第38話 無駄なあがき

「これはどうしたことですか?」

「人間がいるな」


 おそらく少しはマシな相手が出てきたようだ。

 里に部外者が侵入したことが、やはり予想外だと見える。


「気付いたらこいつが里の中に入っていたんだ」

「ほう、どうやって侵入したのか興味深いですね」

「早くここから立ち去れ」


「立ち去らなかったから、こうしてお前らが呼ばれたんじゃないのか」


「このひねくれた人間をたたきのめしちゃってよ」

「君は長老にこのことを伝えておいてください」

「こんなやつ、俺達なら一瞬だな」


 丁寧口調で落ち着いたやつは、それなりの実力者かもしれない。

 立ち振る舞いから気品が感じられる。


 あの下っ端みたいなやつは、この場から立ち去った。


「では行きますよ。【ライトニング・アロー】」

「俺はこれだな。【フレイム・アロー】」


 あまり内容が変わっていなくてがっかりだ。

 なんとなく、さっきのやつより勢いはあるような気もするが。


「なるほど、この一撃をものともしないとは。笛を鳴らすとは何事だと、きっとあの子のイタズラだと思って来てみれば、たしかにそうする必要はあったようですね」

「こいつ硬そうだな」


「おしゃべりは飽きているところだ。やるならさっさとかかってこい」


 下っ端エルフのように口先だけのやつらと遊ぶのは飽きた。


「潔いところは高評価ですね。魔法弓、【ライトニング・ボウ】」

「それでいくかな。魔法弓、【フレイム・ボウ】」


 さっきの威勢だけのやつように、魔法の付与された矢が俺に向かって連続で放たれる。

 ただ、さっきとは違うのは、こちらは弓に魔法を付与させているところだ。

 さっきのやつは一発ずつ、それぞれの矢に魔法を込めていたので、効率が悪そうだったが、この二人ふたりは比較的スマートな戦いかただ。


 でも、そんなことは俺にとってはどうでもいい。

 結果的には似たようなものだ。


「たしかに硬いですね。【ガードダウン】【スロウ】」

「俺はこれだな。【パワーアップ】【スピード】」


「効きませんか」

「こちらは強くなったがな」


 もう一度、連続で魔法弓を放ってきた。

 結果は同じである。


「合わせますよ」

「そうだな」


 今度は、二人ふたりの放った矢が空中で合わさり、互いに魔法が反応しながら俺に向かってきた。

 バチバチと炎と電撃が入り混じったすさまじい攻撃なのだろう。

 だが無駄なのである。


「お前らでは話にならないようだ。さっきここを離れたやつに、俺はマシなやつを連れてこいと言っておいたのだがな」


「随分なめられましたね、私達」

「仕方ないかもな」


「そろそろ本気で行きますか。魔法弓、【メガ・ライトニング・ボウ】」

「そろそろな。魔法弓、【メガ・フレイム・ボウ】」


 向こう側が手加減をしてくれていたようだ。

 なんだ出し惜しみしていたのか。

 なかなかじらしてくれるではないか。


 ただ、やはり嫌な予感がするのは気のせいか。

 おそらく強力になったのだと思われる魔法の付与された矢が俺に向かって連続で放たれる。


 予想通り全て俺に弾かれた。


「まだダメでしたか。魔法弓、【ギガ・ライトニング・ボウ】」

「もうちょいかな。魔法弓、【ギガ・フレイム・ボウ】」


 強そうな名前の魔法が込められた。


 それでもだめだ、こいつら。


 同じく放たれた矢は全て俺に弾かれた。


 二人ふたりは弓を構えるのをやめ、帯剣を引き抜いた。


「剣にしましょう。魔法剣、【ギガ・ライトニング・ソード】」

「それだな。魔法剣、【ギガ・フレイム・ソード】」


 二人ふたりが左右から俺を切りつける。

 それをギンと弾く。


 結果を受け入れられないのかしばらく、二人ふたりとも無駄なあがきを続けていた。


 しばらくすると三十、いやもっとたくさんの里人が周りに集まり出していた。

 ようやく正式に歓迎してもらえるようだ。


「闇に眠れ。【ジ・エンド・ゲート終わりの門】」


 目の前にいた二人ふたりは闇に消え去った。


 殺しはしない。

 後から元通りにすれば、なにも問題無いのだから。


 侵略者みたいな演出になるが、こうでもすれば、今この里が置かれている状況を理解してもらえることだろう。

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