第4話 血祭り

「闇に眠れ。【ジ・エンド・ゲート終わりの門】」


 一匹の姿が忽然こつぜんと消えた。

 残された二匹は、何が起こったのか理解できていないようだ。


 ブラックホールを発生させただけで、魔法のように唱える必要は無い。

 ただの中二的演出だ。


 もう一匹にも同じく、略して闇門あんもんをプレゼントしてやった。

 今のはビー玉ぐらいの大きさだが、大きさに関係なく、これに吸い込まれたものは俺の闇=異空間へと転送される。


 手元で作成して敵に向かって放つのではなく、おおよその敵の体内の位置で発生させているので、防ぎようは無い。

 見えたとしても結果は同じだろうが。


 最後の一匹は俺に背を向け走り出した。

 どうやら巣穴へ招待しくれるようだ。


 俺も水平移動で障害物をすり抜けながら後を追う。

 途中後ろを振り向いてきたが、俺の姿は視覚的にも捉えられない状態にしてある。

 【ヴァニッシュ】と呼ぶことにしよう。


 しばらくして、ゴブリンは足を止め、後ろを振り向き、再び前に進みだした。

 その先には洞窟の入口らしきものが見える。


 こけや植物などで緑色になっていて、上には木が生えており森林と一体化しているが、低めの岩山のようだ。

 おそらく上空からは見つからないだろう。


 サプライズしたいので、ここまで案内してくれたゴブリンを、入口にいた二匹と一緒に闇へ送った。

 あの二匹は門番みたいなところか。


 内部へ入ってみると、ひんやりとしていて薄暗く、獣臭に混じって、血の臭いや、すえた臭いがしている。

 普通の人間であれば気が狂いそうな環境だろう。


 明るさについては隙間から差し込む自然光でかろうじて前が見える程度だった。

 夜になればこうもいかないので、きっとゴブリン達は夜目がきくのだろう。

 ひょっとすると魔物全般にいえることなのかもしれない。


 俺にとっては暗闇なんざ専門分野で、視覚的に捉えたい場合は光の感度を調整すれば済む話である。

 お楽しみイベントに備えて視界を明るくしておいた。




 ざっと確認したところ大きな一本道でシンプルな構造だった。

 中にいるゴブリンは全部で百匹ぐらいだろうか。


 捕らわれていた人間もいたが、残念ながら命のある者はいなかった。


 一番奥には少し開けた空間があり、石の上に腰をかけた一回り体の大きいゴブリンがいた。

 周りにいる奴らも、森で見かけた奴らに比べると大きい気はする。


「おい、新しい女はまだか?」


 そのリーダーらしきゴブリンが言った。


「ぼっ?」


 話しかけられた手前のゴブリンは、奇声を発した次の瞬間、頭のてっぺんから真っ二つに引き裂かれた。

 くすんだ紫色の鮮血が飛び散る。


「な、なんだ!?」


 リーダーゴブリンは、眉を細めて険しい表情をしている。

 周りにいた奴らもざわついている。


「祭りの会場はここだったかな?」


 俺は姿を現し、リーダーゴブリンにゆっくり歩み寄る。


「あ? お、お前ら! こいつをぶち殺せぇ!」


 自称女神いわく、せっかちはモテないそうだぞ。

 リーダーゴブリンの怒号で、続々とゴブリンが押し寄せていた。


「ぐあああ!」

「ぐおおお!」


 襲い掛かってきたゴブリンの腕が、持っていた武器ごと消滅した。


 今の俺は闇門あんもんそのものと化している。


「お前ら、奴に近づくな!」


 周りの連中は一斉に間合いを取り始めた。


 矢や魔法らしきものが飛んできた気もするが無視した。


「闇に散れ。【アンノウン・セイバー未知なる太刀】」


 剣状に形状を変えているだけで、特に違いはない。

 右手に発現させた、略して闇刀あんとうを、数回程度左右に高速で振り抜いた。


 頭から輪切り状に切られたゴブリン達の肉体は、ずれ落ち鮮血が舞う。


 こちらのほうが派手さはあるな。


 逃げ遅れた十匹程度はその場で絶命している。


 形状は自由自在なので棒高跳びのように長くするか、近づけば済む話だが、せっかくの祭りなので他の芸も披露することにした。


「闇に眠れ。【ジ・エンド・ゲート終わりの門】」


 闇刀あんとうを頭上に掲げ言い放ったが、これも演出に過ぎない。


 残りの連中が次々に消えていく。

 残すところリーダーゴブリンだけとなった。


なにが狙いだ? 貴様、ハンターか?」


 俺の知る冒険者という意味だろうか。


「ただの通りすがりだ」

「こんなふざけた弱そうな奴に俺様が負けるはずない!」


 そう言うと、ぶつぶつと詠唱を始めた。

 能力値上昇系の魔法を自らに重ねて掛けているようだ。


 優しい俺は待ってやることにした。


「キングである俺を怒らせたことを後悔させてやるぜ!」


 キングと名乗るザコの両肘の上部を切断してやった。


「ぐおおおおお!」


 他の連中と同じく、くすんだ紫色の血が噴き出す。


「あ、ありえない。貴様のどこに、そんな力が」


 リョリャルにも、ルシアのように気や能力を隠蔽するスキルぐらいありそうなのだが。

 こいつの知る世界は狭かったというわけだな。


「があああああ!」


 今度は両膝の上部を切断した。

 四肢を失ったキングは叫びながらその場に前のめりに倒れ伏した。


「何か言い残すことは無いか?」

「一体何者だ!?」

「俺も知りたいところだ。それじゃあな」


 分断された四肢も含めて、闇に送った。




 洞窟の外に出た。

 いい空気だ。

 五感を無にすれば、負の感覚を味わうことはなくなるが、できる限りは人間的に受け入れたいと考えている。




 さてと。

 ルシアも忙しそうなことだし、ギルドとやらがあるなら、行ってみるか。

 そこで討伐情報を仕入れるのが手っ取り早そうだ。


 今の俺には夢や野望といったものは存在しない。

 それは退屈なことである。

 とりあえずは、地球人だった頃の夢を順番に実現してやろうと思っている。

 まるで他人事ひとごとのようだが、記憶を共有しているが別人という感覚なので仕方ない。


 まずは、異世界で冒険者になって最高ランクに上り詰める、だな。


 後々の計画のため、あまり悪目立ちしないように気を付けるべきだが、どこまで抑えられるだろうか。

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