第34話 ダブルデート
まだ、左目のあざは消えていなかったが、鬼神は休み明けすぐに登校した。
教室に到着したとき、鬼神の姿を見た何人かの生徒は少し驚いた顔をしたが、それほど大きな騒ぎにはならなかった。
しかし、それまでに散々、噂の種になっていただけに、昼頃には、あちらこちらで話題にされるようになった。
明日香は、面と向かってはお礼も謝罪もしなかった。もしそんなことをすれば、また自分と鬼神の間で何かあったと噂されるのは目に見えている。代わりに、端末にメッセージを送ってきた。
『この間は、助けてくれてありがとう。ひどい目に遭わせてしまってごめんね。』
鬼神は、ただ一言、返信しただけだ。
『気にするな、大した怪我じゃないし。』
それだけで、お互いメッセージをやり取りすることもなかった。
とりあえず、2人の関係を怪しまれることは回避できたと、鬼神は確信していた。
しかし、その考えは甘かった。
「今日の授業はこれで終わりです。この後、鬼神君と木魂さんは、職員室まで来て下さい。少しお話したいことがあります」
油断していた。休日中の事件は当然、学校にも連絡が入っていることを想定しておくべきだった。
職員室にある応接用のスペースで、担任の星崎先生と、生活指導担当の橋辺先生を対面に、2人は並んでソファーに腰掛けた。
星崎先生は、あずき色のショートヘアが印象的な女性で、国語を担当していた。
そして橋辺先生は英語の担当で、かなり年配の温和な性格だ。
星崎先生が最初に口を開いた。
「警察から、木魂さんが男性に絡まれているところを鬼神君が助けたという話は伺っています。それは、その時の傷ね」
「はい」
鬼神は素直に返事をした。
「鬼神君は、偶然その現場を見かけたの?」
「はい、そうです」
鬼神は、嘘をついた。
「間違いない? 木魂さん」
星崎先生の質問に、明日香は、うつむいて黙ったままだ。どう答えたらいいか、迷っているのだ。しばらくして、両手に顔を埋めて泣き出した。
「おい、木魂・・・」
鬼神が声を掛けるが、明日香は顔を上げることができない。
「鬼神君、彼女を困らせてはダメね。2人が交際していることを、とやかく言うつもりはないのよ。健全であれば、この学校は交際を認めているんだから」
星崎先生が鬼神をたしなめる。
「すみません。話せば長いのですが・・・」
鬼神は、それまでの経緯を簡単に説明した。
「なるほど、勉強を教えてもらった代わりに、その、なんとかパイというのを、おごってあげたわけだね」
橋辺先生が、納得したように口を開いた。
「ほら、泣かないで木魂さん。それで、2人が別れた後で、木魂さんが男性に絡まれたということね」
星崎先生の言葉に、明日香はようやく泣き止み、ハンカチで涙を拭った。
「はい・・・それで、鬼神君が助けに来てくれて、誰かを呼びに行こうとしたら、ちょうど警察の人を見つけたんです」
「そう・・・でも、鬼神君がいてくれてよかったわ。もし助けがなかったら、どんな目に遭わされたか分からないわよ」
明日香は、コクリとうなずいた。
「まあ、普通に遊びに行って事件に巻き込まれたのだから、2人とも罰せられることはない。安心しなさい。しかし、あまり遅くまで遊ぶのはよくないね。校内にも、注意喚起しておいたほうがいいだろう」
橋辺先生の言葉を聞いて、2人はホッとした。
職員室へ行くときも、教室へ戻る間も、2人は一言も話さなかった。
明日香は、ずっとうつむいたまま、悲しそうな顔をしていた。本来、悲しいのは鬼神のはずだが、表情からは読み取れない。
教室に入ると、クラスにいた者すべてが一斉に2人に視線を移した。刺すような空気の中、2人は自分の席まで戻り、着席した。
鬼神は、荷物をまとめてすぐに教室を立ち去った。その後を、友人たちが追い掛けてくる。
「どうしたんだよ鬼神、その顔は?」
職員室に呼ばれたことで、さすがに友人たちも気になったらしい。その質問に
「ちょっとしたアクシデントだよ」
と鬼神は答えた。
「木魂が関係しているのか?」
「あいつが不良グループに絡まれていてな。それで助けに入ったんだ」
「そんなことが・・・」
「その時の様子を聞かれただけだよ。じゃあ、俺はちょっと用事があるから」
そう言って鬼神が向かったのは、校内にある道場だ。柔道部に空手部、そして合気道部がその道場を使っていた。
鬼神は、その日、合気道部に入部した。
翌日、全校一斉に、ある事件の概要と、それに関する注意喚起が流された。
休日、ある男子生徒と女子生徒の2人で遊びに行った帰りに女子生徒が男性に絡まれ、助けようとした男子生徒が怪我をしたという内容だった。
問題は、『休日に2人で遊びに行った』という部分である。
当然、名前は伏せられていたが、少なくともクラス内には誰なのか明らかである。
そして、鬼神も明日香も他のクラスに名前が知れ渡っていた。鬼神にはファンがいるくらいだし、明日香は言わずもがなである。
2人が誰なのか、数日のうちに学校中に知れ渡ってしまった。
この注意喚起、流したのは生活指導担当の橋辺先生である。もう少し配慮すればよかったのだが、そこまで頭が回らなかったのだろう。
一番つらいのは鬼神だ。当人からは振られたというのに、噂になってしまったわけである。もちろん、明日香にとっても悩ましい問題であるだろう。
クラス内では、放課後すぐに追求が始まった。
「なあ鬼神、いい加減に白状しろよ。お前たち、付き合ってるんだろう?」
明日香が隣にいるのも構わず、友人が鬼神に問いかける。
「何がだよ」
「一緒に勉強したり、休日にデートしてるんだ。何もないってほうがおかしいだろう」
「『オッカム』でおごる約束してただろう。休日に行ったんだよ。それだけさ」
「休日ってさ、カップルは特典があるって知ってる? ちゃんと証明しなきゃダメだけどね」
別の女子生徒が話に割り込んできた。
「証明ってどうやって?」
「そんなの、決まってるじゃない」
クラス内に歓声が沸き上がった。明日香はじっと動かない。
「ねえ、どうして隠す必要があるのよ? これだけ噂になっちゃったんだから、もういいじゃないのよ」
相手はなおも食い下がる。
「隠すもなにも、俺達は本当に付き合ってないんだよ」
「木魂さん、なにかご意見は?」
今度は矛先を明日香に変えた。
「えっ?」
明日香は体をビクッとさせた。
「ねえ、本当のことを教えてよ」
「私は・・・」
それ以上は口を閉ざし、うつむいたままの明日香に、皆の視線が集中している。それを横目に、鬼神は荷物を片付け始めた。
「おい鬼神、逃げる気かよ」
友人の一人が鬼神に声を掛ける。
「俺はこれから部活なんだ。もう行くぞ」
皆、今度は鬼神のほうを注目している。その中を、鬼神が教室から出ようとした時、誰かがすすり泣く声が聞こえてきた。
明日香が、涙を流し始めたのだ。
全員からの冷たい視線を一身に浴びて、それでも臆することなく鬼神はクラスの皆に顔を向けた。
「じゃあ、本当のことを教えてやる。俺はたしかに木魂のことが好きだった。休みの日、正直に告白した」
教室の中は静まり返っている。ただ、鬼神の声と、明日香のむせび泣く声が聞こえるだけだ。
「でも振られた。それだけだ。だから、俺達は付き合ってなんかいない」
それだけ言い残して、鬼神は去っていった。
次の日、鬼神のことをからかう人間はもういなかった。
明日香は、学校を休んでいた。昨日までの一連の出来事がよほど応えたのだろう。
休み時間のことである。
「鬼神君」
声のする方を見ると、そこには若菜が立っていた。
「どうしたの?」
「今度の休みの日なんだけど、空いてる?」
若菜は、うれしそうな表情で鬼神に尋ねた。
「えっ? 特に予定はないけど」
「じゃあ、一緒に『バイオレット・ワールド』へ行かない?」
『バイオレット・ワールド』は、地下世界の中で最大級のテーマパークで、学生にとっては定番のデート・スポットだった。
鬼神は、若菜の意外な行動力に少し驚いた。
「そんな急に・・・」
「あら、デートのお誘いだと思った? 残念だけど、ちょっと違ってね。この間、くじで『バイオレット・ワールド』の無料入場クーポンが当たったの。私のお兄ちゃんと行くことにしたんだけど、4人までオーケーみたいだから、それぞれ誰か誘おうかという話になってね。鬼神君にはいろいろと迷惑かけたし、一緒にどうかなと思って」
鬼神の様子を伺うような表情で、若菜は説明する。
「そういうことか。それなら、行こうかな」
「やったあ! じゃあ、当日は入場時間の1時間前、8時に現地集合ね」
そう言い残して、若菜は自分の席へ戻った。
翌日、明日香は復帰していた。見たところは、いつもと変わらない様子であった。しかし、鬼神に声を掛けることはなかった。それは鬼神のほうも同じではあるが。
鬼神は、明日香のことは早く心の隅に追いやって、自分の目標へ集中しようと考えていた。その目標とは、まず第一に強くなること、そして第二は警官を目指すことだ。
あの3人組に襲われたとき、自分ひとりでは何をすることもできなかった。鬼神は、それが悔やまれて仕方ない。強くなるために、まずは武術を覚えようと合気道部に入った。有段者であれば、警官の採用試験に有利だからという理由もある。
クラス内では、明日香が鬼神を振った理由について、様々な憶測が飛び交っていた。しかし、いつも赤点を取っているような男である。振られて当然という結論に達したようだ。こうして2人の噂話は、少なくともクラスの中においては、ようやく沈静化したのである。
鬼神自身は、振られた理由をどう思っていたのだろうか? 鬼神は、明日香にはすでに付き合っている男性がいるのだと予想していた。以前、恋人がいるのか尋ねた時、はぐらかされた事があったからだ。しかし、休日のデートで明日香は散々、思わせぶりな態度をとってきた。それに、最初の返答が『考えさせて』というのも妙である。もしかしたら、からかわれていたのだろうか、と考えていたこともあった。しかし、ときどき見せた寂しげな表情の中に、もっと複雑な理由が隠されていると、鬼神には思えてならないのだ。
その理由について、割と早い時期に鬼神は知ることになる。
明日香との初デートから一週間後の休日、鬼神は『バイオレット・ワールド』の入口に降り立った。
約束の8時より10分早く到着し、あたりを見回したが、若菜の姿は見当たらない。
派手な飾りに彩られた入口の前には、もう人が並んでいた。デート・スポットということもあってカップルが多いものの、家族連れもいて、子供たちのはしゃぐ声が聞こえてくる。
不意に肩を叩かれ、振り返るとそこには若菜がいた。真っ赤なスカートに、鬼神と同じデニムのジャケットという姿で、早くも人目を引いている。
「ふふっ、ペアルックみたい」
若菜の言葉に、鬼神は照れ笑いを浮かべた。
「お兄さんは、どこにいるの?」
「今日のお相手を探しに行っているんだけど・・・あっ、あそこにいる」
若菜は大きく手を振った。その方向を見て、鬼神は心臓が激しく脈打つのを感じた。
カーキ色のニットに身を包んだ背の高い男性が手を振っている。その横にいたのは、花柄のスカートを履いた明日香だった。
明日香も、鬼神の存在に気が付いたらしい。手で口を覆って驚く姿から、彼女も鬼神がいるとは知らなかったようだ。
「あれ? お兄ちゃん、木魂さんに声を掛けたのね・・・」
予想外のことだったのか、若菜はそう言って、ちらりと鬼神のほうを見た。鬼神は、呆然とした表情で、近づいてくる2人を眺めていた。
「紹介するわね。こちら、私の兄で若菜一郎。お兄ちゃん、こちらがクラスメートの鬼神君よ」
鬼神は、動揺しながらも、一郎に軽く頭を下げた。
「鬼神です。今日は、よろしくお願いします」
一郎も頭を下げて
「君が鬼神君だね。千春からいろいろと聞いてるよ。スポーツが得意なんだってね。うらやましいな。僕は運動がまるでダメだから」
と挨拶した。
「いや、その、俺は勉強が全くできなくて」
「でも、明日香に勉強を教えてもらったら、いい点が取れたって聞いてるよ。ねえ?」
一郎が、明日香に目を向けた。明日香は、小さくうなずくだけだ。
「ねえ、そろそろ並ばない? 話はそれからでもできるでしょ?」
若菜の号令で、4人は行列に並ぶために移動を開始した。鬼神は、まだ心臓が波打っている。明日香の恋人は、若菜の兄だったのだと、このとき悟った。
「私、『ミラクル・ボール』には絶対に乗りたいな」
『ミラクル・ボール』とは、球形の乗り物に入り、空中を高速で移動するという、このテーマパークでは人気の高いアトラクションだ。若菜がはしゃぐ姿は、学校での静かな雰囲気とは全く別人のようで、鬼神は驚きを隠せなかった。
「千春、あんまり騒ぐから、鬼神君がびっくりしてるぞ」
兄の忠告に、若菜は舌を出して笑った後
「お兄ちゃん達も乗るでしょ?」
と尋ねた。
「僕は、ああいうのは苦手なんだ。勘弁してほしいな」
一郎はそう言って明日香の顔を見た。
「私は、『バイオレット・ガーデン』がいいかな」
明日香の言った『バイオレット・ガーデン』は、珍しい植物が展示された温室である。カップルには定番のスポットで、夜になると美しくライトアップされる。
「あそこは夜になってからのほうがいいわよ。それなら『バイオレット・アドベンチャー』に行ってきたら?」
乗り物に乗って、この施設のテーマである、映像制作会社『バイオレット』が手掛ける作品の世界を見ることができる、子供たちに大人気のアトラクションだ。
「2人で乗るのは、ちょっと恥ずかしいかな」
一郎が苦笑いで言葉を返した。
入場時間になって、4人は中に入った。早速、若菜が全員に号令を掛ける。
「じゃあ、11時にまたこの場所に戻りましょう。それまでは別行動で」
ここからは、若菜と鬼神、一郎と明日香、それぞれのペアに分かれて行動することになった。
若菜は早速、鬼神を『ミラクル・ボール』のある場所まで連れて行った。入場から間もないというのに、もう行列ができている。
「ねえ、私って、よくお兄ちゃんとそっくりだって言われるんだけど、そうなのかな?」
若菜がそう尋ねてきた。一郎の姿を思い出してみると、髪は妹と同じダークブラウンで、日本人離れした彫りの深い顔立ちをしている。たしかに並んでみれば兄妹に見えるが、そっくりかと言われると、そうでもないような気がした。
「そっくりってことはないと思うよ。2人が並ぶと兄妹だと気づかれるかも知れないけど」
「似ているところがあるって意味?」
目を見開いて、若菜が尋ねる。
「うん。そのくっきりした目元は、たしかに似ているね」
「そうなんだ・・・私達って性格も似てるみたいでね。2人ともおとなしいって、よく言われるし。実際はすごくおしゃべりなんだけどね。あと、本が好きなところも一緒かな」
「背が高くて、格好いいお兄さんだよね。まさか、木魂と付き合っていたとは思わなかったけど」
鬼神の言葉を聞いて、若菜は手で口を押さえた。
「あらやだ。あの2人、別に付き合っているわけじゃないわよ。そもそも、お兄ちゃんには大学生の彼女がいるし」
「えっ、でも・・・」
鬼神はそれ以上、言葉が出なかった。
「木魂さんから聞いてなかったの? 私達、幼馴染なのよ。でも、どうして自分の彼女に声を掛けなかったんだろう?」
若菜は、兄の行動をよほど不思議に思ったのか、首を傾げた。
「幼馴染・・・」
「その・・・ごめんなさい。タイミングが悪すぎたね」
「いや、若菜のせいじゃないし、気にしないで。それより、今日は思い切り楽しもうよ」
鬼神は、無理に笑顔を作って見せた。
「そうよね。せっかくのデートだものね」
若菜は笑ったが、鬼神には、その笑顔が少し寂しげに見えた。
「あっ、次は私たちの番よ」
若菜は、今度は満面の笑みを浮かべてゲートを通った。
「じゃあ、まずは『バイオレット・ガーデン』へ行ってみようか」
一郎の提案を聞いて、明日香は小さな声で「うん」と言ってうなずいた。
『バイオレット・ガーデン』は、まるでガラスでできた城のようであった。入口から中に入ると、急に温度が上がる。最初に出迎えてくれるのは、石で囲まれた、たくさんのサボテン達だ。
迷路のように入り組んだ道を歩きながら、2人は鮮やかな緑の壁の中で、爽やかで甘い香りを楽しんだ。緑の中にところどころ、暖色系のきれいで大きな花が咲いていて、ちょっとした壁飾りのように見えた。
「夜になると、きれいなんでしょうね」
明日香が、周囲を見渡しながら一郎に話しかけた。
「夜になったら、また見に来るといいよ。きっと、今とは雰囲気も変わるだろう」
少し広い場所に出た。中央に、幹が徳利のような形をした奇妙な木が立っている。
「いつ見ても面白い形をしているね。もう少ししたら、桜みたいに花が咲くんだけどな」
一郎は、木を眺めながら明日香に話しかけた。
「一度だけ、花が咲いているのを見たことがあるわ。すごく綺麗だった」
2人は、その木の近くにあるベンチに並んで腰掛けた。
「ふー、ここに来ると、やっぱり落ち着くな」
「見に来る人も少ないから、静かですもんね」
「僕には、あの手の乗り物の何が楽しいのか、さっぱり分からないや」
「スリルを楽しむのが目的ですよ。乗ってみれば分かると思うけどな」
一郎は、首を横に振って
「乗ったら気絶しちゃうよ。でも、あの無重力になる乗り物は楽しいけどね」
「あれは楽しいけど、スカートじゃ恥ずかしくて乗れないんですよ」
「たしかにね。女性は皆、一度は経験しているみたいだね」
「私も、小学生の時に初めて乗って、すごく恥ずかしかった。そのときはミニスカートだったから」
明日香は、クスクスと笑い出した。
柔らかな日差しが降り注ぎ、動くものは何もない。ここ一帯だけ、時が止まっているかのようだ。
しばらくして、明日香が一郎に尋ねた。
「大学での研究は進んでいるんですか?」
「うん、もう少しというところかな。論文も、だいたいは書き終えたし」
「すごいな。いよいよ博士になるんですね」
一郎は、高校一年で三宝工科大学に入学するほどの天才であった。明日香や若菜とは3つ違いであるが、すでに博士課程まで進み、来年には博士になる予定だ。
「でも、さすがに大変だよ。今日は久々に息抜きができて、嬉しくてたまらないんだ」
一郎は大きな伸びをした。少し間をおいて、さらに話を続ける。
「実はね、付き合っていた彼女とも別れたんだ」
その発言に、明日香は驚いて一郎の顔を見た。
「中学の時から付き合ってきたんだけど、ほとんど会うこともできなかったし、最近では僕も忙しくて構ってあげられなかった。とうとう、愛想を尽かされたみたいだ」
「じゃあ、今は・・・」
明日香は、それ以上、言葉にすることができなかった。
「今は彼女なしの状態だ」
一郎は、明日香の顔に視線を移した。
「もし、彼女がいなくなったら、付き合うって約束だったね。どうする?」
明日香の目が泳ぎ、口は何か言いたげに半開きになるが、声が出なかった。その様子を、一郎は笑みを浮かべながらじっと見つめていた。
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