第17話 危険人物

 応接室の部屋の中から続いていた階段をレインと並んで下りていく。


 LEDライトみたいなものが壁にあって、近づくと光っていた。


「センサー式がそんなに珍しいか?」

「初めて見るな」


「色合いはさまざまだが、基本は受付やさっきの部屋にもあったものと同じ魔道具だ」

「そうなのか」


「これは冒険者じゃなくても知っていることだぞ」

「勉強中だ」


「まるで別の世界からやってきたかのような言動だよな」

「だったら?」


「俺にとってリュウはリュウだ。さあ着いたぞ、秘密の訓練場だ」


 重厚な金属製の扉があった。


 随分と地下に位置しているようだ。


 彼が鍵を開けて中へ入ると、暗かった空間が明るくなった。


 解体の作業場よりも広いと思われる。

 中も全面扉と同じような金属で覆われている。

 とても頑丈そうだ。


「この部屋の明かりにはスイッチとかあるのか?」

「手動スイッチもあるが、入ればセンサーで自動的に光る優れモノだ」

「この部屋の明かりを消してもらえるか?」

「あぁ、かまわないが」


 彼が入口の付近に戻ると、スイッチを操作してくれたようで、部屋が暗転した。

 階段側の光が少しだけ差し込んでいるだけとなった。


「まぶしかったら言ってくれ。【クエーサー】」


 俺は自らを発光させた。

 久々に技の名前を付けてみた。

 地球で呼ばれている意味のクエーサーとは異なる。


 本物を再現するのは可能だが、リョリャルやそれを含む銀河系は消えてなくなるだろう。

 そうではなくて、日頃取り込んでいる光を俺の体の位置から調整して放出しているだけに過ぎない。

 いつも意識的に光を取り込んでいるわけではなく、俺の闇の空間に入り込んだ光は抜け出すことができないのだ。


「光の魔法は知っているが、自身が発光するものは聞いたことがないな。これで暗闇でも活動していたわけか」

「俺一人ならわざわざ明るくする必要はない。俺が暗くなればいいんだ」

「ん?」


「こういうこともできる」


 俺は発光を解除し、目の前の空間に光の球体を出現させた。


「光を操れる者ならこれならできそうだ」

「スイッチを元に戻してくれ」


 再び部屋の光が灯った。


「もっと危険な感じにできるが、たぶん世界が崩壊するからやめておく」

「真顔で言いきるところが恐ろしいぜ」


 口ではそう言っているが、彼のワクワク感はこっちにも伝わってきている。


「さてと、それじゃあ……」

「かかって来い、と本当は言いたいところだが、やめておいたほうがよさそうだな」

「ああ、友人を死なすわけにはいかないからな」

「お気遣いどうも。あれを見てくれ」


 彼が指さした奥のほうを見ると、拳銃の的のような人型の立体的模型が五体配置されていた。


「壊してみろってことか?」

「ああ、そうだ」


「じゃあ、まずは決闘でも見せたやつをやってみるか」


 俺は密度を高めて、一体の的に接近し、人間なら即死するぐらいの速度で殴った。


 大きな音を出して粉々に砕け散った。


「おお、素晴らしい。思った通り、簡単に破壊できるんだな」


 彼は一瞬驚いたようだが、次第にニヤリと笑みをこぼした。


「こんな感じでいいのか?」

「さあ、それはどうかな? 前をよく見てみろ」


 粉々に砕け散っていた模型の破片が元の位置に集まり、復元された。


「これも魔道具だな?」

「すごいだろ」


「これを防具にしたら最強なんじゃないか?」

「悪いがトップシークレットだ」


 あえてかもしれないが、真似されるようなセリフではないのに。

 無駄に覚えてたんだな。


「安心してくれ。興味ない」

「ちょっとは気になれよ。……で、他にもあるんだろ?」


「闇に散れ。【アンノウン・セイバー未知なる太刀】」


 まずは手に闇刀あんとうを出現させるのではなく、闇刀波あんとうはにより、一体の模型を触れることなく八つ裂きにした。


 今度はしばらく待ってみたがなにも起きなかった。


「な、なにが起こった? しかも、どんな強力な攻撃を受けようとも、どんなに細かく破壊しようとも、再生するはずなのだが……」


 俺は切り取るようにして闇に転送してしまったから戻らないのだろうか。


「では元に戻そう」


 切り取った部分を戻してしばらくすると模型が再生した。


「空間操作系の攻撃だったのか」


 二番煎じだが、闇刀あんとうを右手に出した。

 一体めがけて数回切りつけた。


「一応これが俺の剣術ということになる」

「他にもあるのか?」


「闇に眠れ。【ジ・エンド・ゲート終わりの門】」


 一体が目の前から消えた。


「おお! これは例の空間操作だな! 一瞬だ」


 彼の興奮状態はどんどん加速している。


「他には?」


「残念ながら、攻撃系のレパートリーは出し尽くした」

「攻撃系以外は?」


 俺はその場で浮遊した。


「飛行もできる」


「おい、マジかよ!?」


 本日一番の反応かもしれない。

 空間操作系は細かい部分の認識は違っていそうだが、おおよそ知っていたから、感動は少なかったのかもしれない。


「【ヴァニッシュ】」


「消えた!?」


 透明状態を解除し地面に降りた。


「まあ基本はこんなところかな」

「控え目に言って想像を超えていたよ。つい興奮してむちゃを言って申し訳なかった」


「全く気にしていない」

「でもまだまだ本気じゃないんだろ? まだまだ底が見えない」


「本気か。全力を出すのは俺も少し怖いな。光の件でも言ったが、まず世界は壊れるだろうな」

「そうか。実戦的とは言えないが、お前の力はおそらくSSランク以上だと思う」


「危険人物の認定を受けるわけだな」

「俺は誰にも言うつもりはないが」


「責任を取ってくれれば俺はかまわない」

「説明がつかなくなったときはそうする。そのときはSSランクになって、悠々自適に暮らせばいいさ」


「実は最高ランクを目指しているのだが、SSランクになっても自発的に依頼とか受けられるのか」

「ギルド所属の冒険者という扱いだから当然受けられる」


「自発的に悪そうな奴らを壊滅させたりするのは?」

「正義の味方ごっこなら全然問題ないと思うぞ」

「デメリットが無さそうだな」


「普通の人としては見られなくなるが、というかSSランクになりたいのか?」

「考えている」

「こればかりは俺の一言で決められることではないからな。Sランク以上になる条件を整理すると、英雄になってS、危険物になってSS、その危険人物を討伐してSSまたはSSS、のどれかだな」


「三つ目のSSランカーを倒してSSSになるというのは聞いてなかったな」

「SSSとは限らないが、圧倒的力で倒せば当然SSよりも上のSSSとなるわけだ」


「一つ目は運が必要で、二つ目は一時的に悪になる必要がある。となれば三つ目が一番簡単じゃないか」

「ぶっ飛んでなければ生まれない考えだな」

「いたって冷静に考えてる」


「それなら、ちょっと手を焼いているSSランクがいてな。まあ奴らは大体そうなんだが。秘密裏にそいつを葬ってくれないか?」


 レインは過激派だ。


「楽しそうだな」

「だろ?」

「表立って依頼を出すわけにはいかないから、通りすがりのやばい奴が偶然倒しちゃいましたって感じで」


「それであわよくばSSSランクになるということだな」

「どうだ?」


「いいんだが、俺は今日の昼間にこのギルドに来て新規登録したところだ」

「言われてみればたしかに」


 いろんなことがあったが、冒険初日なのだ。


「で、Fランクの依頼を数件こなしたばかりなわけで。ちょっとした決闘はあったが」

「そうだな」


「SSランクになったら誰も俺に近づかないと考えると少し寂しいな」

「ゼイルのような?」

「よくわかったな。というかそいつしかまだ絡んでないが」


「なってしまえば絡まれることはありえない。そいつが危険行為をしたとして罰せられる」

「普通そうなるよな。……もうしばらくは、普通を堪能させてもらう」


「その気になったらいつでも言ってくれ」

「わかった」


 俺達は訓練場を後にした。

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