第17話 4人のハンター
あたりは薄暗く、群青色の鈍い光沢を放つ建物の輪郭だけが際立って見える。
スラム街は今日も、あらゆるものを闇に隠していた。
しかし、それも終わりを迎えようとしていた。
突然、太陽の日差しのような光が周囲に降り注ぐ。
長い間、稼働を止めていた人工太陽が息を吹き返した。
スラム街を捜索するため、一時的に内部を明るくする許可が下りたのだ。
その明るい日差しの下で、4人のハンターと100人ものアンドロイドが隊列を組んで並んでいた。
「それでは、今からC-3エリアの1フロア、商業スペースの捜索を開始します」
マリーが、先頭に立つハンターたちにそう告げた。アンドロイドには無線で直接指示ができるため、全体に聞こえるように大声で叫ぶ必要はない。
最上階から最下層まで、4つのグループに分かれて捜索を行う。各グループにはハンターが一人ずつ割り当てられた。スリーパーが現れた場合に備える形だ。
どういうわけか、鬼神以外の3人は以前、この場所で鬼神を追いかけ回した者たちであった。
「仇敵が見つかっても、暴走はしないでね」
女ハンターが鬼神に話しかける。鬼神は、笑みを送るだけだった。
途中で見つけた人物は、全て捕捉して強制退去させる。問題は、どれくらいの者がここに住んでいるのか分からないことだ。全てを捜索するのにどれくらいかかるか、予想ができなかった。
「私は鬼神さんと同行します。よろしくお願いします」
マリーが鬼神へと近づいて話しかけてきた。
「前回のこともあるから、あまり無理はするなよ」
鬼神は笑みを浮かべながらマリーに応えた。
「ここに一人、住み着いているはずだ」
円形の広場の中央に噴水の跡があり、その上を巨大な円筒形の照明が、色とりどりの光を放ちながら回転している。
このスラム街で最初の住人を見つけた場所だ。外からの光があたりを明るく照らしていた。最初に来たときとは印象がかなり違う。
2階に上がり、部屋を捜索してみるが、あの男は姿を消していた。突然、あたりが明るくなり、逃げたのかも知れない。
「どこかへ行ったようだな。ここにはいない」
マリーに一言そう告げて、鬼神が1階へ下りようとしたときである。他の場所を捜索していたアンドロイドが声を上げた。
「待ちなさい!」
声のした方に視線を移すと、一人の男がアンドロイドたちに追い掛けられていた。
鬼神は、素早く階段を下りて、男の前に立ちふさがった。
「お前・・・」
男が思わず声を上げる。
「悪いが、ここは立入禁止区域でな。全員、立ち退かなければならなくなったんだ」
鬼神は、できるだけ穏やかな顔をつくり、ゆっくりと男に告げた。
「ここを追い出されたら、生きてはいけない」
「そんなことはないだろ? 住居や食事は無償で提供してもらえる。必要最低限の生活はできるはずだ」
男は、黙ったまま鬼神を睨んでいた。
「あなたは、未登録者ですね」
マリーが鬼神の隣に進み出て男に尋ねた。
「・・・そうだ」
男は下を向き、絞り出すような声で答えた。
この地下世界で生まれた者は全員、一意の番号を付けられる。病院で出産すると、名前を決めるより先に番号が割り当てられ、基幹システムの管理下に置かれることになる。その番号を持つ住人は、住居や食料の無償提供など、様々なサービスを受けられる。学校への入学、就職、結婚、出産、そして死亡するまで、その番号が必要になるのだ。
しかし、数は少ないが、番号を持たない者がいる。いわゆる未登録者だ。様々な理由が考えられるが、一番多いのが隠し子だ。望まない妊娠をして、中絶しないまま密かに産み落とされる。しかし、いつかは世間に知られることになる。見つかれば、すぐに発番されることになるので、大人になるまで未登録のままでいることは少ない。
「どうして、登録をしないんだ?」
鬼神が尋ねるが、男はうつむいたまま答えようとしない。
「あなたは、何か犯罪を犯していますね」
マリーがそう尋ねた途端、男はマリーの顔をにらみつけた。図星だったのだろう。
「それなら、罪を償うんだな。出所すれば、晴れて自由の身になれるんだ」
鬼神が諭すように言った。
「俺は、命を狙われている。外に出れば殺される」
頭を激しく横に振りながら、男は叫んだ。
「いったい、誰に?」
鬼神の問いかけに、男は何も語ろうとはしない。
「7年ほど前、宝石店に強盗が入ったことがあります。3億円相当の宝石を強奪して犯人は逃走。しかし、一人を除いて全員逮捕されています」
マリーが、過去の犯罪履歴から検索したらしい。
「その一人、覆面をして顔は分かりませんが、背格好はあなたによく似ています」
男は、荒い息をしながらマリーの顔をじっと見つめていた。
「宝石は未だ行方不明。逮捕された犯人たちは、宝石は全て一人の男に盗られたと・・・」
「それが俺だと言いたいのか?」
男が、マリーの言葉を遮った。
「このあたりを探してみれば分かることだ」
鬼神が周囲を見渡す。その隙を突いて、男が逃げようとするのをマリーが逃すはずがなかった。
素早く銃を抜いて、男に発砲する。男は一瞬、体を硬直させ、その場に倒れ込んだ。
他のアンドロイドが素早く男の手足に鎖をつないだ。両足をつないだ鎖は、歩くことができても走って逃げることができないよう長さが調節されている。両手も後手につながれた状態だ。
「お宝はどこに隠したんだ?」
感電した体がまだ回復していない男に鬼神は尋ねたが、男は沈黙を守ったままだ。
「仕方ありません。この男は警察へ連行します」
マリーの指示で、3人のアンドロイドが男を囲み、立ち去っていった。その姿を見ながら、鬼神は
「いつもの銃はどうしたんだ? マリーと言えば、あの古風な銃がトレードマークだと思っていたが」
とマリーに尋ねた。
「この間、失態をおかしてしまったので・・・今回は、スタンガンに変えました」
「いつも完璧なマリーが、珍しいな」
「失敗の要因分析をした上で、前の銃に戻すべきか決めるつもりです」
「どちらを使っても、失敗する時はあるものさ。そんなに悩む必要もないと思うがな」
鬼神のその言葉を聞いて、マリーは小さくうなずいた。
警察に勤めている者は、人間もアンドロイドも銃を携帯している。
レーザーガンを用いる者が最も多いが、古くからある火薬を使った銃を選ぶ者も少なからずいた。反動がなく、的に当てやすいレーザーガンではなく、あえて習得の難しい銃を使うことで優越感に浸る者、機械的な仕組みに魅力を感じる者、また歴史の長い武器に愛着を持つ者など、理由は様々であるが、マリーの場合、なぜ銃を使い続けるのかは誰にもわからない。アンドロイドで銃を持っている者は、マリー以外にいないのである。
マリーから周囲に視線を移し、鬼神は
「それにしても・・・宝石を売りさばいたんなら、あの男には相当の金があったはずだ。こんなところで一人隠れている必要もなさそうだがな」
と疑問を投げかけた。それに対してマリーは
「盗まれた宝石が表に出れば足が付きます。下手に売り出すわけにもいかないはずですが」
と推測した。
「それに、こんなところで一人で暮らしていくことが果たしてできるでしょうか?」
マリーの言葉も、もっともである。まず、食料をどう確保していたのか、見当がつかない。
「何か隠しているようだな」
鬼神は、2階にある部屋へ視線を移した。
黒いレザースーツを身にまとった女性ハンターは、鋭い視線を周囲に張り巡らせながら歩いていた。
たくさんのアンドロイドが、あたりをくまなく捜索しながらいっしょに進んでいく。ハンターの隣には伝達役がいた。非常にきれいな目鼻立ちの、美少年と呼んでもいいような顔をしている。
「鬼神さんたちは、一人拘束したそうです」
「あら、そう? 私達もがんばらなくちゃね、坊や」
スタイルのいい身体を伝達役へ向けて、子供に接するときのような口調で応えるハンターに
「私としては、厄介な連中に遭遇したくはありませんけどね」
とアンドロイドは笑顔を見せた。
そのとき、近くにあった瓦礫が突然、音を立てて崩れた。
全員が一斉に音がした方へ視線を移す。男が一人、呆然とした顔で立っていた。
「動くな!」
近くにいたアンドロイドが銃を抜いた。男が立っているのは、両側がパーティションで仕切られた小部屋のような空間で、奥に開口部が一つある。男は慌てて奥へと走っていった。
アンドロイドがその後を追いかける。少し経って、何かが倒れる音がした。その後は何の音もなく、静まり返ったままであった。
他のアンドロイドが奥へ入ろうとするのを、ハンターが
「待って、私が様子を見に行くわ」
と制した。
開口部の前で、女ハンターは中の様子を伺った。部屋の中は薄暗く、何があるのか判然としない。頭に付けたライトを点灯し、中を照らした。家具にプラスチック製のケース、ガラスの空き瓶など、部屋の中は様々なものが転がっている。人の気配はない。出入口は他に見当たらないから、おそらくどこかに隠れているのだろう。
ハンターが、部屋の中に一歩踏み込んだ。
猫のような目で左右を素早く確認する。男も、アンドロイドの姿もない。ゆっくりと、一歩ずつ、ハンターは中へと進んでいった。
左手に、斜めに傾いた大きな棚があり、視界を遮っていた。その近くまで進んだハンターは歩みを止めた。
一呼吸置いて、ハンターは素早く棚の向こう側へと踏み込んだ。
そこには、アンドロイドが倒れていた。頭になたが食い込んでいる。男の姿はない。
男は、右手にあるパーティションの裏側に隠れていた。レザースーツ姿の女がアンドロイドに気を取られているのを見て、ゆっくりと、背後に近づく。手にはセラミック製のナイフを握っている。
背後に忍び寄り、気づかれることなく相手を始末する。その行為が、男には快感以外の何ものでもなかった。男は、ただ人を殺す前の緊張感が好きなのだ。獲物を仕留めたときの達成感がたまらないのだ。
ナイフを頭上に振り上げ、女の首めがけて突き立てた。また一人、見事に始末できたと男は思い、自然と笑みがこぼれる。
しかし、その顔が一瞬で凍りついた。顔は笑ったまま、目はカッと見開かれ、その表情を変えることなく目の前のものを凝視している。
女は、いつの間にか自分に顔を向けている。振り下ろした腕を女の手がつかんでいた。まるで万力で締め付けられているような力に、男は身動き一つできない。
「残念だったわね。あんた一人だけ?」
女は涼しい顔をして語りかけてくる。男の顔は、驚きと恐怖の表情へと変化していった。
鬼神たちは、男が住んでいた場所を隈なく調べたが、宝石はどこにも見当たらなかった。
代わりに出てきたのは大量の空き缶だ。
「あの男、缶詰で生き延びていたのか」
空き缶の一つを手に取って調べてみると、賞味期限が切れてから2ヶ月ほど過ぎていた。
「定期的に外へ出て買っていたのでしょうか?」
空き缶をじっと見つめる鬼神にマリーが尋ねた。
「それなら、ストックが残っていてもおかしくないんだがな。まさか、毎日わざわざ外へ出て買いに行っているとは思えないが」
「でも、ここなら出口には近いですから。毎日ではなくても、頻繁に出入りしていた可能性はありますよ」
鬼神は、マリーの意見に軽くうなずき、手に持っていた空き缶を無造作に捨てた。
「まあ、食料は確保していたということだな。しかし、肝心の宝石が出てこないな」
鬼神が手を払いながらマリーへ目を向けた。マリーは、空き缶の山をじっと見つめている。
突然、マリーは空き缶の山をかき分け始めた。
「どうしたんだ、マリー・・・」
鬼神は、マリーの突然の行動の意味が分かり、一緒になって空き缶の山に手を突っ込んだ。
やがて空き缶の山の中から、丈夫な布でできた袋が出てきた。
「こんなところに・・・」
鬼神が、袋の口を開けて中に手を入れた。袋から出した手には、きらびやかなネックレスが握られていた。
「ゴミの中に宝を隠すのは、盗人の常套手段ですからね」
そう口にしたマリーの表情は、相変わらず変わらなかった。
大柄な男を先頭に、たくさんのアンドロイドたちが真っ直ぐに伸びた広い通路を歩いている。
「全く・・・いつも思うんだが、どうして似たようなレイアウトばかりなんだろうな。どこを歩いているのか、全くわからん」
「大丈夫ですよ小谷さん。我々が場所を把握していますから、迷うことはありません」
男の背後を付いて歩いていた美人アンドロイドが話しかける。凛とした佇まいのマリーとは異なり、どこか愛嬌のある顔だ。
「まあ、それについては心配してないがな」
笑顔を見せて、男は応えた。角張った顔には、獲物を狩る獣のような鋭い目が光る。しかし、男はどこか憎めない顔つきをしていた。
男の後ろでは、アンドロイドたちが両側にある小部屋の中を隈なく調べていた。しかし、今のところは何も発見されていない。
「この間、入ったときも人には遭わなかったんだ。もう誰も・・・」
男が笑みを浮かべたまま喋っていたとき、突然背後から声がした。
「待て、止まれ!」
男が後ろを振り向くと、一人の女性がアンドロイドたちに取り囲まれて八方塞がりの状態だ。
男は、ゆっくりと女性に近づいていった。
「落ち着け。別に危害を与えるつもりはないんだ。ただ、ここに居ることはもうできない。俺達といっしょに、外に出てもらうことになるよ」
女性は、男を睨んだまま動かない。こんな場所で暮らしているのに、服は意外にも綺麗で、顔にも汚れはない。
「最近、ここにやって来たのか?」
女性は黙ったままだ。男は、近くにいたアンドロイドに
「彼女はどこから出てきたんだ?」
と尋ねた。
アンドロイドの示した小部屋へ近づこうとしたとき、女性が
「中に入るな!」
と怒鳴った。男は一瞬立ち止まって女性の顔を見たが、すぐに小部屋の中へ入っていった。
「これは?」
驚いたことに、大量の缶詰が部屋の中にある棚に積まれていた。元々、飲食店だったらしく、シンクやIH調理器もある。
缶詰の一つを手にとって見る。3年前の製造だ。賞味期限は切れているが、食べられないことはないだろう。しかし、なぜ3年前の缶詰がこのスラム街に、しかも大量にあるのか、想像ができない。この場所が捨てられたのは100年も前のことだ。それからは、食料が供給されたことはないはずである。誰かが持ち込んだとしか思えないが、一度に運べる量でもない。
缶詰を持って、女性の下へと近づく。
「これをどこから持ってきたんだ?」
「それは私のだ。触るんじゃない」
女性は、答える気がないようだ。男は肩をすくめて
「連れて行け」
と一言命じた。
「やはり、潜んでいる人間はまだいるようですね」
「いかれた狂信者はまだしも、こんな場所でいったいどうやって生きているんだ?」
「人を狩っているのは、あの教団だけではないのかも知れませんね」
「共食いしているっていうことか?」
「その可能性もあります」
鬼神とマリーは並んで道路上を歩いていた。最上階で男を一人捕らえてからは、人の気配は全く感じられなかった。
「全員がそんなことをしているとは思わないけどな」
「極限状態になった時、人は思いもよらない行動をするのです」
「ネズミじゃあるまいし・・・」
「ネズミも人も、同じ生き物ですから。生への執着は、私達アンドロイドには理解できない部分ですね」
「自殺する人間もいる。まあ、その気持ちを俺も理解しているわけではないがな」
「生への執着を捨てた人ですか・・・私達は、自ら機能を停止させることはありませんから」
地下世界で自殺する人間は非常に少ない。生活が保証されている人間が自ら命を断つことはあまりないということだろう。それでも、ゼロというわけではない。誰もが夢見る楽園だとは言えないようだ。
鬼神は、ふと上を見上げて
「即身仏というものを聞いたことがあるか?」
とマリーに尋ねた。
「即身仏・・・ええ。昔の宗教で、厳しい修行の末、最後に自らをミイラと化すというものですね」
「即身仏になる者は、全ての人を救済することを願って自ら死んでいくそうだ」
「衆生救済ですね」
「さすがは物知りだな」
「なぜ、そのような話を?」
「いや、即身仏になる者は、最後は地中で修行を行うと聞いてな。地中で死んでいくことを、どう思っていたのかと気になったんだよ」
「私達も地中深くに埋められた身ということですか」
マリーが、目を大きく見開いて鬼神を見つめた。
「即身仏になることは、自殺とは違うんだよな。なんというか・・・」
「自己犠牲という言葉が一番近いでしょうか」
「その頃の考え方は俺にもよくわからないが、自己犠牲とも少し違うのかも知れない」
「難しい話ですね」
「その宗教では、悟りを開くという言葉があるそうだ。真実を知るというか・・・説明するのが難しいな」
「森羅万象・・・あらゆる物事の本質を見極めるという意味です。信者は、それを目標に修行を行ったそうですね」
「それを達成すれば生への執着はなくなるらしいが、どうやって悟りを開けばいいのか、見当もつかないな」
「・・・自殺する人間は、悟りを開いたからだとお考えなのですか?」
「いや、そういう意味で言ったのではないよ。単に自殺の話から即身仏のことを思い出しただけだ」
ビルに入る広いエントランスの前に立ち、中の様子を伺う。特に誰かが潜んでいる様子はなさそうだった。
ビルの中に入り、上を見上げる。2階部分まで吹き抜けになっており、中央に大きなオブジェが飾られていた。フラクタル模様のような複雑な形をしている。
「生命には、生への執着と同時に自己犠牲の心もありますね」
マリーがつぶやいた。
「また、その話か?」
「母親が子を守る行動は、いろいろな動物に見られます。おそらく、種の存続のためなのでしょう」
「結局は、種が生き延びるためということだな」
「そのようですね」
「だから、俺たちも地下世界に閉じ込められたわけか」
マリーが鬼神へ顔を向けた。
「どうしてですか?」
「細菌が地上に出てしまえば危険だからな。人間ごと封じ込めてしまったわけだ」
マリーはしばらく沈黙したままだった。鬼神が不思議に思い、マリーを見る。
マリーは困惑の表情を浮かべていた。
「どうした?」
「いえ・・・」
前方へ顔を向け、マリーは横顔を見つめる鬼神に
「たしかに、人々を救うために仕方ないのかもしれません」
と静かに言った。
小柄な体の男と、それより頭一つ分は背の高い男が連れ立って歩いている。
「他のチームでは着いてすぐに人間が見つかったようですが」
のっぽの男がそう告げる。
「こちらは全く異常なし。このまま何も起こらなきゃ楽なんだが」
小柄な男のほうが応えた。
2人は広い部屋の中にいた。周囲にはいくつも小部屋があり、その中をアンドロイドたちが一つずつチェックしている。
「今のところ、何も潜んではいないようです」
そう話す、のっぽの男性はアンドロイド、その横で聞いていた小柄な男はハンターである。
「見た感じ、ここには何もないかな?」
ハンターが後ろを向いた時である。
「なんだ?」
ハンターは、この部屋への入り口、彼らが通ってきた開口部に背を向けて立っていた。後ろを向けば、当然その入り口が目に入る。その向こう側に人影を見つけた。
「誰かいるな」
ハンターの言葉に、アンドロイドも入り口へ視線を移した。人影はひとりではなかった。部屋の中へ数名、手に即席の槍を持った者たちが入ってきた。以前、鬼神に襲いかかった連中であるが、当然そんなことをハンターたちは知らない。
「お前たち、ここは立ち入り禁止区域だ。抵抗しなければ痛い目には遭わずに済む。すぐに武器を捨てて、そこにひざまずけ」
ハンターが命じたが、素直に従う者はいなかった。
「こちらは2人しかいないと思い油断してるな。他の連中には隠れて待機するように伝えてくれ」
「すでに伝えてあります」
「よし、もう少し中の方へ引きつけよう」
ハンターとアンドロイドの2人はゆっくりと後ろへ下がった。
相手もゆっくりと、前へと進む。入り口からさらに何名か入ってきた。全部で10名ほどはいるだろう。横へと広がり、ハンターたちを中心に弧を描くように取り囲んでいく。
「まだ、こんなに隠れていたのか」
全員が、久しぶりの獲物に喜んでいるのか、笑みを浮かべていた。槍の切っ先をハンターに向け、少しずつ間合いを詰めていく。
「お前たち、何が目的だ? 俺たちを食料にでもするつもりか?」
ハンターの問いかけに答えるものはいない。まるで魚を追い込む網のように、ハンターたちを包囲していく。
ハンターは腰の銃を抜いた。
「答えないなら、痛い目を見るぜ」
正面の相手に対して銃を構える。男たちの進行が止まった。
「逃げるぞ」
一人が号令を掛ける。一斉に出口へ向かおうと後ろを振り向くが、それ以上、動くことはできなかった。
すでに、アンドロイドたちが周りを取り囲んでいたのである。誰も、存在に気づいた者はいなかった。今はただ、アンドロイドたちが構える銃を見て、でくの坊のように立っているだけだ。
「もう一度聞くが、お前たちの目的は何だ?」
ハンターはもう一度、男たちに尋ねた。しかし、答えるものは誰もいない。
「答える気はなしか・・・じゃあ、武器を捨てて、その場にうつ伏せになれ」
厳しい口調でハンターは命じた。
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