第39話 闇の力

 場は騒然となった。


 ひょっとすると、一足早く闇へ退場した二人ふたりのエルフは、弱いわけでもなかったのだろうか。


 大量の矢の雨が俺に降り注いだ。

 また、それかよ。


 俺は自身を闇門あんもんの状態に変えて、それら全ての矢を闇に吸い込んだ。

 その吸い込んだ矢を、逆方向に向かって闇から放出する。

 ちょっとだけ新技っぽいが、ただ勢いよく闇からものを出しているだけである。


「ひるむな!」

「たたみかけるんだ!」


 誰かが言い放った。

 そういうのは少しでも勝機があったときに言うセリフだと思うが。


 また最初からこいつらにも、俺が求めているものを説明しないといけないのだろうか。


「ぐっ、一体どうなっているんだ?」

「人間なのか?」


 魔法を反射する技ならありそうだが、物理的な矢をそっくりそのままの方向へ跳ね返す技は見たことないのだろう。

 それなりにいい反応を見て楽しむことができた。


 さて、このまま全員を闇に消すこともできるが、それだと何が起きたのか誰も理解できない。

 それでは意味が無い。


 丸ごと闇に葬るよりも危険性があるが、これを使うしかない。


「闇に散れ。【アンノウン・セイバー未知なる太刀】」


 体の前に突き出した右手で、出現させた闇刀あんとうをつかむ。


「気をつけろ!」

「ただの武器ではないかもしれん」


 警戒が高まる。


 いつもはこれを見せるとき、どうせ相手はいなくなる運命にあるため、細かい説明はしていない。

 しかし今回は初めて生存者となるわけである。

 闇刀あんとうに興味を示した者に、少し問いかけてみることにした。


「ほう、ではどんな武器だと思うんだ?」


「その黒きゆらめきは……まさか闇の力?」

「そんなはずない!」

「そうだ、最期の相伝者とともに魔導書も、まさに闇に消えたと聞いている」

「ひっそりと受け継がれていたとしても不思議ではない」

「それでもあの消えた二人ふたりについては説明がつかない」

「きっと高位の魔法だろう」


 すっかり身内だけで盛り上がっている。

 闇の力、魔導書、魔法……闇魔法といったところか。


「いつ答えてくれるんだ?」

「闇の使い手だったとはな」


「その表現なら正解だが、おそらくお前達の思っているものとは、性質は全く別物だ」

「認めるんだな」


「その表現においては認めよう」

「ならば、破滅をもたらす者よ。我らが責任をもってお前を殺してやろう」


「責任?」

「ああ、全ての魔法の原型は我らが生み出したものだ」


 そういう設定の世界なのか。

 アリスが調べた情報はどこまでかわからないが、人間と交流していた時代もあったのかもしれない。

 それとも、人間は盗んだのか別のルートで手に入れたのか……。


「そんなエルフ族に熱烈に歓迎してもらえるとは光栄だね」

「いつまで、そんな口がたたけるかな?」


 俺を取り囲む者達の雰囲気が変わった。

 おしゃべりの時間は終わったようだ。


 打ち合わせでもしていたかのように一斉に魔法の詠唱が始まった。

 自分達の里が壊れる心配は無いのだろうか。

 特殊な結界が得意なようなので、既に策は打ってあるのかもしれない。




「【ギガ・ライトニング】」

「【ギガ・フレイム】」

「【ギガ・アイス】」

「【ギガ・クエイク】」

「【ギガ・グラビティ】」

「【ギガ・ウインド】」

 ……




 ギガの次ってないのかな?


 魔法の衝撃で煙が舞う。


 煙の中から俺の姿が見えるやいなや、ざわめきが走った。


 衝撃は一定の空間の中に限定されているようだ。

 やはり結界の類が施されたのだろう。


「全く効いていない」

「ありえない」

「皆、全開で行くぞ」




「【テラ・ライトニング】」

「【テラ・フレイム】」

「【テラ・アイス】」

「【テラ・クエイク】」

「【テラ・グラビティ】」

「【テラ・ウインド】」

 ……




 新しいレベルの上位魔法のようだ。

 見た目の派手さは向上しているが、俺にとってはその程度だ。

 ただ、新鮮で見ていて楽しい。


 趣向を変えて、放たれた魔法ごと闇に転送してみた。


「なんだと!?」

「信じられん」

「魔法弓だ!」




「魔法弓、【テラ・ライトニング・ボウ】」

「魔法弓、【テラ・フレイム・ボウ】」

「魔法弓、【テラ・アイス・ボウ】」

「魔法弓、【テラ・クエイク・ボウ】」

「魔法弓、【テラ・グラビティ・ボウ】」

「魔法弓、【テラ・ウインド・ボウ】」

 ……




 大量の魔法の矢が降り注ぐ。

 同じように闇に吸い込む。

 さすがにやり返すと危険かなと思ったので転送したままだ。

 テラなんとかより上は使えないのか、控えているのか、おそらく見せてくれることは無いのだろう。


「少々危険だが、直接打ち込むぞ、魔法剣だ!」




「魔法剣、【テラ・ライトニング・ソード】」

「魔法剣、【テラ・フレイム・ソード】」

「魔法剣、【テラ・アイス・ソード】」

「魔法剣、【テラ・クエイク・ソード】」

「魔法剣、【テラ・グラビティ・ソード】」

「魔法剣、【テラ・ウインド・ソード】」

 ……




 やっと剣を交えるときがきた。

 俺だけ構えてやる気満々みたいな感じで放置されていたから、しまい込むべきか考えていたところだった。


「いくぞ!」


 腕や足がぶっ飛んでいかないように配慮しつつ、切り傷や刺し傷を程よく与えていく。

 ちょっと申し訳ないが、相手の剣もことごとく切り刻んだ。


「ぐぁっ」

「ぐっ」

「な、なんだ、あの切れ味は!?」

「俺の剣が」

「この世のものとは思えん」

「これが今に伝わる闇の力なのか」


 そのとき、どこからともなく声が聞こえてきた。

 テレパシーではなく、一方的な公開伝達みたいな感じ?


「そやつから離れよ」


「長老!」

「長老だ」

「皆離れろ」


 取り囲んでいた者たちが、一斉に俺から距離を取った。

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