第36話 世界で一番安全な場所

「おはよう!」

「おはよう」


 テーブルのあったリビングに行くと、まだ部屋着姿のアリスがいた。


「よく眠れた?」

「ああ、爽快な目覚めだったよ」


「ミレイヤから寝てないらしいって聞いてたから心配してたのよ」

「ありがとう」


 いや実は結果的には二日連続しっかり眠っている。

 寝なくても平気だとか言っておきながら、結局のところ。


「昨日のウサギちゃんの肉がまだ残っているから、ブランチはハンバーグにするわ。好きでしょ?」

「よくわかったな。まさか俺の心が見えたのか?」


「見えはしないけど、だいたいわかるわ」

「別にいいんだが、早く行きたくないのか?」


「ちょっとぐらいゆっくりしてもいいんじゃない?」

「どんなことが起こるか予測不能だ。決まった時間の中で最後にギリギリに焦らされるのが好きではない」


「わりとせっかちよね」


 せっかちはモテないんだったか。


「さっさと終わらせて、早く終わればランチ、遅くなればディナーとして楽しませてもらおう」

「わかったわ。昨日たくさん食べたし私は大丈夫よ。じゃあすぐ用意するわ」


 彼女は自分の部屋に用意しに行った。

 どんな服装をするのだろう。


 料理に関してはなかなかの手際だったが、果たして出かける準備についてはどうかな?




 ほどなくして、彼女は用意を済ませて現れた。

 おめかしの手際もよさそうだ。


 セクシー度が高めな服装だが、これは彼女の冒険者のときの正装なのだろう。

 だいたいはあの里で見かけたエルフのイメージに近くて、なにより合っている。

 人間の文献を頼りに、独学でファッションまで学んだのだな。

 調査した人間が有能過ぎる。

 もしかしてエルフから漏れた生の情報ということもあるだろう。


 なんにせよ涙ぐましい努力だ。

 本能的にというか、直感に従っている部分もあるかもしれない。


「そんなにジロジロ見られると、ちょっと恥ずかしいわ」

「これは失礼」


「リュウって初めて会ったときに、私のこと少しエッチな目で見てたでしょ?」

「観察してたかもしれないけど……そう見えてたのかな?」


「な~んてね」

「今は少しそんな目で見てしまうが許してくれ」


「私を見て興奮してくれてるの?」

「ああ興奮している」


「ウソくさいわね。本当に興奮している人のテンションはそんなんじゃないわ」

「そう言われても、保証することはできないからな」


「それじゃあ行く前に、ちょっと作戦会議をしましょうか」

「作戦なんかいるか?」


「そりゃハーフの私が急に現れたら騒ぎになるんじゃない? リュウは、人間だし」

「どうするつもりなんだ?」


「まずは低姿勢が基本よね。私たちは危害を加えにきたわけじゃないんです、って感じで」

「俺は手っ取り早い方法を考えている」


「乱暴なことだけは絶対ダメだからね!?」

「相談しても却下されるだろうから、賛同を求めてはいない」


「え、ちょっ」


 アリスを闇に送った。

 そこは世界で一番安全な場所なのだ。

 必ず守ると約束しているのだ、安全が確保されるまでは、そこでおとなしくしていてもらう。


 世界で一番安全ではあるが、取り込む相手によっては世界で一番危険な場所となる。

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