第18話 眠り

 訓練場を後にし、その足で俺は高ランクの依頼を受けてみるつもりだったが、しばらくお預けとなった。


 レインが明日には周知しておくとだけ言い残して応接室のソファに横になり、眠ってしまったからである。


 とりあえず、エレの町の件でもやっておくか。

 得意分野ということもあり一瞬でかたが付くだろうが。




 受付に着いてミレイヤの前に立つ。

 さすがプロと言うべきか、変な雰囲気は消え去っていて、いい笑顔をしている。


「ごめんね、レインさんはうれしいことがあると変なテンションになることがあるの」

「全く問題ない」


「リュウがすごい実力なんだってことはわかっているけど、そろそろ休んだら? 宿とか決めているの?」

「平気だ」


 温泉やサウナがあるなら行ってみてもいいな。

 金が腐る程に貯まればスイートルームのようなところにも泊まってやろう。


「ワクワクが抑えきれない気持ちもよくわかるんだけど、そこまでこんを詰めなくてもいいんじゃない?」

「心配はありがたいが、俺は大丈夫だ」


「わかったわ。レインさんから聞いていると思うけど、エレの町の追加依頼の件は受けるのかしら?」

「ああ、ちょうどそれの依頼内容の詳細を確かめにきたところだ」


「依頼書ならちゃんとあるわ。登録初日から指名されるなんて驚きね」

「向こうは俺が誰だか知らずに頼んでいるわけで、指名というのは微妙だがな」


 依頼書を受け取り、目を通した。

 だいたいはレインが言っていた内容だ。


「本来なら、成り立てのCランカーに受けさせる依頼ではないとレインさんが言っていたわ」

「半日程前に魔物は全て駆除してあるから、その状態のままであればFでも余裕だろう」


「え、そうなの? ……って、いちいち驚いたらいけなかったわ。途中の山道では山賊に気を付けてね」

「わかった」


 たしかに地図には島国であるアドリニス王国領を南北にまたがり東西に分断するアドリニス山脈がある。

 王都から出て平原を進んだ先にあり、それを超えればエレの町に着くという位置関係だ。

 標高はそれほど高くないので、あまり気にとめていなかった。

 ここに来たときのように飛んでいくか、転移すればいいので俺には関係ないな。


「それに近頃西の森林では強力な魔物が出現しているという報告もあるわ」

「それも頭に入れておこう」


 初めてそこへ訪れたときはルシアの魔力が影響していた加減で、魔物達は身を潜めていたのかもしれない。

 あの偵察隊らしき頭の悪いゴブリン達を除いて。


「それじゃあ行くよ」

「頑張ってね」


 受付を後にし、人目を避けて例の洞窟へと転移した。




 夜になると洞窟内はより一層暗さを増していた。

 前回と同様、俺にとって問題ではない。


 闇霧あんむを放ってみたが、やはり魔物はいないようだった。

 もしかしたら、外に偶然出ていたゴブリンが戻っているかとも思ったのだが。


 依頼内容には全ての物を回収とあったが、さすがに絶命している数名の女性達の遺体は省くとしよう。

 捜索対象は男性であるので、問題ないだろう。

 ギルドに所属したからには、本件の報告時に合わせて伝えておくべきか。


 前回訪れたときに、ゴブリンとそれらが持っていた物は、個人的に全て回収していたので、目ぼしい物は無かった。

 ちょっとした武器や薬草なら残っていたが、冒険者がするような防具はなかった。

 捜索対象者はCランクらしいので、ここまで来たとしたら、もっといい装備があると思う。

 ちなみに依頼主の女性もCランクだ。


 レインが聞いた情報によれば、二人ふたりとも成り立てのCランカーだったようだ。

 男は依頼も無いのに、どこかに出かけたっきり戻ってこなかったらしい。

 なにかを手に入れて、サプライズをしたかったのだろうか。


 それなりに実力をつけると自らを過信する者がいるようだな。

 そんな怖いもの知らずの好戦的な者がいれば、面白いものが見られそうなので、ぜひ一戦交えてみたい。

 ゼイルのように、相手側からけしかけてくるのが理想だ。


 俺のCランクよりも高ランクで、俺の活躍が鼻につく者も少なからずいるとは思う。

 完全にビジネスとしてギルドに所属しているならば、俺がその稼ぎ減らすライバルとなる可能性を秘めているのだから。




 今戻っても話の早いレインは眠っているだろうから、これから日が昇り切るまで時間をつぶすことにした。

 依頼の件で妄想を膨らませて楽しむのは、妄想力が弱いのかすぐに限界がきてしまった。

 せっかくなので眠ってみるか。


 ちゃんと目覚めることを祈って、せめて太陽光の差す外側にいよう。

 普通ならば、少しでも安全な洞窟内にいるのだろうが。


 体を闇門あんもんの状態にしておけば、思いもよらぬ獲物が引っかかるかもしれない。

 ただ人間が触れたら危険なので、いろいろ考えた結果、木々の高さよりも上の位置で空中に浮遊し、姿を消した状態で眠ることにした。


 目を閉じ、思考を停止した。

 おやすみ。

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