第11話 専属逆指名

 王都のギルドの近くに転移して、【ヴァニッシュ】を解除した。


 テレポート・ワープ・瞬間移動……どの表現が俺の特性にピッタリかわからないが、とにかく俺にかかれば朝飯前だ。

 魔法ではないのでルシアのようにパワーを消費することもない。


 デメリットとしては魔法ならば行きたいところにフルオート式で行けるものもあると思うが、それに比べて俺のは完全マニュアル式になることだろうか。

 一度行ったところであれば大丈夫だが、そうでないところへは正確な位置をイメージしなければならない。

 岩の中にめり込もうが、海底やマグマの中に沈んでしまおうが、どうってことないので間違えても平気ではあるが。


 微調整を繰り返すぐらいなら、飛行して上空から地形を確認しながら高速で移動したほうが結局のところ早いと思っている。


 それでも確実なときぐらいはせっかくなので使っておきたい。




 さて、残る依頼の一つ、<倉庫の移転>は最初にギルド従業員の立ち合いが必要のようだ。

 所要時間は半日から一日と書いてあるが、荷物を運ぶだけならおそらく一瞬で終わるはずだ。


 まだ完全に日は落ちていないが、今日はまだ間に合うだろうか。


 Fランクとはいえ半日程度で数件の依頼をこなしたとなれば、ギルドからの信頼や評価が高くなるんじゃないかと考えていた。

 知れると目立ってしまうかもしれないが、そればかりはトレードオフの関係で仕方ないところだ。

 担当者が配慮してくれたとしても、ランク昇格は隠せないからな。


 のんびりと地道に昇りつめるのを楽しみたい気持ちもあるが、さっさと高ランクになって凶悪な魔物や人間と一戦を交えたい気持ちもある。

 どちらに転んでも楽しめることに違いはない。


「リュウだ。アリスはいるか?」


 ギルドに来たがアリスの姿が見えなかったので、アリスがいた受付窓口にいる人に声を掛けた。


「リュウ様、話は聞いております。夜になりましたのでアリスに代わりまして、わたくし、ミレイヤが担当いたします」


 コスプレじゃなければ猫耳みたいのがあるから獣人だろうか。

 アリスとはまた違った、しっとりとした大人の魅力がある女性だ。


「夜はミレイヤということか」

「ほとんどはそうですが、時間帯は意識せず、どちらかいるほうに声を掛けてくだい」

「わかった」


「アリスは私の後輩にあたりますので、指摘や不満など本人に直接言いにくいことがあれば私からお伝えします」

「全く問題ない。後輩のアリスは諸事情で俺に丁寧口調を取っ払って話している。先輩のミレイヤもそれでいいぞ」

「わかりました。ではリュウよろしくね」


 俺の見た目が若いせいか、抵抗なく受け入れてくれたようだ。

 このほうが話しやすいので楽だ。


「こちらこそよろしく。さっそくだが、これからこの依頼に取り掛かりたいんだが」


「おぉ、リュウか。また驚くようなものを持ってきたんじゃないだろうな」


 声のぬしは作業場から出てきたレインで、うれしそうな顔をしている。


「全てFランクの依頼の品で大したものではないが、ちょうど納品しようと思っていたところだ」

「今交代したところだが、見てやるよ」

「レインさん、いいんですか?」

「ああ、ちょうど伝えたいこともあったしな。冒険の疲れをこのキレイな姉ちゃん達との会話で癒されたい、ということなら俺は引くが?」


 照れくさそうな彼女をよそに、彼は俺に視線を投げかけてきた。


「ミレイヤは非常に魅力的な女性だが、それと話は別でレインにお願いしよう」

「決まりだな。よかったなミレイヤ、脈はありそうだぞ」

「わ、わかりました、ではよろしくお願いいたします。あ、その、お願いしますというのはレインさんにで……」


 可愛げのある人だ。


「よし、こいつの持ってくるものは俺が全て見る。受付業務以外は今日から俺がリュウの専属だ」


 知識も豊富で手際の良さそうな人なので不都合などないが。

 そこまで気に入られていたとは思わなかった。


「え? わ、わかりました。周知しておきます」


 彼女はあのメモの件も耳にしているのか、不思議そうな表情を浮かべているものの、その気持ちを言葉には出さないようだ。


「じゃあ、あっちに行くぞ」


 俺は彼に連れられて作業場へと向かった。

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