第16話 職権乱用
レインのことなのでまた作業場に行くのかと思いきや、階段を上がり二階の一室に招かれた。
応接室のようだ。
高そうなテーブルやソファがある。
「まずはCランクおめでとう」
「ありがとう」
「さすがにあんな血なまぐさい部屋で祝うのもどうかと思ってな」
部屋を観察していた俺に気付いたようだ。
こういうところは、いきなり大物を倒してAランクかSランクになってから来るのがお決まりだと思うのだが、Cランクって恥ずかしいな。
「ありがたいんだが、さすがに俺に肩入れし過ぎじゃないか」
「俺が任されているギルドだから、これぐらいは好きにさせてもらいたいな」
「ギルドマスターだったのか?」
「惜しい、ギルマスじゃなくて副ギルドマスター、副マスのほうだ。おかげですごみが減ったじゃねぇか」
「もしかしてギルマスはSランクとか?」
「いや、ギルマスも俺と同じくAランクだが、俺よりもっと強いぜ」
レインの強さを知らないからピンとこない。
「そうなのか」
「これからしようと思っていた話から脱線するが、ギルマスの栄誉ために、Sランクについて補足しておく」
「ありがたく聞かせてもらおう」
「Sランクが必ずAランクより強いとは限らない。
俺が把握している限りは二つの条件が絡んでいる。
一つは、国の存亡に関わるような緊急事態に対し、その危機を回避し防いだ者に、功績を称えてSランクが与えられることがある。
栄誉ある勲章みたいなものだ。
その場に居合わせるという強運が必要だ。
弱き者にとってはただの不運でしかないが。
もう一つは、存在自体が危険すぎる場合になる。
国やギルドが、彼らの要求に応じる対価として、侵略をしないよう誓いを立ててもらうものだ。
周りへの警告の意味を込めてSSランク以上が与えられている。
人外か、授かりし者のような連中だ。
ギルマスなら英雄としてSランクになる可能性はある」
「なるほど。レインにもそれが言えるといいたいわけだな」
「俺はもう一線を
「てことは、ギルマスはまだ一線で活躍してるということか?」
「一線とまではいかないが、たまに大冒険に出かけてくるとか言って、ひと月は席を空けることもよくある。今がまさにその状態だ」
「楽しそうな上司だな」
「冒険者からすればそうかもな。俺も尊敬はしているが、仕事面では随分迷惑しているよ。事実上ギルマスも兼任みたいなもんだから」
「あの解体の雑用もそれなのか?」
「いや、あれは趣味だ。たまに
「変わった趣味だな」
「俺の話はこれぐらいにしておこう。あのゴブリンキングの件だが、実はエレの町で出されていた捜索依頼に関係していた」
「捜索?」
「お前が引き渡した部位のうち、元々切断されていた右腕についていたリングは、とある冒険者の愛用品だったことがわかった」
「仕事が早いな」
「さっきお前が決闘を申し込まれる直前に、俺も受付で聞いたところだったんだ」
「あのときか」
「この国内にある各支部に、魔道具を使って画像が一斉に送られていたのだが、それを見て依頼主が間違いないと言ったそうだ」
そんな便利なものもあるのか。
FAXみたいなものだな。
「しかし、俺が仕留めた魔物が、その捜索対象を襲った奴とは限らないわけだが」
「まあ、そんなことは重要ではない。そのゴブリンがいた場所に、落ちているものを片っ端から回収してほしいというのが新しい依頼だ」
「他にも遺留品が無いか探すというわけか」
「そうだ。難しければ写真撮影でもいいらしいが、お前なら楽勝だろ」
「お安い御用だ」
「だよな」
「事実はどうあれ、依頼に関係していたゴブリンキングを討伐したのだ。それでCランクに昇級しても誰も文句は言わないだろう」
「職権乱用じゃないのか?」
「優秀な者にこそ、高難度の依頼を受けてもらいたいのだ」
「俺としてはありがたいが」
「さて、大事なのはここからだ。その依頼とは別に、条件次第では今後ランクを気にせず自由に依頼を受けさせてやることはできる」
「条件?」
「俺にお前の力をもっと見せてほしい。最初に詮索しないと言っていたが、状況は変わった」
「こうなる予感はしていたよ。レインになら全然かまわないけど」
「よし、ついてきてくれ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます