第13話 人気者

 ギルドに着いた。


 レインの後に続いて受付へ向かっていると、見覚えのあるスキンヘッドが俺を突き飛ばしてきた。


 ドサッと尻もちをついて倒れたのはその男、ゼイルだった。


「なに? ……っの野郎!!」


 一瞬驚きながらも、チンピラらしく俺を恫喝どうかつしてきた。


 突き飛ばされてもよかったのだが、ケガをさせないように抵抗してみたのだ。

 時空に歪みが生じない程度に、俺の物体としての密度を高めたのである。


 殺傷性の高い戦法しか持ち合わせていなかったので、これはお遊びの対人戦に使えそうだ。


 レインは振り返ったが、まっすぐに受付に向かっていった。


 酒場の喧騒けんそうがおさまった。


「よくもやってくれたな! レインさんがどうやってお前を気に入ったかしらねえが、俺はお前が気に食わない」


 立ち上がったクソ野郎は、台本を変更して被害者を演じるようだ。

 完全に周りの人に注目を集めてしまっている。


「悪いが俺は忙しいんだ」


 受付に向かおうと思ったが、大きな体で通せんぼされた。

 もう一度突き飛ばしてやってもいいのだが、どうすればこいつが一番惨めになるか考えていた。


「リュウは人気者だったんだな。最後の二件の報告も済んだぞ。さっき言った通り、話があるんだが」


 レインはどうやら、急いで依頼主に報告をしていてくれたらしい。

 できる男だ。


「レインさん! こいつのどこを気に入ったんです? 今なんか俺を突き飛ばしてきたんですぜ?」

「そうなのか?」


 レインが面倒臭そうに無表情で俺のほうを向く。


「ぶつかってきて、勝手に倒れただけだ」

「だそうだぞ?」


 レインは首だけヤツの方へ向けた。


「おいおい、新入りのFランクの分際で、このDランクの俺様にウソまでつこうってのか?」

「リュウなら、これからCランクに昇級するところだが?」


 レインはニヤリとした表情で言った。


「聞いていなかったな」

「話があると言っただろ。詳しくは後で伝えるが」


「だったら、こいつを負かせば俺もCランクの腕があるってことだな?」

「見込みのある者に対し、早く一線で活躍できるようにと、特別試験を実施することもあるが……まあ、いいだろう、決闘を認める。日程は二人ふたりで決めるといい」


 酒場が再びざわつきだした。


「俺は今すぐやりあいたいぜ」


 俺を誘うような目つきで挑発している。


「やるなら、すぐに終わらせたい。酒を飲んでいたとか言い訳するなよ?」

「さっき俺も来たところだ。お前こそ、疲れていたとかほざくなよ?」

「問題ない」


二人ふたりとも表の広場に出ろ。野次馬の連中も見たい者はついてくればいい。ただし、おそらく勝負は一瞬だと思われるので、飲食物は持ち出すなよ」


 レインは館内や街が汚れないように誘導しているようだ。


「お前一瞬で終わるってよ」


 ヤツは俺の耳元でそう言うと、外へ向かった。

 野次馬達も後に続く。


 受付を見ると、ミレイヤが不安そうな顔をしていたので、軽くうなずき大丈夫だと目線を配っておいた。


 歩き出したレインに話しかけながら広場へ向かった。


「俺を目立たせないように配慮するんじゃなかったのか?」

「こういうのは中途半端が一番よくないんだ。逆に皆にお披露目して表明してやればいいのさ。いい機会だろ?」


 レインは楽しそうな表情を見て思った。


「見たいだけなんじゃないか?」

「それもあるが、ゼイルという男にはよくないうわさがあるからな、ここらでお灸を据えてやろうと思ってな。できるだろ?」

「それはいいんだが、うわさって?」

「新人にいちゃもんを付け、決闘を仕向けさせて、憂さ晴らしや、金品を賭けて巻き上げているらしい」

「ギルドが立ち合いするんなら、止めればいいだけなんじゃないか?」

「決闘する両者よりも上のランカーであれば見届け人になれる。ゼイルのパーティにはウィリアムと言う奴がいて、そいつはCランクなので条件を満たしているわけだ」


 なんだあいつも悪だったのか?

 見た感じ好印象だったのに残念だ。

 今は一緒にいないようだな。


「制度を見直したほうがいいんじゃないか?」

「耳が痛いぜ。ギルド全体の話になるので、簡単に俺の一言でどうこうできないんだよな」

「そうか」


 反応を見る限り、そういう声は他から挙がっているようだ。


「見届け人が決闘を強制した場合は、ランクは剥奪はくだつされることにはなっている」

「ということは被害者も合意しているはずで、文句も言えないといわけか」

「そう、自己責任の範囲ではあるのだが、どうしたものやら……」

「殺しが許されるなら、死人に口無しということになってしまうが?」

「命の取り合いは許していない。皆貴重な人材なのだ」

「さすがにそうだよな」


 広場が見えてきた。

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