第9話 万屋

 よろず屋の前まで着いた。

 誰かに勧められないとわざわざ入ろうとは思わないくたびれた雰囲気だ。


 店内に入ってみると、日も沈み出したせいなのか少し暗かった。

 乱雑な空間で、どこになにがあるかわかりにくい。


「いらっしゃい」


 板垣退助のようなひげが立派なジイさんだった。


「地図を買いに来た」

「それなら普通の道具屋にもあったじゃろ」


 商売する気が感じられない。


「普通がよくわからないが、ここにはギルドの担当者に教えてもらったから来ただけだ」

「ほう……」


 老人は俺をじっくり観察してから、話を続けた。


「欲しいのはアドリニス王国領の地図か?」

「それだ。他にもあるのか?」

「ちと高いが魔法の地図なんかもあるぞ」

「魔法? いくらだ?」

「特別に百万ドルにまけてやろう」


 シンプルにぼったくられているのだろうか。


「気持ちはうれしいがそれは無理だ。どんなものなんだ?」

「持ち主に合わせて成長するんじゃよ。詳しくは手にしてからのお楽しみじゃ」


「それじゃあ、その他には?」

「詳細はあまり記されていないが、世界地図もあるぞ」

「そうだな、一応それも買っておこう」

「他国に行ったら、その土地ごとの地図を買うといいじゃろう」

「そうしよう。二つでいくらだ?」

「合わせて五十ドルじゃ」


 金を支払って、受け取った地図は癖ですぐに闇に格納してしまった。

 だが老人は無反応だった。

 マジックバッグの類など知ってるぞということかもしれない。


「ここには他にどんな種類のものがあるんだ? 地図があるとは聞いたのだが」

「方位磁針、羅針盤とも言うが、おぬしにはそれも必要じゃないか?」

「それは大丈夫だ。他には?」


 ちなみに星の磁力は感じ取れる。

 北極点と南極点への方向は、レインに聞かずとも認識できていた。


「昔はポーション水薬や魔法をしたためたスクロール巻物、武器や防具といろんなものを扱っておった」

「で、今は?」

「ほとんどはワシの趣味で集めているもので、物々交換という形式にしておる。ちなみに誰にでも売るわけではない」

「レアアイテムということか」

「まぁそうじゃな。人によってはガラクタかもしれんが。魔法の地図も本来は物々交換のつもりじゃったが、おぬしには特別サービスじゃ。交換に値しそうなものを手に入れたらここに来るといい」


「ああ、レアアイテムか資金が調達できればまた来るよ。なんで俺をひいきにしてくれるんだ?」

「おぬしからは邪気が微塵みじんも感じられん。心の悪しき者には使ってほしくないからの。ただ、残念なことに……」

「魔力も闘力も無い、だろ?」

「フォッフォッ、隠しとるのか?」

「いや、そういったことは一切していない」

「そうか。それから心までも見えないようじゃの」

「普通は見えるのか?」

「こう見えても接客を長年やってきたプロじゃからな」


 この老人、実はとんでもない能力者だったりするのかと思ったが、よくわからない。


「また来るよ」


 店を後にした俺は、デリシャスラビット捕獲のおすすめポイントに向けて、透明状態になり飛び立ったのだった。

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