第3話 ゴブリン

 転移魔法の類だと思われたが、派手な演出が終わってしばらく経っても、何も起きなかった。


「ん?」

「ウソ……、あらゆる魔法が効きませんてやつ?」

「かもな。気が済んだら俺のことは放っておいてくれると助かる」

「ますますアナタに興味がわいてきたわ」


 あまりしつこく絡まれるのも微妙だな。

 のんびりと異世界を満喫したいのに。


 ただ、この自称女神は俺に【言語理解】のスキルを授けるだけの力を有している。

 できれば穏便に済ませたいが、どうしたものか。


「これ以上どうしたいんだ? スキルをくれた礼として、お前に危害は加えない。妨害する気もない」

「勝った気でいるようだけど、アタシはまだ本気を出していないだけよ」


 負けず嫌いな奴だ。


「本気でやればいい」

「神がそんな簡単に世界に干渉できるわけないでしょ」


 神だからこそ簡単だと思ったが違うのか。


「そんな神は俺を殺そうとしてきたわけだが」

「アナタはこの世界において理から外れた存在だからよ」


 最初からそう思われていたのだろうか。

 後付けの気もするが。


「で、どうしたら平和条約を結べるんだ?」


『アタシはルシアンナ。ルシアって呼んでね』

『ん? 俺はリュウだ』

『知らないことがあればアタシがなんでも教えてア・ゲ・ル』


 なるほど【テレパシー】か。

 どこまで万能か不明だが、いわゆるナビだな。


「本当に特別待遇なんだからね」


 ツンデレ要素あり。


「この世界のことを知らない俺にとってはプラスだが、お前にとってのメリットはなんだ?」

「お前じゃなくて、ルシアね」


「ルシア、俺の位置を把握し監視するつもりなのか?」

「得体の知れないリュウと友好関係を築いておきたいだけよ。そんな便利な機能は無いわ」


「ならば存分に甘えさせてもらおう」

「たまにはアタシのお願いも聞いてよね」


 今言わないパターンか、まぁいいだろう。


「了解だ。早速質問だが、自分の力を試してみたいのだが、手頃なモンスターはどこにいるのだろうか」

「初々しいわね。でもアタシも見てみたいわ。リュウって飛べる?」

「飛ぶという表現が正しいかわからないが、浮遊して移動することは可能だ」

「へぇ、飛べるんだ」

「転移とか使わないのか?」

「無駄に疲れたくないのよ。じゃあ、アタシについてきて」


 そう言って彼女は猛スピードで飛び去った。

 俺もその後に続く。

 翼でも広げるのかと思ったが、俺のスタイルと同じく直立姿勢のまま空中を移動している。

 空間転移には神にとってもそれなりのパワーを消費するようだ。


 さっきの場所には急ぎの用は無かったのだろうか。


「このスピードについて来られるんだね」


 この負けず嫌いは俺にどうしても勝ちたいようだな。


「まあな。ところで地球のようにこの世界にも名前があるのか?」

「リョリャルよ。星の名前と一緒よ」


 噛みそうな名前だ。


「さすが女神」

「あ、今更だけど、アタシの存在は他言無用でお願いね。神とか女神とか言ったら、ややこしくなるから」

「了解だ」




 しばらく飛行していると大きな森が広がる陸地が見えた。


「アドリニス王国にある大森林よ。あそこに降りるわ」


 海沿いは高い崖が続いていて、一歩踏み込むと木々が鬱蒼と生い茂っているジャングル地帯だった。


 適当に降り立ち、歩いて奥へ進んで行くと、少し離れた位置に全身が深緑色の人ではない二足歩行の動物を見つけた。

 人型で小さな鬼のような見た目ではあるが人間とは言えない。


「ゴブリンがいるわ」


 それは俺が知っている通りのゴブリンだった。


「あいつらは悪い魔物なのか?」

「それはなにを基準とするかよね。リュウがそう思えば、それでいいんじゃない」


 三匹いる。

 だが様子がおかしい。

 なにかにおびえているようだ。



「あれはどういう状況なんだ?」

「あ、アタシの魔力解放したままだったわ。はい、これでどうかしら?」


 三匹はキョロキョロと辺りを見回し、しばらくすると歩き出した。


「そんなに魔力が出ていたのか」


 神でも魔力と表現するんだな。


「リュウが不感症なだけよ」

「かもな」


 とりあえず俺はゴブリン達の前に姿を現してみた。


なんだ貴様」


 そう言いながら、手にした棍棒こんぼうで殴りかかってきた。

 残りの二匹もそれに続く。


 俺がさっきの魔力の持ち主だとは考えていないようだ。

 目先のことだけに集中するタイプか。


『俺にはおびえていないようだな』


 少し離れた位置にいるルシアに伝えた。


『リュウからは魔力が微塵みじんも感じられないからよ』


「こいつの体、どうなってやがる?」

「空気みたいで手応えが無い?」


 予想通りの反応を示してくれている。


『とりあえずこいつらは悪い魔物で決まりだな』

『ごめん、急用ができたから、また今度ね!』


 ルシアは転移して去っていったらしい。

 神でも忙しいようだ。


「では、お前達の処刑を始めよう」

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