第15話 ブルーカード

 ギルドに戻り、受付に立ち寄って、レインの指示でIDカードをミレイヤに渡した。


「おかえり。大活躍ね」

「おかげさまで」

「はい、昇級おめでとう」


 Cと刻まれたブルーのカードをミレイヤから受け取った。

 今思えばウィリアムも酒場で会ったときに、この色のカードを身に着けていたような気もするな。


「ありがとう」

「レインさんから報告を受けている三件の報酬は立て替えで先払いできるわよ」

「では今受け取っておこう」


「素材の持ち込みの件では、現金をあまり所持していないようだったので、現金支払いにしたとアリスから聞いているわ」

「ああそうだが?」

「その一件で当面は現金には困らないと思うから、今後は指定が無い限りは口座振込にするわね」

「口座振込?」

「ギルドの口座に振り込んでおけば、そのお金はそのIDカードでお金の支払いができるの」


 デビッドカードみたいなものか。

 万屋のジイさんのような古めかしいところでも使えるのだろうか。


「便利だな。じゃあ今後はそれで頼む」

「わかったわ。支払い方法については初めての報酬受け取りのときに説明するのだけれど、その件ではアリスが勝手に判断してしまってごめんなさいね」

「丁度いい具合にしてくれたんだ。俺は感謝するべき立場でしかない」


「そうそう、採集と狩猟の件については、気持ちを加えた額を出すと依頼主から返答があったので、倍以上になっているわよ」

「それはありがたい」


「カード処理にしておけば、面倒な署名とかも省けるわ」

「絶対こっちだな」


「現金がたくさん必要になれば、引き出せばいいから」

「なるほど」


「カードを見てみて。そこには現金以外の残高が記入されているでしょ?」

「ほんとだ」


「説明は以上なんだけど、……リュウってまだステータス測定してなかったのね」

「必要ない」


「それならいいんだけど。最初っていろんなこと聞くから忘れちゃったのかと思って」

「ありがとう。一応記憶力には自信がある」


 自信どころか、無駄な情報として意図的に削除しない限りは、忘れるということはない。

 ウィリアムのカードの色のように不鮮明にとらえた情報は、自動的に補間されることはないが、不鮮明な情報としては残り続けるのだ。


「リュウとたくさん話せてよかったじゃないか。アリスに感謝せんとな」

「レインさん、私達をどうしたいのですか」


 ほんとそうだ。

 冗談なのか本気なのかわからない。

 カードの色を意識して初めて気づいたが、レインてAランクだったんだ。

 だから従業員でも皆がさん付けで呼んでいるのかもしれない。


「リュウ、お前はミレイヤとアリス、どっちを選ぶんだ? なんなら、担当以外を含めてもいいぞ?」


 思わぬ火の粉が飛んできた。

 急になにを言っているんだ。

 テンションが高いようだが、さっきの退屈な決闘が影響しているのか?


「ミレイヤもアリスも、彼氏の一人ひとりぐらいとっくにいるだろうに」

「わ、私は、……いませんが」


 恥ずかしいのか顔を背けてしまった。


 それを聞いてレインがニヤリとした顔で俺を見る。


「悪いがトップシークレットだ」

「なんだつまらんな。もっと青春しろよ」


「……ところで話って、昇級のことだったのか」


 変な空気になったので、仕方なく俺が口を開いた。


「ああ、それに関することだが、他にもある。ここじゃなんだから、ついてきれくれ」


 ミレイヤのことはそっとしたまま、レインの後に続いた。

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