュウ君、テレパシーも使えたのか!」


 セオドアが興奮気味に口を開いた。


「ああ、この里ではそんなに驚くことではないのだろう」

「転移にテレパシー、まだまだ隠し持ってそうだな」


 俺の言葉は届いていないようだ。


「これ以上は無い」

「それはウソだな。意地悪だったかもしれないが、たった今僕は普通の人間にはわからない、エルフ族の古い言葉で話していたんだ」


 ハメられてしまったようだ。


「ああ、言葉もわかることもある。だが、習得方法については教える気は無い」

「すまない。つい、興奮してしまって……」


 俺が少し語気を荒げたことに気付いたのか、落ち着きを取り戻してくれたようだ。


「いや、いいんだ。元はと言えば、俺が結界の中、勝手に侵入してきたのが始まりなんだから」

「ありがとう。アリスをよろしく。では長老、続きをどうぞ」


「というわけで、リュウ、そなたにも私とのテレパシーの使用を許可する。重要、もしくは、急を要する連絡には使ってくれ」

「わかった」


 テレパシーってルシア以外にも使えるのか実は気になっていたが、偶然にも学習できるとは。

 テレビのチャンネルや携帯みたいな感覚で、相手を切り替えて使えるのだった。


「里にまだ慣れない者もいるかもしれないが、少なくともここにいる二人ふたりは、いつでもそなたを歓迎しよう」

「ありがとう。では、行くよ」


 エルフの里を後にした。

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