第24話 山賊狩り

 ずっと気になっていたことがある。


 十七階層以降にフォレストボアーのアンデッドがいるのだ。

 名前からして森に生息していると考えるのが普通だ。

 だとすれば、わざわざ他の場所で捕まえたか殺した魔物をここに運んでいることになる。

 大きさからすると、エリートのクラスかもしれない。


 この場合は、フォレストボアーアンデッドエリート?

 いや、フォレストボアーエリートアンデッドか。


 他にも、西の森林で見かけたサルやキツネもいる。

 名付けに凝らないようなので、フォレストモンキーとフォレストフォックスといったところだろうか。

 それらも同様にアンデッド化している。

 そして大きさから見て、無印のクラスではなさそうだ。


 ゴブリンやリザードマンも連れてこられたのかもしれない。


 この洞窟に関する過去の報告のまとめ資料によれば、ここはアドリニス王国領内においてトップクラスの強い魔物が出現する場所とされている。

 残念なことにレアアイテムや財宝といったものは発見されていないらしい。

 魔物についてもお宝についても、探索できている範囲ということなので、もしかしたら未探索エリアに新発見の可能性はある。

 ちなみに、魔素が多く魔物が定期的に発生するため、ダンジョンという扱いになっているようだ。


 そんなロマンあふれるダンジョンには、ただの命知らずか、レベリング目的や素材狙いの上級者が利用することがあるそうだ。

 浅い階層であれば、なんの変哲も無いただの洞窟なので、新人冒険者でも有効活用できると思ったが、やはり俺の考えや基準はずれているらしい。

 というのも、ケイブバットやケイブスパイダーなど、毒を持った魔物が多いところは耐性か装備が整っていないと厳しいようだ。

 言われてみれば、敵が死んでもくらった毒は残り続けるから、ある意味では打撃や魔法よりも厄介ではある。


 そんなダンジョンに作り出したアンデッド部隊を配置しておく意味とはなんだろうか。

 ここで保管しているだけなのかもしれないが、見つからないように隠しているとは思えない工夫の無い配置となっている。

 たしかに俺は反則的な能力で、周囲の魔物を発見できるが、凡人でも普通に探索していれば見つけられるレベルだ。


 とすると、なんらかの実験が行われているのかもしれない。

 ここにいるネイティブな魔物と戦わせるのか、ここにやってくる冒険者達と戦わせるのか。


 さっきネイティブではない俺の持ち込みの魔物とは戦わせてみたが、変わったことは起きなかった。

 では生きた人を連れてきたら何か起こるのだろうか。


 魔力も闘力もゼロな見た目最弱な俺が姿を現したとしても、あまり意味がなさそうだ。

 しかし、ギルドの冒険者に実験台になってくれというのもさすがに……。


 一つ案が浮かんだ。

 とある人材センターから手配しようと思ったのだ。


 さっそく俺はその場に向かうべく、エレの町の近くの上空に転移した。




 南北に長くそびえるアドリニス山脈の上空まで飛行する。

 ミレイアの教えてくれた山賊を地下洞窟に送りこもうという考えだ。

 悪人なら気をつかう必要もないだろう。


 獣道ではなく、王都から町につながる何本かのわだちがあるような道がいいだろう。


 転移の際に解除した闇霧あんむを再び常時発動した。

 いちいち切り替えずに転移しても問題ないとは思うが、予期せぬ現象が発生しても困るので、なんでもかんでもやり過ぎないようにしている。


 しばらくすると、帯剣している怪しい四人の男を見つけた。

 貴族や町人ではなく荒くれ者であることは間違いなさそうだ。

 道のかたわらの木や茂みに二人ふたりずつ両側に分かれて身を隠している。


 俺も少しは有名人になっているかもしれないので、身元は隠したほうがいいかもしれない。

 西の森林の洞窟で拾ったベージュ色のローブを身のまとい、フードをかぶった。

 これだけだと、ただの遭難者に見えるので、弓矢を闇から引き出し、背中に掛けた。


 俺はそいつらから少し離れた位置に降り立ち、姿を現して歩いて近づく。


 位置を把握しているからかもしれないが、視線を感じる、ような気がする。

 これは闘力を感じる第一歩として捉えてもいいのだろうか。


 判断できる限りの魔力は二人ふたりは、地下洞窟の浅い階層にいた魔物並だ。

 残りの二人ふたりはそれよりも多い。

 魔物とは違い戦闘体勢に入れば、変化するかもしれない。


 うれしいことに、四人は貧乏そうな見た目の俺でもしっかり襲ってきてくれた。


「ちょこまか逃げやがって」

「だがいつまでそうやっていられるかな?」


 しばらくは攻撃をかわして観察してみる。


「すばしっこい野郎だ」

「だが、この間合いじゃその自慢の弓も引けないようだな」

「金目のものを渡せば命だけは見逃してやろう」


 その言葉が合図だったのかのように、四人の攻撃が止まり、それぞれ俺から距離をとった。


 嫌味だと思うが、やつらの目に留まった自慢の弓を献上してみるか。

 ゆっくりと背中から外して、弓と矢を地面に置いて離れた。


「こいつバカじゃねぇのか」


 どうやら脅しだけではなく、結局殺しにくるようだ。


「【スロウ】」


 もう少し観察していると、一人ひとりが魔法を放ってきた。


「【スピード】」


 自分達にも魔法をかけている。


 やつらはたしかに素早さが上がったと思われるように動きが速くなった。

 逆に俺の素早さは下がって、圧倒的不利な状況となるはずだったのだろう、本来ならば。


なにをやってる!?」

「こいつ効かないみたいだ」

「耐性持ちか」


 俺は相変わらず四人を上回る速度で攻撃を回避している。


 いい働きを見せてくれそうなので、全員闇に招待した。


 もう少し人材を確保しておきたいところだな。




 弓を回収し、しばらく姿を消して探していると怪しい三人組を見つけた。

 さっきはついつい遊んでしまったので、手短に済ましておこう。


 四人のときと同じように姿を見せて近づく。

 貧乏そうだがポーション水薬ぐらいは持っていそうな冒険者には見えるだろう。


 俺の頭を目掛けて矢が飛んできた。

 まともなやつらではないことがわかった。

 これなら地下洞窟に連れていっても問題なさそうだ。

 この三名も闇に招待することにした。


 ひとまずは、これぐらいでいいだろう。

 地下洞窟へ戻るとしよう。

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