第6話 スキンヘッドに絡まれる

 他にもアリスから簡単な説明を受けた。


 十ドル支払えば、その時点での自身の攻撃力や魔法防御力といったステータスをIDカードに記すことができる。

 魔法の適性も同時にわかるので、できれば最初にやっておいたほうがいい。


 強さや熟練度を見分ける手段としてランクが用意されていて、皆最初はFランクから開始する。

 FからAランクまでが基本のランクとしてあり、特に優れた者にはSランクが与えられる。

 さらにそれより上はSSランクやSSSランクのようにSが重なっていく。


 白地のIDカードに記されるランクの文字色は、Fならブラック、Eならイエロー、Dならグリーン、Cならブルー、Bならピンク、Aならオレンジ、Sならレッドと決まっている。

 SSランクなら色は同じで、文字がSSになる。


 依頼内容には難易度によって対象者のランクが定められていて、依頼主から要望が無ければギルドが決定している。

 依頼主かギルドから指名されない限りは自分のランクを超えて依頼を引き受けることはできない。


 ランクアップ条件は依頼の達成状況だけでなく、それ以外の功績も考慮される。


 依頼は掲示板を見るか、担当者や他の従業員に相談して決める。


 依頼完了時は、ギルドで報告し、合わせて報酬も受け取る形式が主流。

 金銭での支払いならば、ある程度の額までならギルドが立て替えてくれるので、すぐに報酬が手に入る。

 でかい案件か報酬の内容が金銭以外だと話は別になる。


 このギルドはアドリニス王国領本部。

 他の町にもある程度の規模であれば支部が設置されている。

 ギルドは国境を越えた組織になっていて、ランクも世界共通である。

 そのためIDカードはギルド以外でも公的な身分証明書として使える。




 ランク、IDカード、依頼、ギルドについては大体そんな感じだった。

 当然俺のIDカードはブラックのFだ。

 カラーとしてはこのままが一番似合っている気もする。


 ステータスは測定していない。

 金が無いというのもあるが、俺にとっては意味のないものだ。

 魔法の込められた鑑定石という水晶を使って測るようだが、もし壊れたら高額な弁償代金が発生するかもしれない。


 倒した魔物によっては、持ち込めば素材として金と引き換えてくれるらしい。


「――なにか他に聞きたいことはありますか?」

「素材の件で、早速見てもらいものがあるんだが」

「えっと、……見学ということですか?」


「おいボウズ、アリスちゃんが困ってんじゃねぇか。安心しろ、金になるようなものなど、お前には当分手に入れられねぇよ。清掃や薬草採集がお似合いだぜ」


 スキンヘッドのデカイおっさんが嘲笑ちょうしょうを浮かべた様子で横から割り込んできた。

 テーブルのほうからは、わざとらしい大きな笑い声が聞こえてくる。

 どこの世界にもこんな野郎はいるんだな。


「はは、大丈夫ですよゼイルさん」


 アリスが苦笑いで応じる。


「魔力も闘力も全く感じない奴なんか久々に見たぜ!」


 説明で聞いていたが、闘力とは物理的な戦闘能力の気やオーラみたいなものらしい。

 スキルとして数値で分析できるものもいるとかいないとか。

 そうでなくても、ある程度の戦闘経験があれば肌で感じ取れるようだ。

 これについては魔力も同じらしい。

 森で遭遇したゴブリンは、ルシアの魔力を本能で感じとっていたのだろう。


 ギルドの中に入って視線を受けていたのは、俺があまりにも弱そうだったからなのかもな。


「まれに能力を隠蔽できる者がいると聞きます。もしかしたらリュウ様も、その一人かもしれませんよ?」

「見たまま通りひ弱に違いねぇ」


 こういう奴はすぐにフラグを立てたがる。

 悪者ならばもう消えているところだ。


「ゼイルさん! その辺にしてください!」

「なんでこいつが様付けで、俺がさん付けなんだ?」

「もぉ、酔ってるんですか? 新規登録時に限り説明が終わるまでは様を付ける流儀なのはご存知ですよね? それ以降の敬称は、担当者との距離感次第です。様付けがよければ、そうお呼びしますが……」

「お前がアリスを一番困らせているようだな。アリスは今より俺をリュウと呼んでくれればいい、敬語も不要だ」


 これでしょうもない問題は解決するはずだ。


「すいません……リュウ、ありがとう」

「いきなり呼び捨て同士というのもどこかしゃくさわるな」


「もう黙れ」

「むぐ……」


 できる男の雰囲気を漂わすイケメンが現れ、背後からゼイルの口を手で塞いだ。


「ウィリアムさん!」

「すまんなアリス。ゼイルもこの少年、いや青年のことを思って、憎まれ口をたたいているだけなのだ」

「もちろんわかっていますよ」


「リュウと言ったな。私はウィリアムだ。仲間の非礼をびよう」

「問題ない」


 ウィリアムは軽く会釈して、ゼイルを連れて店の出口へ向かった。

 ゼイルとは同じパーティで、そのリーダーといったところだろう。


「リュウ、気にしないでね」

「大丈夫だ。とりあえず、案内をお願いしたい」

「そこから進めば作業場に通じているわ」

「ありがとう」


 受付を後にし作業場へと向かった。

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