第25話 虫かご地獄
【完全バニシュ】状態で、洞窟へ転移した。
戻った先は、ゴブリンとリザードマンのアンデッドを切り刻んで放置しておいた十七階層の開けた空間だ。
念のため状況が変化していないか確かめに戻ったのだが、しっかり変化は起きていた。
肉片と化していたアンデッド達が命までは復活していないが、半数以上がアンデッドとして形を取り戻していた。
灰色のローブを着た何者かがその場にいた。
どこから出てきたのかはわからないが、近くにいたか転移したかのどちらかだろう。
アンデッド達に自動修復機能があったわけではなく、どうやらこいつが修復しているようだ。
こいつが一番の黒幕ではなかったにせよ、明らかに関係者であることは間違いない。
依頼達成の条件としては、討伐の他に、捕らえるという選択肢もあった。
拘束して身柄を引き渡せば報酬は上がるようだ。
しかし、相手はネクロマンサーと思われ、奇怪な魔法や能力を使うことも予想されるので、命に危険を感じれば討てとのことだ。
大きな力の差がなければ、殺すよりも拘束して捕まえるほうが難しい、……一般的には。
捕まえるということは、尋問でもするのだろう。
国からの依頼だが、いい仕事をすればそのうち指名がくるかもしれない。
さっさと捕まえて終わりにしてもいいが、引き渡して終わりではなく、どんなやつだったかある程度見定めて、その情報を提供してやろう。
せっかく優秀な人材をそろえたので活かしてみるか。
アンデッドの集団と戦わせて様子を見るつもりだったが、いきなり親分が登場してくれるとは。
この洞窟は特殊な鉱石の放つ光により、ランプや
光の心配は無いが、登場の仕方をどうするべきか。
いきなり目の前に現れたら、敵も怪しむだろう。
どうせ山賊達はパニックを起こして、洞窟へ探索しにきたわけではないことぐらい気付かれるだろうが。
せめて自分達の足で進んで、このアンデッドハウスとでも言うべき開けた空間に踏み入れて欲しい。
道の分岐点から真っすぐ進んで最後に左に曲がると空間の入口へ通じていて、
そこで分岐点に闇を経由して頑丈な岩壁を転送することで、閉ざされたエリアを作った。
分岐点近くのスタート地点へ四人組のほうの山賊を配置する。
「もっとスピードを上げろ! ……って、あれ?」
「ん?」
「え?」
「どこ?」
異様な状況に置かれると人は、うまく行動できないのかもしれない。
考えていても、前に進む以外に文字通り道は残されていないというのに。
「俺達、あの山にいたよな?」
「「「うん、うん!」」」
他の三人はうなずく。
「で、安そうなやつを襲ったよな?」
「「「うん、うん!」」」
やはり安く見られていたようだ。
「で、めちゃくちゃすばしっこくて、苦戦してたよな?」
「「「うん、うん!」」」
「で、それは予想外だったものの、いつもの決まり文句を言ったよな?」
「「「うん、うん」」」
「で、ハメようと思ったが、うまくいかずに作戦Bの魔法をかけたよな」
「「「うん、うん!」」」
「で、あいつには効いてなかったよな?」
「「「うん、うん!」」」
「……で、ここに来たよな?」
「「「……うん」」」
「……どういうこと?」
「「「……う~ん」」」
長めの一本道で、距離はあいているが、あのアンデッド部隊が敏感なら、向こうからこっちにくるかもしれない。
それでもかまわないが、大量のアンデッドを発見して驚くところが見てみたい。
人を襲うような連中なので、冷めているというか反応は薄いかもしれない。
頭の緩そうな会話を聞いている限りでは、少し期待できそうだ。
「とりあえず出口を探すそう」
「あっちだな」
「そうだな」
「あれ?」
「どうした?」
「この壁の光は……あの地下洞窟じゃないか?」
「たしかに、見覚えがある。ジグ、やっぱお前天才だな」
「しかし出口を見つけることに変わりない」
「そうだな」
この洞窟には来たことがあるようだ。
あの無口な魔法を使っていたやつだ。
ジムというらしい。
状況を冷静に分析できる、少しは優秀なやつのようだ。
先頭でみんなを引っ張っているリーダーのような一番体格のいいやつは、賢いとは言えなさそうだ。
一行はアンデッドハウスの手前の曲がり角に差し掛かった。
「おい、見てみろ」
小声のリーダーに続いて、三人が空間を壁からのぞき込む。
「やばそうなのがいるな」
「アンデッドか。そういえばウィリアムさんが言ってたような気がするな」
ん? あのウィリアム?
冒険者の登録名は全国のギルドで一意と決まっている。
かぶってしまう場合は、名字を付けるなどして調整するのだ。
俺が知っているあのウィリアム本人からは、名前しか聞いてなかったな。
知識や情報を持つこの優秀そうなやつは、活かしておくと面白いことがあるかもしれない。
「
「【パワーアップ】【ガードアップ】」
そんな魔法も持っていたとは。
ジグってちょっとすごいんじゃないのか。
「行くぞ!」
「「「おお!」」」
アンデッドハウスでは、残すところ後二匹の修復が終われば十匹全てが元通りになるところだった。
ネクロマンサーは驚く様子も無く、気にせず修復作業に集中している。
奇襲が成功したのか、ゴブリンアンデッドの一体は仕留められたようだ。
わりといい連携を取っているように見える。
「次だ」
「「「おう!」」」
しかし、取り囲まれ動きづらくなっている。
「通路に引き付ける!」
「「「おう!」」」
作戦を言ってしまうタイプのようだ。
「ぐああ!?」
アンデッドハウスから出ようとしたリーダーに電撃を受けたような衝撃が走っている。
「大丈夫か?」
「ああ、なんとかな。クソッ、出口をふさがれたようだ……って出口はどこだ?」
「まずはあいつらを片付けるしかなさそうだな」
さすがジグ、落ち着いている。
俺が見込んだだけの男ではある……この四人の中では。
出口は来た道を戻った先だけど、今は出口じゃない。
虫かごのような地獄だ。
「作戦Eだ」
「「おう!」」
「いや、作戦Mだ。あの真ん中にいる怪しげなやつは動く気配がないから後回しだ」
「「「お、おう!」」」
ついにジグがリーダーを
襲い掛かる敵に二手にわかれて、応戦する。
大したことない作戦だったようだ。
こいつらは、山賊ごっこでもして自らに酔っているのか。
ふざけているというか滑稽というか、見ている分には楽しいのだが。
「こいつらしぶといが、もろいし動きも単調で慣れれば大したことはない、いけるぞ」
「「「おう!」」」
やはり魔力なのか呪力なのか、それの関係で元の個体の性能とは異質になっているようだ。
ネクロマンサーは、倒れたアンデッドを修復していく。
「らちが明かないぜ。顔や首をやってもダメなのか」
てこずりながらも、致命傷を受けることなく山賊チームは、敵の数を減らしていくが、修復によって思うように一掃できない。
リーダーは苛立ち始めている。
「おい、まだ手を出すな」
ジグが制する。
突然瞬間移動したというパニック状況の中、アンデッドに遭遇し、普段の力が発揮できていなかったようだが、徐々に調子が上がっているように見える。
ついに、活動しているアンデッドの最後の一匹を仕留めた。
四人とも息を切らしていて、体力の消耗が激しいようだ。
「お見事。さっきもこいつらを刻んでくれたのは君達かい?」
ネクロマンサーは、修復作業を中断し口を開いた。
男の声である。
はっきり姿が見えなかったので、既に
ちなみに魔力が感じられなかったので、隠蔽か偽装をしているのだろう。
俺にも見破れないこともあるようだ。
「知らねぇよ! もう全くわけがわからないぜ」
リーダーは泣きそうな表情になってきた。
「やはり違うようだね。君達の力では付けられない、それは見事な切り口だったよ」
「俺達をどうするつもりだ、出口はどこなんだ?」
ジグの目は死んでいない、いいぞ。
「そう慌てなくてもいいじゃないか。せっかく遊びにきたんだ、ゆっくりしていきなよ」
すると、ネクロマンサーの前にフォレストボアーエリートアンデッドが二匹登場した。
「二匹か、マジでなんなんだよ!」
リーダーの感情はもはや暴走寸前か。
一匹ならなんとかなったのかもしれない。
「今の君達には少し厳しいかな?」
やつもこのイベントを楽しんでいるようだ。
「やるしかない、作戦M、続行だ」
「「「おう」」」
ジグが皆を奮い立たせる。
抵抗むなしく、四人は立っているのがやっとの状態になった。
だが、二匹はとどめを刺そうとしない。
「君達、ランクはどれぐらいだい?」
「答えたら助けてくれるのか?」
「どうだろう、余程貴重な意見がもらえたら考えてもいいかな? 後、ここで起きたことは絶対秘密だよ」
「わかった、質問に答える」
どうやらジグは時間稼ぎに出たようだ。
見逃してくれないことぐらいは気付いているのかもしれない。
他の三人も意図をくみ取ったのか、任せるようだ。
「俺達はDランクの冒険者だった」
果たしてウィリアムの話は出てくるのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます