第37話 いっちょ前

 あのエルフの里へ転移した。

 どこが玄関かわからないが、前回通った里の外れと思われる位置にきた。

 さすがにど真ん中は失礼かもしれないからな。


 やはり同じような光景があった。

 スリルを少しでも味わうために闇霧あんむは放っていない。


 今回は闇討ちしにきたわけではないので、正体を現す必要がある。

 相手を生かして説得するというのは一番難しいところだ。


 破られることを想定していないであろう結界をすり抜けてきた者が現れたとしたらどうなるか。

 怪しくないと主張しても、意味をなさないだろう。


 ここは力を示すしかない。

 支配しようと思えば簡単にできるんだと。

 だが重傷を負わせたり殺したりもせず、一戦を交えた後に対話をしにきたと主張するのだ。


 力量の差があれば、相手はそれに応じるしかない。

 これが俺の描いた単純なシナリオである。


 程無くして、どこからともなく勢いよく一本の矢が飛んできた。

 部外者は問答無用で排除されるルールのようだ。

 さて、どんなパターンで遊ぼうか。


「何者だ貴様」


 矢を飛ばしてきた者だろうか。

 俺と少し距離を取った位置まで近づいて話しかけてきた。


「とあるエルフの友人で、その父親を捜しに来たんだ」


 これで話がもし通じれば、お楽しみは終了となってしまうが……。


「人間に語ってやれることはなにもない」

「友人というのが人間とのハーフエルフなんだが」


「三つ数えてやる。すぐに失せろ」


 どうやって入ってきたかは追求しないのかな。


「友人との約束で引き下がるつもりはない」

「三……」


「誰か話の通じるやつはいないのか?」

「二……」


「おい、誰か他にも見ているのだろう?」

「一……」


「俺が敵じゃないことぐらい、さすがにわかるだろう?」

「死ね!」


「無駄だ」

「なにっ?」


 二本目の矢も一本目と同じく闇に吸い込んだ。


「どうした? もう終わりか?」


 話が通じない以上、ちょっとは楽しませてもらいたい。

 相手を苛立たせる言動をあえて取ってみる。


「はっ!」


 今度は三本の矢が勢いは変わらず飛んできた。

 しかし、同じように闇に消えていくのみだ。


なんだそれは?」

「はぁっ!」


 今度は五本の矢が勢いは変わらず飛んできた。

 しかし、結果は同じだ。


「おいおい、さすがに理解してくれ。一本で全くダメだったことを三倍に増やしたところで無駄だということを。ゼロになにを掛けようがゼロなのだ」

「フッ、少しはやるようだな」


 いや、お前が言える状況ではないだろう。


「俺はさっきからなにもしていない」

「怪しげな術を使いやがって、きたないやつだ」


「残念だがこれは俺の本来の状態なのだ」

「性根まで腐ってやがる」


「もう終わりじゃないだろうな? 打つ手が無くて、おしゃべりで時間を稼いで策でも練るつもりか?」

「まぁまて、お前をどのように葬ってやるか、今考えていたところだ」


 エルフって見た目は美しいが、心はそうでもないのかもしれない。

 こいつがたまたまそうなのか。


「ほう。どんなふうに歓迎してくれるんだ?」


「【パワーアップ】」

「【スピード】」


 嫌な予感がする。


「くらえ!」


 さっきまでよりも勢いよく、十本の矢が飛んできた。

 勘弁してくれ。


「悪いが、これ以上お前にはつきあっていられない」

「なんだと?」


「わかるだろう、ここまでの流れで。何度も言わせないでくれ」

「その卑怯ひきょうな術を解け」


「お前はこの里の見張り番かなにかだろう?」

「それがどうした?」


「よくこれまでそんな程度の力で務まっていたものだ」

「ほざけ!」


 十本の矢が飛んできた。

 また同じことが繰り返されただけだ。


「喜べ。特別大サービスで、お前が術と言っているものを解いてやったぞ」


 どうせまた同じことになりそうだが、いい加減早く諦めて誰かを呼んでほしいのだ。


「馬鹿め。秘技【フレイム・アロー】、乱れ撃ち!」


 炎をまとった矢がぎこちなく連続で放たれた。

 しかし、それだけだ。


 全ての矢は弾かれて地面に落ちていく。

 俺は自らの密度を高め、物質として、相手が接触可能な状態にしてやった。


「なんだと!?」

「言っているだろ。誰かマシなやつを呼んでこい」


「この笛を吹いたら、貴様は地獄を見る」


 こいつはお手伝い程度だったということだろう。

 強い憧れでもあったのか、セリフだけはいっちょ前だった。


「それを早く吹け」


 ピーっと普通に笛が鳴った。


「へっ、俺に勝てたぐらいでいきがりやがって。あとで吠え面をかくなよ」

「それは楽しみだ」


 しばらくして、二人ふたりのエルフが目の前に現れた。

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