第39話 幸せな時間

 麻子とドナは、画材店で、彩のための画材を物色していた。

 そこでは、一般的に用いられる、電子ペーパーとタッチペンやスタイラス筆の組み合わせだけでなく、古くからあるキャンバスや油絵の具なども売られていた。

「たくさん種類があるんですね。このあたりの道具は、見たことがないです」

「画材にもいろいろあるのよ。油彩に水彩、アクリル画やパステル画などが一般的ね。本格的に始めるなら、紙やキャンバスに絵を描くのも楽しいかも知れないわ。でも、道具を一式揃えるのは大変よ。それに、どの画材が彩さんに合うか、分からないしね」

 ドナのアドバイスに従って、どんな描き方もできる電子ペーパーとタッチペンのセットを購入することにした。どんな描き方が好みなのか、分かったら本格的な画材を揃えようという考えだ。

「他になにか、欲しいものとかないのかな? 先に聞いておけばよかったわ」

 かわいいリボンの付けられた包みを手に、麻子は思案していた。

「そうね・・・足りないものは、モニカが用意してくれるから、なくて困っている物とかはなさそうね」

「じゃあ、あとは鬼神さん達にも何かお土産を買っていこうかしら」

 いろいろとお店を見て回ったが、最終的にはケーキ屋で黒糖を使った珍しいシフォンケーキを見つけ、それを買うことにした。

「そう言えば、全員が集まるところを見たことがないわ。これでお茶会ができるといいな」

 昨日まで毎日、麻子とドナは夕方頃に彩を訪ねていた。桜や八千代とは何度か顔を合わせ、一緒に夕食を共にした事もあったが、白鳥の姿は見かけたことがない。

 一度、全員が集まって話ができたらと、麻子は前々から思っていたのだ。

「じゃあ、私のほうから先にモニカに伝えておきましょう。彼女が各自に声を掛けてくれるでしょうから」

 ドナの提案を聞いて

「そうね。お願いします」

 と麻子はにこやかに返事をした。


 彩は母親と散歩するのが日課になっていた。

「お父さん、残念がってたわね。明日は必ず行くと伝えてくれって」

 母親が、父からの伝言を彩に伝える。

「お仕事、大変みたいね。あまり無理しなきゃいいけど」

「本人は、まだ20年はがんばるって言ってるわ」

 2人で顔を見合わせて笑った。

 歩道を進んでいくと、少し離れた場所で白鳥がトレーニングをしている様子が見えた。

「お母さん、こっちに行きましょう」

「えっ? でも、あそこに白鳥さんが・・・」

「いいの」

 白鳥が、彩の存在に気づいたらしい。大きく手を振った。

「手を振ってるわよ、彩」

 母の言葉に、彩は白鳥のほうを一瞥したが、すぐに顔を背けて横道にそれてしまった。

 母は彩の意外な行動を見て、白鳥に一礼すると、慌てて彩を追いかける。

「いったい、どうしたの?」

「あの男、最低よ」

 彩は、以前あった出来事を母親に話した。

「あら、それはまた積極的なのね」

 母親の感想である。

「どうせ、見境なく女性に手を出すような人なのよ」

「もしかしたら、本気で彩のこと好きなのかも知れないじゃない」

「それで、いきなり押し倒してキスしようとするの? いや、抵抗しなかったら、あのまま何されたか分からないわ」

「いいじゃないの、少々強引な人っていうのも」

「相手のことが好きならね。タイプじゃないって言ったでしょ」

「じゃあ、もし鬼神さんに迫られたらどうする?」

「えっ?」

 しばらくして、彩の耳が赤くなった。

「ほら、口説き方としては悪くないのよ。まあ、会ってすぐに、そんな事するような男は、信用できないのは分かるけどね」

「そ、そうよ。鬼神さんが、そんな事するはずないし」

 そう力説する彩の姿を見て、母親は思わず吹き出した。


 鬼神は、この日も施術があったため、その終了後、昼の3時頃にお茶会を開くことになった。

 それまでの時間、麻子は約束通り、八千代と一緒に勉強をしていた。八千代の隣に座り、彼が電子ペーパーに書く内容を真剣に見つめている。

「最大公約数を簡単に求める方法があるんだよ。これを使えば、どんな問題でも解けるよ」

 八千代が麻子に説明する。

「へえ。どうやって求めるの?」

「それはね・・・」

 ここでは、八千代が完全に麻子の講師役となっていた。

「本当だ。不思議ね、ちゃんと最大公約数になってる」

 麻子は、感心したようにため息をついた。

「あとは、分数の足し算と引き算だったよね」

「うん」

「通分は分かる?」

「通分は分かるけど、分数の横に整数が付く場合が分からなくなるの」

「ああ、帯分数はね、仮分数にすればいいんだよ。こうやって・・・」

 八千代は、電子ペーパーに例を書く。顔を近づけて式を見つめる麻子の横顔が八千代に接近し、八千代は驚いて身を固くした。八千代にとっては、麻子は大人の女性のように見える。長い黒髪から、甘いフローラルな香りが漂い、美しい緑青色の瞳は宝石のように輝いている。八千代の心臓は高鳴るばかりだ。

 こんな時、自分の思ったことを女性に伝えなさいと白鳥から教えられていた。八千代は、白鳥が言っていた女性の褒め言葉を一生懸命、思い出そうとした。

 ゼンマイの切れたおもちゃのように動かなくなった八千代の様子に気づいた麻子が

「どうしたの、蘭くん?」

 と尋ねた。

 八千代は、麻子を見つめ、ただ一言

「麻子お姉さん、きれい」

 とつぶやくだけだった。白鳥の教えた口説き文句そのものではないが、ストレートな表現であるだけに、麻子にとっては驚きと同時にうれしい言葉でもあった。

「ふふっ、そう言ってくれると、うれしいな。ありがとう、蘭くん」

 麻子の感謝の言葉を聞いて、八千代は途端に顔が赤くなってしまった。もう、説明どころの騒ぎではない。

「蘭くん、大丈夫? ちょっと休憩しようか」

 八千代は下を向いたまま、小さくうなずくだけだった。


 休憩の間、麻子は八千代の対面に座り、八千代が落ち着くのを待った。

 そのとき、誰かがノックした。入ってきたのは桜である。

「あら、今は休憩中?」

 桜が尋ねる。

「蘭くんがちょっと・・・」

「えっ、調子でも悪いの?」

「いえ、あの・・・」

 麻子は、簡単に今までの出来事を説明した。

「また、あの男のせいね。私が来るまでは、あいつが親代わりのようなものだったから、純な蘭くんにいろいろと吹き込んだみたいなのよね」

 桜は、そう言って八千代へと近づいた。

「蘭くん。女性がきれいだなと思っても、無理に褒めなくていいのよ。自分の心の中にしまっておくの。もし、本当にその人に恋したら、その時に言えばいいのよ」

 桜の説明を聞いて、八千代は小さな声で話し始めた。

「でも、麻子お姉さんといると、僕、胸がドキドキするんだ。これって恋だよって白鳥さんに教えてもらったよ」

「あら、そうなの?」

 桜は、麻子の顔を見た。

「どうやら、この子にとって初恋の相手は、あなたのようね」

 そう言われて、麻子は困惑している。

「私、どうすればいいでしょうか?」

 麻子に尋ねられて、桜は

「あなた、モテそうなルックスなのに、恋愛には疎いみたいね」

 と言った。小さい頃からスリーパーであり、友人もいないのだから、当然ではあるだろう。

「今まで通りに接してあげればいいわよ。特別なことは必要ないわ。もしかしたら、恋愛に発展するかも知れないし、何も進展しないかも知れない。成り行きに任せればいいのよ」

 桜にそう言われて、麻子はうなずいた。

「そうそう、私がここに来たのは2人を呼ぶためだったわ。もうすぐお茶会が始まるから、屋上に行きましょう」

 そう言われて初めて、2人はすでに3時を過ぎていることに気が付いた。


 竜崎と浜本が廊下を歩いていると、後ろからマリーが追い掛けてきた。

「竜崎さん、浜本さん、映像データの復号に成功しました」

 マリーの声を聞いて、竜崎と浜本は後ろを振り向いた。

「割と早かったな」

 竜崎の言葉に対して

「予想よりも単純な暗号処理でした。少々、不気味ではありますが」

 とマリーは返事した。

「まあ、とにかく見てみましょうよ」

 浜本に促され、3人は移動を開始した。


 プロジェクターに映し出された映像に、竜崎と浜本は魅了されたかのように引き込まれた。

 そこには、一人の男性が写っている。その顔は、写真で見た古池信明のものだった。穴が空いたような黒い瞳が、カメラを通して自分たちを見透かしているように感じ、2人とも寒気を覚えた。

「私は『ノア』」

 男性は、自ら『ノア』と名乗った。

「私は、これから地獄の業火に焼かれ、命を落とすだろう。しかし、我が本懐が失われることはない。必ずや、人間は進化の道を歩むことになる」

 『ノア』は、そこまで言葉を発した後、目を閉じ、下を向いた。そのまましばらく、何も語ることはない。

「どうしたんだ?」

 竜崎が、いらついた様子で声を発して間もなく、画面上の『ノア』が、また正面を向いた。

「ハンターの鬼神は、私を殺したがっているようだな。彼に伝えよ、『ノア』は死んだと。それが、彼の魂を救う唯一の手段だ。彼が進むべき道は、そのとき開かれる。世界は、変化するのだ」

「どういう意味だ? 何が変わるというんだ?」

 竜崎が言葉を挟んだ。『ノア』のメッセージはまだ続く。

「そもそも、人間は長い進化の歴史をたどってきた。その中には、緩慢な変化と急激な変化がある・・・」

 映像の中で延々と、『ノア』は進化の重要性を説いていた。その根底には選民思想があり、選ばれた者だけが進化を受け入れることができ、他の者は、血肉となって取り込まれることで救われるという考えであった。『ノア』にとって進化は、病原体への感染によって引き起こされるものらしい。

「狂った考え方だが、感染者を増やしたり、人肉を食べていた理由はこれではっきりしたな」

 竜崎は、額の汗を拭いながら2人に話しかけた。浜本は、ただ映像を見ながら、うなずくだけだった。

「ひとつ、分からないことがあります。『ノア』はなぜ死んだのでしょうか?」

 マリーが竜崎に問いかける。

「この映像を見るに、自ら死を選択したようにも見えるし、誰かに命を狙われて、その前にメッセージを残した可能性もある。前者なら、自殺の理由が分からないし、後者なら、誰が命を狙ったのか分からない」

 竜崎の返答を聞いて、浜本が口を開いた。

「こんな過激な思想を持つ人間なら、命を狙われるのも不思議ではないでしょう」

「まあな。しかし、あれだけの信者がいるんだ。そう簡単に殺られるとは思えんがな。信者に裏切られたのなら別だが」

「そう言えば、あの屋敷には『ノア』の死体しかありませんでしたね」

「信者が裏切った可能性は高いということか」

 竜崎は、深くため息をついた。

「ところで、この映像の『ノア』の顔は、監視カメラの『ノア』とは一致しませんよね。どうしてなんでしょうか?」

 浜本が、疑問を投げかけた。

「影武者がいるのか?」

「しかし、あの不気味な瞳はどれもよく似ています。違う人物だとも思えないですね」

 浜本が答える。

「そうすると、変装か?」

「少なくとも、監視カメラの写真と古池信明の顔は骨格やパーツの配置が異なりますから、変装というレベルではないです」

 今度はマリーが反論した。

「おいおい、じゃあどうやって同じ人物が顔を変えるんだい?」

 誰も答えを見出すことはできない。

「まあ、それは置いておこう。我々はまだ、残りの信者を捕まえなければならない。そいつらを挙げれば、この疑問も解決できるだろう」

 竜崎はそう言って、椅子から立ち上がった。

「鬼神さんには、私から伝えておきます。これで、彼がハンターを続ける理由はなくなったわけですね」

 マリーの話を聞いて、竜崎は腕を組みながら

「鬼神は、復讐のためにハンターを続けていたと?」

 と尋ねた。

「それは間違いないでしょう。鬼神明日香と鬼神咲紀を殺した犯人に接触するには、警察に属していたほうが都合がいいですからね」

 竜崎はマリーにうなずいて見せたが、しばらく何か思案したかと思うと、上を向いてつぶやいた。

「鬼神の進むべき道とは、どういう意味だ?」


 病院の屋上に備え付けられていた大きなテーブルを使い、お茶会が開催された。

「このケーキ、おいしい」

 八千代がシフォンケーキを夢中で食べている姿を、麻子はうれしそうに見つめていた。

 桜と彩は、鬼神のそばを離れない。

「鬼神さん、もうすぐ退院ですってね。なんだか寂しいな」

 桜が鬼神に話しかける。

「また、たまには顔を見せに来ますよ」

 鬼神が桜に顔を向けて答えた。

 彩は、桜を鬼神から引き離したいのだが、それができなくて悶々としていた。

 白鳥は彩の母親と話し込んでいた。

「彩さんは母親似なんですね。あなたも実に若々しく、美しい」

「あら、お上手ね」

 本人への接近には失敗したので、親を通じて親密を深めようという狙いだろうか。それとも、単に根っからの女好きなのだろうか。

「彩さん、ちょっとだけ、いいですか?」

 背後から麻子に話しかけられ、彩は車椅子の向きをくるりと変えた。

「どうしたの、麻子さん?」

 そう答える彩に、すっと包みを差し出した。

「これ、約束した画材です。気に入ってもらえるといいけど」

 包みを受け取った彩は、驚いたと同時にうれしそうな顔で

「ありがとう。開けてもいい?」

 と尋ね、麻子は笑顔でうなずいた。

 彩が包みを開けると、中から電子ペーパーとタッチペンが入った化粧箱が現れた。箱を開けて、電子ペーパーを取り出してみる。

 A5サイズの大きさで、描く面は白く、裏側は黒い板になっている。板の対角を指で挟むと、大きさを自由に変えることができるようになっていた。

 タッチペンは、ペン先の太さが自由に調整できる。ブラシ状のものもあって、筆の太さや形状が変えられる本格的な仕様だ。

「これがパレットね。ペンで触れると色が変わるわけか。これだけで一通りの絵が書けるみたい。水墨画なんてモードもあるわ」

 彩のうれしそうな声を聞いて、鬼神も興味を示した。

「へえ、俺も昔、持っていたけど、今は随分と進化しているんだな」

 鬼神の言葉に、彩が

「絵を描かれていたことがあるんですか?」

 と尋ねると、鬼神は恥ずかしそうに

「買っただけで、ほとんど使ってないんだ」

 と言った。

 そのとき、桜が話の輪に入ってきた。

「私、一度、絵を描いてみたいと思っていたの。鬼神さん、それ貸していただけないかしら?」

「いいですよ。もう使うことはないから、差し上げます」

 こうして、桜は鬼神と再開するためのきっかけを得たのだった。


 お茶会が終了し、彩が自室に戻っていると、ノックの音がした。

「麻子です。鬼神さんも一緒です」

「どうぞ。ドアは開いているわよ」

 入ってきたのは麻子、鬼神、ドナの3人だった。

「麻子さん、そう言えば、画材の代金を支払ってなかったわ。いくらだったの?」

「えっ? いや、いいですよ。あれは私からのプレゼントですから」

「でも・・・」

「彩さんには、今までたくさんお世話になりました。感謝しきれないくらい」

 少し照れたような麻子の顔を見て、彩も素直に受け取ることにした。

「本当にありがとう。絵が描けたら、麻子さんに一番に見せるわね」

「楽しみにしてますね」

 2人は顔を見合わせて笑った。

「じゃあ、今度は私から、麻子ちゃんにプレゼントね」

 そう言って、ドナが麻子に差し出したのは、金色に輝くブレスレットだった。表面には、花柄が彫刻されている。

「わあ、きれい」

 それは、麻子の腕に比べると大きいサイズで、手から通すことができるほどだった。しかし、手首の位置で輪が自動的に縮み、ちょうどいいサイズに変化した。

「ブレスレットを強く握ると、元の大きさに戻って外すことができるわ。それから、もう一つ、重要な機能があるの」

「どんな機能ですか?」

「GPS機能よ。万が一、麻子ちゃんが誰かに誘拐されても、それがあれば居場所がすぐに分かるわ。実はね、このブレスレット、鬼神さんが麻子ちゃんのためにどうだろうって、買ってきてくれたの」

「ドナ、それは・・・」

 鬼神が慌てて口をはさんだ。自分が買ったことは内緒にしておくつもりだったのだ。

「そうだったんですね。鬼神さん、ありがとうございます」

「いや・・・それがあれば、ドナが常に居場所を把握できるから、もしもの時に安心だと思ってね」

「でも、どこにいるのか、全部分かっちゃうのね」

 ドナの顔を見て麻子は笑った。

「そうよ。勉強を怠けていても、すぐ分かるからね」

 ドナも麻子の顔を見て、いたずら好きの子供のように笑みを浮かべ、やがて2人は声を出して笑った。


「今日も、夕食は食べていくでしょ?」

 彩がそう尋ねると、麻子は残念そうな顔で

「あっ、ごめんなさい。今日は家に戻って、引越し先を検討することにしたんです。明日は荷物をまとめに家に行く予定なので、病院のほうは夕方頃になると思います」

 と答えた。

「そっか。いいお部屋が見つかるといいわね」

 彩や鬼神に別れを告げ、麻子とドナが病室を出ていく。残ったのは鬼神と彩の2人だけだ。

「じゃあ、夕食は2人で食べますか?」

 鬼神が彩に話しかけた。最近は、毎日一緒に夕食を食べるようになっていたのだ。

「鬼神さんがよければ、喜んで」

 彩も笑顔で承諾する。彩にとっては、断る理由などないだろう。

「そう言えば、足の具合はよくなりましたか?」

 鬼神が彩に尋ねる。インフェクターに襲われてから、この日でちょうど一週間が経過したのだ。

「明日からは、普通に歩行していいって、フィオナさんから言われました。これで、車椅子生活から開放されます」

 そう言って、彩はその場で立って見せようとした。しかし、白鳥に見せたときのように真っ直ぐ立つことができず、バランスを崩して後ろ向きに倒れそうになった。

「危ない!」

 鬼神が急いで彩の背中に左手を回し、宙をつかもうとしていた手を右手で握った。ちょうど、鬼神が彩を抱きかかえるような姿勢だ。

 鬼神の顔が急接近し、彩はその顔をじっと見つめていた。鬼神に体を預けたまま、身動きをとることができない。

「彩、入るわよ」

 母親の声に、ハッと我に返ってドアのほうを見た。ドアはすでに開いており、母親はこちらを見たまま微動だにしない。

「ごめんなさい。失礼します」

 少しの間の後、母親は慌てて飛び出してしまった。

 完全に勘違いされたようだ。鬼神に起こしてもらい、車椅子に座って

「お母さんの誤解を解かなくちゃ」

 とドアへ向かおうとした。

「俺が探しに行ってこよう。葉月さんはここでお待ち下さい」

 鬼神も病室から飛び出してしまい、残った彩は車椅子に座り、大きなため息をついた。

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