第5話 ギルド

 空中移動で森を抜けて内陸のほうへ進むと町が見えてきた。

 ここには城が無いようだ。


 【ヴァニッシュ】で姿は不可視にしてある。

 いい意味で有名になるまでは、変な注目を集めないためだ。


 もうしばらく進むと、次に見えてきたのは城を中心とした町だった。

 さっきの町より規模が大きい。

 ここが王城とそのみやこだろう。


 拠点を置くなら都会のほうがギルドの規模も大きいはずだ。




 町の適当な位置で降り立ち、姿を見えるようにした。


 通行人にギルドまでの道を教えてもらえた。

 親切さに甘えて、この国について簡単な紹介もしてもらった。

 ここは王都で間違いないようだ。


 ギルドがこの世界にあって助かった。

 もし無かったときは、傭兵ようへいみたいなことから初めて、国の騎士団に入って……と面倒くさそうな展開を考えていたのだ。




 無事たどり着けた。

 ここ商業街において、周りよりも二回りほど大きい建物だった。


 西部劇で見るような大きなスイングドアを押し開けて中へ入った。

 大きな広間に木のテーブルとイスのセットがいくつもあり、バーやパブといったような想像通りの雰囲気だ。

 オシャレな感じは皆無なので、日本的に言えばビアホールといったところか。

 日が昇っているうちから、楽しそうに酒を飲んでいる者もいる。


 街でもたくさん見かけたが、ここにも人間以外の種族が所属しているようだ。


 亜人種系は見かけだけで判断すると俺が悪になりかねない。

 正当防衛以外では、やはり正規のルートで討伐するようにしないとな。


 一部の者からチラチラと視線を感じる。

 なにか無作法な振る舞いでもしてしまったのか。

 気にはなったが、教えてもらった通り奥の受付に足を進めた。


「新規登録したいのだが」


 有名大企業の受付嬢のように美人ぞろいだ。


「かしこまりました。血液か頭髪をご提出いただけますでしょうか」


 遺伝子情報みたいなやつか、俺にはちゃんと存在しているのだろうか。

 頭髪を提出した。


「ありがとうございます。少々お待ちくださいませ」


 俺が声を掛けた人は、ツンととがった耳をしており、どこか神秘的な雰囲気がある。

 銀髪で程よく白い肌にスラリと伸びた手足、細身でありながらも官能的なボディライン。

 これがエルフかぁ。美しいな。


「たしかに新規登録ですね。ではこちらに名前をご記入ください」


 ペンネームみたいなもんでいいのかな。


「リュウ様ですね。では、こちらがIDカードになります」

「ありがとう」

「わたしは受付のアリステルと申します。皆からはアリスと呼ばれています。今後はわたしが担当いたしますので、よろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしく。あ、お金って……?」


 白々しく聞いてみた。

 足りなければ借りてクエストしてすぐに返せばいいと考えていた。


「初回は無料ですよ。再発行には五ドルの手数料がかかりますのでご注意ください」


 ポイントカードみたいな軽いノリだな。


「承知した。こんな美しい人に担当してもらえるとは俺もラッキーだな」

「うれしいのですが、褒められても何も出てきませんよ」


 そういうつもりではなかったのだが。

 教育が徹底されているようだ。


 エルフは長命で中には不老不死な者がいるぐらいなので、俺など赤子同然に見られているのだろうか。


 俺は三十五歳の平凡な日本男児だったが、二十歳ぐらいの時の外見に戻っている。

 時空の歪みが関係しているかもしれない。


 いい具合にイケメン補正もかかっている気がする。

 黒髪黒目。

 唯一のアイデンティティといえばシルバーのメッシュが入れてあるところだろうか。

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