第21話 癒やし

 受付に行く前にどんな依頼が出ているか掲示板を見た。


 高ランクで面白そうなのは、……レインも言っていた地下洞窟の依頼がある。

 概要欄には『近頃地下洞窟内でアンデッドの目撃例が多発している。中には人の姿もあり、何者かの仕業の可能性が高い。外界に影響を及ぼす前に元凶を討て』とある。

 詳細の欄にもほとんど情報も無いので、調査してついでに討伐してねって感じだな。


 ミレイヤの言っていた西の森林の情報も最近になってという話だったが、なにか関係しているのだろうか。


 とりあえずは、Fランクのときみたいに一気に並行して依頼を受けないようにしておこう。

 止められるのが目に見えている。




 受付に着いて、フォレストボアーの伝票をアリスに渡した。


「レインさんの読み通り、着実に大物に近づいているようね」

「こんな小銭を稼いでいるようではまだまだ小物だと思うが」


「いや十分でしょ。そんなに贅沢ぜいたくして暮らしたいんだ」

「大金持ちになりたいんだ」


「一緒だと思うけどなぁ。はい、処理したから金額を確かめてね」


 IDカードのステータス欄の残金には問題なく振り込まれていた。


「問題ない」


「ミレイヤから注意されたんだけど、私のせいで困らせることがあったならごめんなさい」

「ミレイヤにも言ったが、全く問題ない」

「そっか、それならよかった」


 この笑顔を超える癒やしを、俺はまだ知らない。


二人ふたりともよくやってくれている。ミレイヤにもよろしく伝えてくれ」

「ちゃんと伝えておくわ」


「西の森林の情報はともて役に立ったことも合わせて頼む」

「あら、いつの間にそんなに仲良くなったのかしら」


「担当としてきちんと仕事してくれているだけだと思うが?」

「エレの町より向こうの情報は、重大な情報じゃないとそんなリアルタイムに入ってこないんだけど」


「ああ、それなら依頼を受けたからだろう」

「どうかしらねぇ。とにかくリュウの新規登録をした初めての担当は私なんだからね」


「もちろんアリスにも感謝している。ただ、俺の専属担当はレインになっているようだが」

「知っているわ。受付業以外はでしょ。とにかく初めては私という事実は変わらないわ」


 そんなに重要なのか。


「だんだん意味深な表現になってきているが」

「え? あ! ……リュウってそんな発想もするんだ、逆にちょっと安心したわ」


「……依頼を受ける前に、アリスにだけ伝えておきたいことがある」


 そう言って、彼女に手でこっちに近づくように合図する。


 だが彼女は照れ隠しで少々強がった発現だったのか、それを俺にすかされて一層恥ずかしくなっているようだ。


 それに今度は俺が意味深な言葉をかけてしまったものだから、軽いパニックを引き起こしているのかもしれない。

 俺の言葉に動揺してくれるとしたら、それは光栄なことだが。


なんでもないことかもしれないが、アリスに関係している可能性があることだ。だからまだレインにも話していない」


 小声で伝えた。


 俺は受付から身を乗り出して、彼女のほうへ顔を近づけようとした。

 内緒話を耳打ちするためだ。


「ちょ、ちょっと待って、明らかに怪しく思われるから、……夜ここに来てくれる?」


 彼女はさっとメモを書いて俺に渡してきた。

 時間と場所が書いてあった。


「わかった、その件はそのときに。……では、この依頼を受けたい」


 地下洞窟の依頼書を渡した。


「聞いてはいるんだけど、いきなりAランクで大丈夫?」


「責任はレインが持つということだ」

「失敗はいいとして、命になにかあったらどう責任を取るつもりなんだろ?」


 心配して怒ってくれるのはうれしいが、思い返せばミレイヤの話の辺りから、せっかくの癒やしがずっと台無しだったな。


「復活魔法でも掛けてくれるんじゃないか?」

蘇生そせい魔法は高度なため、国内には誰一人ひとりとして使える者はいないわ」


 冗談だったのだが。

 でも意外な情報がもらえたな。

 国外にはいるってことだな。


「実質ギルマスのレインが言うんだから大丈夫じゃないか」

「それほど信頼がおかれているというのはわかるわ。それでも二日目の新人冒険者ということは絶対忘れないでね」


「気を付けるよ」

「頑張ってね」


 手続きを済ませ、ギルドを後にした。

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