第26話 作戦Z
「だった? 今は冒険者ではないのかい?」
ネクロマンサーがジグに問う。
召喚された二匹のフォレストボアーエリートアンデッドは静かにじっとしている。
「今はただのごろつきだ」
ジグに後の展開を任せたと思われる他の三人は様子を見守っている。
「活動していないだけでランクはDということだね」
「いや、除名されたんだ」
「それはまたどうして?」
ジグの顔が一瞬笑ったように見えた。
相手が話に食いついたからかもしれない。
ジグは三人のほうを見て、これから話すことを目で伝えたようだ。
三人もうなずいて応えている。
「下級の冒険者をハメて、事故を装い金品を強奪していたのがバレてしまったんだ」
昔から
「いけない人達だったんだね」
「あんたには言われたくないがな。ギルドを知っているならわかると思うが、冒険者同士の無断での決闘やそれに順ずる行為は、厳しい罰を受けるのさ」
「死人に口無しではないのかい?」
「知らないのか? IDカードには位置の発信機能が付いている」
おっと、それは聞いてないな。
「IDカードもろとも葬ったらよかったのに」
「ギルド側にログが残っているから無駄だ」
そこらへんはレインが専属として、うまいことやってくれているのかもしれない。
「そこまでわかっているのに、君達は間抜けなんだね」
「そう、へまをやらかしてしまったのさ。あの日――」
「オッケー、その話はもうけっこうだよ。それで、今の実力をランクで表現するならどれぐらいだい?」
「そうだな、この四人で活動すればCランクにはなれるとは思う」
「ではそのCランクの冒険者として答えてもらいたい。最初の十体のアンデッドは強かったかい?」
「一匹ずつなら、俺達ならなんとかなるが、数が増えるとキツイな。今回は状況も込み入ってたというのもあるが……」
「だよね。僕もそばで見ていたからわかるよ」
「あいつら元はゴブリンとリザードマンだろ?」
会話が途切れないようにジグが続ける。
リザードマン、名前当たってたな。
「その通り」
「防御力は落ちているというべきか、防御面を無視しているというべきか、こちらの攻撃が通ったのが救いだった」
「低級のアンデッドに痛みや死の恐怖は皆無だからね」
死の恐怖って、もう死んでるだろ。
「だが、素早さと攻撃力は格段に上がっていた。あいつらはあんたに修復されるが俺らは強い一撃をもらったら終わりだからな。あれで知能が高ければ完全に死んでいたな」
「君達のおかげでいい情報が手に入って大変うれしいよ」
「俺達を見逃してくれるのか」
「もう一度僕を楽しませてくれたなら考えよう」
どこまで本気かわからないが、こいつら四人は従うしかない。
雰囲気的に力の差がありそうだ。
ここまでのジグの行動を見る限りは玉砕覚悟でネクロマンサーに挑むつもりもなさそうだ。
「やはりそうきたか。だが選択肢は無いようだな」
「あ、興味本位で一つ聞いてもいいかい?」
「かまわない」
「最初そこにいる先頭で仕切っていた体の大きい人が、いわゆるリーダー的存在だと思ったんだけど、どうやら君がリーダーだったんだね」
「明確には決まっていないが、しいて言えば俺がリーダーだ。こいつのほうがそういうのが好きだから、普段は任せているが、緊急事態のときは俺が仕切る」
そういうことか。
裏番長みたいな感じ?
「なるほどね、じゃあいくよ」
待機していた二匹のフォレストボアーエリートアンデッドが四人に襲い掛かる。
「作戦Mだ」
それは、二手に分かれる作戦だろ。
説明の短縮なら意味があるが、暗号として使っているなら、バレバレだと思うけどな。
予想通り、二手に分かれて戦っている。
ジグとリーダー代理はそれぞれに分かれている。
四人のうち、この
さっきより数が少ない分いい戦いのように見えるが、完全に疲れが回復していないせいか、魔物のほうが押している。
ゼイルよりは強い気もするが、自称Cランクって言っても成り立てのレベルだろうか。
もしかしたらフォレストボアーってわりと強いのかもしれない。
しかもエリートで、このネクロマンサーがプロデュースしたアンデッド達は攻撃能力が向上するらしいからな。
「ダメだ、火力が足りない、作戦Nだ」
ジグとリーダー代理がペアを組んだ。
「お前ら、持ちこたえてくれ!」
ジグが残りのペアに向かって叫ぶ。
「「おう!」」
攻撃力を集中し敵をひるませつつ一気に仕留めにかかる作戦か。
アンデッドだから、ひるむことはないようだ。
ただ、一匹を早く片付けたほうが、効率はいいかもしれない。
「【スロウ】【ガードダウン】【パワーダウン】」
ジグがサポート系魔法を連発する。
レベルは知らないが、幅広く習得しているようだ。
二匹の素早さと、おそらく防御力と攻撃力も下げたのだろう。
この程度なら誰でも不要なのかもしれないが、詠唱とかも無しに連発するのって、すごいことではないだろうか。
「足を狙って動きを止めるぞ」
「おう!」
リーダー代理もジグに合わす。
狙い通り足を破壊し、首を切り落とした。
まだ動いているが、ジグ達は残りのペアに合流した。
「よく持ちこたえた」
同様に足から破壊し、首を切り落とした。
その後、解体された二匹は行動不能となり、しばらくして動かなくなった。
「どうだ、楽しんでくれたか?」
「君達、
ジグの表情が険しくなる。
「どこにも余裕なんて無かった、見ていただろう? 俺達からすれば、こんなもんでも貴重なんでね」
ネクロマンサーに試験管のような容器に入った青色の液体を見せつけるようにして、ジグはそれを飲み干した。
もしかしたら詰め替えているのかな。
「さあ使ったぞ、これでいいんだろ?」
「わかってないなぁ。もっと生死をかける瞬間を僕に見せてほしかったんだ」
そう言うと、ネクロマンサーは右手の人差し指を前に突き出し、ジグ以外の三人に向かってレーザー光線のようなものを放った。
「うぐっ!?」
「がっ!?」
「おうっ!?」
「ウソだろ?」
ジグは三人に駆け寄るが、一言も話しかける様子はない。
ほぼ即死状態だったようだ。
「少しでも貴様を信じた俺がバカだった」
「そう、その顔だよ。さっきよりもいい表情になったね!」
ジグは無言で先ほどとは違い、黄色の液体の容器を手にして飲み干した。
「なんだ、奥の手があったんじゃないか。早く使っていれば、仲間も助かったかもしれないのに」
「うるさい」
「この三人は君のせいで死んだ」
「黙れ!」
「この三人は君が殺したも同然だね!」
でも自爆とかしたら、証人でありウィリアムの秘密を知るかもしれないという重要参考人を失ってしまう。
では、そろそろ閉幕としよう。
大切な予定も控えているしな。
討伐対象も殺したくないので、致命傷とはならない程度に
「うげぇ!?」
ネクロマンサーの両手首と両足首を切断した。
血を吹き出しながら、その場にのたうち回っている。
見えない真打からの
ではこれより、作戦Zを開始する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます