第43話 究極の聖魔法
アリスが出勤した後、しばらく寝室に戻ってゴロゴロしていた。
家の持ち主である彼女を見送る形になったが、よく考えたら普通はありえない話だ。
さて、そろそろ彼女が受付で待機してくれている頃かな。
まずはレインに顔を出しておくとしよう。
俺のせいでさぞかし多忙になっていることだろう。
王都のギルド、その応接室へ転移した。
レインがこちらに気付くのを待つ。
「おう、来たか」
「やあ」
「忘れないうちに伝えておく」
「ああ」
「一気に話すが、メモを取らなくて覚えられるか?」
「大丈夫だ」
俺が記憶を忘れてしまうことはない。
それも特性である。
ただ、記憶していることを常時意識しているわけではないので、きっかけは必要だ。
「では、地下洞窟のネクロマンサーについてだが、国のほうは準備が整ったらしい。こちらの都合で決められるが、できるなら早くとのことだ」
「今日、この後でも俺はかまわないが?」
「決まりだな。今日ならいつでもオッケーらしい」
「わかった」
「で、山賊のジグをぶち込む牢も決まった。出発前に着いてきてくれ」
「わかった」
「それから、エレの町の件だ。捜索対象のイフニスを依頼主に引き渡すことが決まった」
「引き渡してどうするんだ?」
「最後に一目会って、それで終わりにするんだろう」
「助かる方法はないのか?」
「動いているとは言え、本来死んだ身だ。それがわかっているのだろう」
「方法はないということだな」
「いや、ないことはない。究極の聖魔法なら治るかもしれん」
「聖魔法?」
エルフの里で見聞きしたことは内密にする約束がある。
初耳感を演出しておいた。
「回復系の魔法は、厳密にいえば聖魔法だが、そんな程度ではアンデッドから元に戻ることはないはずだ」
「究極とは一体?」
「詳しくないので間違っているかもしれないが……」
「参考程度に聞かせてもらうよ」
「死んだ者をいくら回復しようが生き返らないのは
「……魂か?」
「そう、魂があの世へ行ってしまってるからだそうだ。そこで去りかけた魂を再び肉体に定着させれば復活というわけだ」
「時間が経つ程に難しいということか」
「その通り。死んで間もない場合なら、呼び戻しやすいんだろう。でもアンデッドのように、元の魂が冥界へ行ってるとなれば……」
「より困難だな」
もはや聖魔法のくくりではない気もする。
しかし、離れかけている魂であっても、呼び戻すには少なからず冥界との交渉が必要なのかもしれない。
冥界が物理的に存在するならば行ってみたい。
人々が創り上げた妄想であるか、精神世界とかそんな類なのだろうと思うが。
「呪いを解き、体を再生させ、魂を元に戻す。これは別に
「心当たりはあるのか?」
「はっきり言って無い。この国、もしくは、外の国で、宮廷に仕える者ならいるのかもしれないな」
「名も無き庶民に力を貸すことは無いか」
「この国であれば、可能性はゼロではない」
「と言うと?」
「イフニスはたしかにごく普通の冒険者だが、依頼主のガティは大商人の家のお嬢さんだったみたいだ。親が出せば金ならありそうだ」
「それで、この王都にもエレの町の依頼が、早いタイミングで流れていたのか」
「クエスト中に見つかった素材や道具の提供も不要だと回答があった。これも伝えておかないといけなかったな」
「なるほど」
「この件は、達成度によって追加報酬がある。もしイフニスが完全復活したら、一体どれぐらいもらえるんだろうな」
「なんだその顔は。俺が取ってきてやった仕事だと言わんばかりだな」
「お礼ならありがたく受け取らせてもらおう」
「いいだろう。レインのおかげであることに間違いはない」
「あ、本当にくれるんだ。優しいね~」
「ちょっと、この件で確かめたいことがある。ちょっと待っててくれ」
俺はエルフの里の、セオドアのいた牢の中に向かって転移した。
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