第14話 決闘

 広場へ着いた。

 ギルドを出て通りを少し進んだところだ。


「遅いから尻尾を巻いて逃げ出したのかと思ったぜ」


 クソ野郎は広場の中央で腕を組み、仁王立ちしていた。


「待たせたな小悪党」

「その威勢だけは誉めてやる」


 言い返しても無限ループに陥るのでやめておいた。


なにか賭けるのか?」


 野次馬達が見ているからか、レインはいつにも増して真面目な顔付きである。


「俺が勝ったらCランクにしてくれるんだよな?」


 ヤツはレインに確かめた。

 俺の所持品や金でも奪うつもりかと思ったがそれはないようだ。


「いいだろう。二言はない。リュウはどうだ?」

「そうだな、俺が勝ったら今後一切の決闘を禁止する、というのはどうかな?」

「ゼイルの決闘する権利を凍結するということだな、ゼイルはそれでいいのか?」


「ん……あぁ、いいぜ!」


 よそ見していたヤツは、前に向き直り、俺に対して不敵な笑みを浮かべた。


「では……」


 レインが両腕を左右に伸ばし、距離をとっている俺とヤツにその手のひらを向けた。


「始めっ!」


 彼は両腕を勢いよく上にあげた。


 野次馬達の歓声が大きくなる。


「死ねぇええ!」


 あれ、思いっきり殺しに来てるように見えるが。

 ヤツは帯刀を手にして、こちらに向かってきている。

 中程度の大きさの刀身はっているようだ。


 ギンッと俺の体はその刀剣を弾いた。


「またそれかよ。奇怪な魔法に頼るとは情けない男だ。観客もいるんだ、楽しくいこうぜ」


 俺は無視して、下水道で獲得した汚物を、ヤツの鼻の穴にたっぷりと詰まるように、闇から出現させた。


「ん? うぅぐ! ……おえええええ」


 ヤツは悶絶もんぜつして倒れた。

 クソ野郎にはこれ以上ないプレゼントだと思ったのだが、少し刺激が強すぎたか。


 野次馬達は呆気あっけにとられている様子だ。


「おおぇええ。 く、くっせーな! なんなんだ、コレは!?」


 ヤツは意識を取り戻しふらつきながらも立ち上がった。

 フンッ、フンッ、と鼻に詰まったものを取り除いているようだ。

 それだけでは完全に除去できていない気がするが。


 歓声が上がった。

 立って戦っていればなんでもいいんだな。


 レインは笑いをこらえているようだ。

 なにが起きたのか、ある程度状況を理解したのかもしれない。


「意外と骨があるじゃないか」

卑怯ひきょうな真似ばかりしやがって! もう、それは通用せんぞ」


 耐性のスキルか装備でも持っているのだろうか。


「試合が続けられてよかった」


 もう一度ヤツの鼻の穴にさっきと同じものをお見舞いした。


「お、おえっ。 ……フッ、完全に耐性ができたぜ」


 フンッ、フンッ、と先ほど同様の仕草をみせている。

 たしかにさっきよりもヤツが言う通りダメージが減っているようだ。

 ただの根性だとしたら、やるじゃないか。


「よかったな、これなら下水道の清掃を任せてもらえるぞ」

「ふざけやがって。貴様は殺す!」


 ヤツは刀剣を大きく振りかぶり俺に近寄ってきた。


 レインを横目で見ると、聞いていないと言わんばかりに無表情だ。

 重大な問題発言があったが、試合を止める気はないようだ。


 ヤツが俺に振り下ろした刀剣は、ギンッと再び弾かれた。


「うっ!?」


 同時にヤツが血を吐いて倒れこむ。


 さっきと違ったのは、ヤツのがら空きのみぞおちに、俺の素人拳法をたたき込んだことである。

 型は洗練さていないが、金よりも高密度の重い物体がそれなりの速度で激突したのだ。

 手加減したとはいえ、クソ野郎には十分なダメージだろう。


 野次馬達は静かに様子を見守る。


「立てるか?」


 しばらく動かないので、レインがヤツの前にいき、状態を確かめているようだ。


「ダメそうだな。安心しろ、死んではいない。勝者、リュウ!」


 レインは右の腕をピンと伸ばし、手のひらを開いて俺のほうへ向けた。


 野次馬達のボルテージは最大に達した。


「強かったんだな!」

「さっきのなにをやったんだ?」


 俺は野次馬達に囲まれた。


「なんか臭いぞ!?」

「ほんとだ! くせぇ!」


 俺はあわてて汚物を闇に回収した。


「悪いが道をあけてくれ」


 野次馬達をかき分け、レインの前にいき、一緒にギルドへ向かおうとした。


「リュウ、ちょっと待ってくれ。おい、お前ら、もう静かにしろ。ここにゼイルのパーティメンバーはいないか?」


 大声でレインが呼びかけるが、野次馬達から反応は無い。


「じゃあ、親しい者でもいい、どうだ? こいつから言い出したことだ、俺は放置していくからな」


 それでも反応は無い。

 冒険者は貴重な人材だ、とか言っていたが全てに当てはまるわけでもないみたいだな。


「これは申し訳ない。ちょうどここを通りかけたところで。おやおや、派手にやられたもんだな」


 どこからともなく、ウィリアムが姿を現した。


「ウィリアム、目を離さずしっかり管理してくれ。ちなみにこいつは決闘禁止になったからな」


 レインが決闘禁止の件を伝えても、ウィリアムはとくに驚く様子を見せなかった。


「すいません、今日は急用がありまして。リュウ、また迷惑を掛けたな。近いうち、おわびさせてほしい」

「別にかまわないが」

「決闘の話も是非聞かせてくれ。では」


 ウィリアムはクソ野郎を抱えて去っていった。


 ヤツには随分キツイお灸だったな。

 俺に負けたことよりも、誰にも救いの手を差し伸べてもらえないなんて悲し過ぎるだろう。

 日頃の行いが招いた結果だとすれば仕方ないことだ。


「じゃあ、戻るか」


 そう言った晴れやかな顔のレインを見て、さらに仲良くなれそうな気がした。

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