第20話 未来の稼ぎ頭

 山賊の件も興味があったが、依頼の中で亡骸を発見したことになるので、ひとまず報告に戻るか。

 本当は昨日見つけていたのだが、そこは適当にしておこう。


 王都のギルドに向けて転移するには、人目に付かないように多少の工夫が必要だ。

 今回は名案がひらめいた。


 応接室に一気に転移してしまえばいいと考えたのだ。

 もし先客がいればいつも通りの路地裏に移動すればいい。

 これなら路地裏から歩いていく必要もなくなる。


 応接室に転移した。


 レインが窓際の偉い人が座りそうな机の席に腰をかけていた。


「やあ」


「なにっ!?」


「あ、俺が転移できるのって教えてなかったな」

「どんな登場の仕方なんだよ。昨日あんなにすごいのを見たんだ、ちょっとやそっとじゃ驚かないぜ」


 彼はにこやかに迎えてくれた。


「それなら丁度いい。で、例の依頼なら片付いた。別で個人的に調査した件も伝えておこうと思う」


 エルフの里のことは、やはりアリスに先に聞いてからにしよう。

 もし彼女に全く関係なければ、ギルドに報告する必要はないのかもしれない。


「では作業場に行くか」

「お決まりのな」


 応接室を後にして、作業場へ向かう。


「お前は好きなランクの依頼を受けられるようになっている。責任は全て俺が持つと周知してある」

「ありがとう」


「相変わらず淡泊なやつだな。登録翌日に実質Aランクってすごいことだぜ」

「でもCランクだからな」


「それでも普通はすごいんだがな。なんならSSランクになるか?」

「だから、それはまだだ」


 作業場に着いた。


「さてエレの町の依頼から見させてもらおうか」

「全部出してもいいんだが、残念だが依頼書に記載されているような遺留品は無かった」


 闇に格納中のゴブリン達が身に着けていた物についても確かめている。


「いや、それならいい。前向きに考えれば生きている可能性があるってことだ」

「手がかりとはならずとも、大した武器や道具は無いが、ガラクタでもよければ依頼者に回収したものを譲ってもいいのだが」


「聞いておこう」

「なんならギルドのほうで換金してくれるなら振り込みで送金という形でもいい」


「ほう、いつにも増して親切じゃないか。まさか依頼主のことを狙ってんのか?」

「なんでいつもそうなるんだ。俺をどんな目で見ているのやら。まず依頼主の顔も見たことないのに」


「やはり顔が大事か」

「大事なうちの一つにはなってくるが、それだけではない」


「他にはなにが重要なんだ?」

「悪いがトップシークレットだ」


「またそれかよ。ちゃんと青春しておけよ」

「するする。話を戻すが、もし依頼主が納得できない場合は、引き続き調査を受けさせてもらおう」


「今回の件はこれで終わりだ。依頼を続けるなら新規で受けることになる」

「そうか。後、洞窟には数人の女性の遺体があった。さすがに勝手に持ち帰るのも失礼だと思ったので、そのままにしてある」


「わかった、エレの町の支部で対応してもらうようにする」

「よろしく」


「じゃあ、自主的に調査したって話を聞こうか」

「ミレイヤから西の森林で強力な魔物が出現するらしいと聞いた。興味があったので探っていると、こんな感じのやつがいたんだが」


 俺は絶命させた状態で、大中小のイノシシみたいな魔物をその場に出した。


「ん? フォレストボアーだな。って、この中間サイズのやつはエリートで、この一番大きいのはロードのクラスじゃないか。よくこれだけ集めたな」

「その森林の北西辺りにある例の洞窟周辺に近づくほど、クラスというのかサイズの大きな魔物が多いように見受けられた」


「洞窟になにか変わったことはあったか?」

「いや特には……。ひょっとすると、俺の狩ったゴブリンキングも関係している可能性はあるかもな」


「魔素が特別濃いのかもしれん」

「そうなってくると専門分野の人に任せるしかないな」


「その周辺だけに、もう一種類ぐらいキングのクラスの魔物が出たとなれば、なにかが起きていそうだな」

「魔物のクラスって最高でどこまであるんだ?」


「普通のやつをあえて呼ぶなら無印となる。以降はエリート、ロード、キング、レジェンドと強くなっていく。全ての魔物が強くなるにつれサイズも大きくなるとは限らない」

「レジェンドか。会ってみたいな」


「伝説と言うぐらいだ。知識ならあるが俺も見たことはない」

「レインでも知らないものがあるんだな」


「現役のときは、そんなにマニアではなくて、詳しくなったのは解体作業を始めてからだからな。もしかしたら昔、知らずのうちに仕留めていたこともあるかもしれんが」

「Aランクなら武勇伝の一つや二つあって当然だろうな」


「さらっとハードル上がったな。それはさておき、……ここまでの内容を振り返ると、どう考えても二日目のボリューム感じゃないんだよな」

「移動の時間がほぼ無く、手際もいいからかな」

「そうだな。全てにおいて普通じゃないもんな」


「フォレストボアーは金額が付くのか?」

「ああ、食肉としてはかなり高級品だ。クラスが上がるほど、引き取り金額も高くなる。今回のやつなら、二十ドル、五十ドル、百ドルだ」


「じゃあこれはよろしく頼む。大量に捕まえたら、それだけでかなり稼げそうだな」

「ハイクラスにはめったにお目にかかれないものなんだよ。危険な場所にいけばそれなりにいるとは思うが……」


「危険な場所?」

「有名なところではエレの町の北に地下洞窟だな。未だにその最深部にはたどり着いた者はいない」


「強い魔物がいるのか?」

「ああいるのは間違いない。まずは自力で楽しんできな。こんなこと言えるのはお前ぐらいだが」


「いい素材が集められそうだ」

「そんなに金が重要なら、個人的に取引を持ち掛ければ、ここで引き取るよりも、下手したら十倍ぐらいの収入に変わってくる物もあるぜ」


「面倒なことはする気はないが、いいのかそんなことまで教えて」

「どうせやる気は無いだろうと思って真実を言ったまでだ。未来の稼ぎ頭の気が変わらなくてホッとしたよ」


「そんなことしなくても俺はとっくにレインを信用しているのに」

「それはありがたいね」


「ということで先客がいない限りは応接室を転移先として利用させてもらう」

「好きにしてくれ」


「それじゃあ、新しい依頼を受けてくる」

「ほんと、その情熱には感心するよ」


 作業場を後にし受付へ向かった。

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