第5章 『ある事件を追う少女との出会い』  おまけ、その26。

            26。



「あの~、すいません。大変変な事をお聞きしますが、黒のライダースーツにフルフェイスのヘルメットを被り、自動二輪のバイクに乗ったライダーをこの駐車場付近で見かけませんでしたか。この駐車場でたまにそんなライダーが行き来しているのを見たと言う目撃情報があるのですが。え、そんな自動二輪乗りのライダーはこの辺りには普通に沢山いるって……ああ、あの特徴を言うのを忘れていました。そのライダーは首には赤いマフラーをつけていて両方の腰には長く大きな鋏を二つ携えているらしいんですけど、私はそのライダーをず~と追い求め今も探しているんです。もしそんなライダーを過去にどこかで見かけていたら私に教えて下さい。その見かけた場所と日時が分かっていたらなお助かります。お願いします!」



 時刻は午後の十五時二十分。


 神奈川県のとある廃牧場から逃げ出した喰人魔獣56号が消えてからもう既に四日が過ぎ、警察はその威信をかけてその行方を懸命に探す。

 だがそんな重大な事情などは知るはずもない一般市民達は各々の生活と用事を果たすために今日もいつものようにありふれた日常生活を送る。そんなごく一部の市民が蠢く大きなデパートがある駐車場内で、一人の中学生くらいの女子生徒がまるでキャッチセールスをするかのように通りがかった人達に手当たり次第に声を掛け聞き込みをする。


 彼女の名は春ノ瀬桃花。数ヶ月前に長野県にある天馬寺という地で最後の肉親でもある父親を無残な形で失った健気な少女である。


 綺麗な黒髪のロングヘアにピンクのヘアバンドがトレードマークの彼女はこの地域では見られない中学校の制服を可愛らしく着こなしながらこのデパートの駐車場を頻繁に利用していそうな人達を集中的に探し、首から赤いマフラーを下げたライダーのことを聞いて回る。


 だがこの地に土地勘のない彼女が何故このデパートの駐車場にいるのか、それは地道な聞き込みとそれらの断片的な情報を統合した結果、この地のデパートの駐車場でフルフェイス姿の自動二輪に乗ったバイクのライダーを目撃したと言う情報が春ノ瀬桃花の耳に届いたからだ。しかしこれだけの話では何処にでもいそうなごく普通のライダーの情報に聞こえるのだが当然この話には続きがある。なんとその革製のライダースーツを着たライダーは季節に関係なく首から赤いマフラーを下げ、両脇の腰には長く大きな二つの大鋏を携えていた事が分かったからだ。

 その情報をソロキャンプをしながら全国を転々と旅をしているバックパッカーから偶然聞く事ができた春ノ瀬桃花は初めてあの大鋏を持ったライダーに繋がるそれらしい情報を手に入れた事に喜び、大いに浮き足だった事は言うまでも無い事だろう。

 そんな淡い期待と地道な聞き込みと努力がようやく実ったという想いから、どうしてもいても立ってもいられなくなった春ノ瀬桃花は、その謎のライダーを目撃したと言う情報があったとされる、とある地域のデパートへと自ら足を向ける。


 凶悪な罪を犯した罪人だけを専門に狙いその首を刈ると言われている、両手に大きな鋏を持ち、首には赤いマフラーを下げたフルフェイスのヘルメットを被った狂人『断罪の切断蟹』と言われている恐ろしい首狩り狂人の行方を追う為に。


 黒いライダースーツを着こなし、首に巻いた赤いマフラーを風になびかせながらバイクを走らせるその姿はまるでどこかの特撮ヒーローを連想させるとの事だが、ある噂では彼の絶対正義による基準と信念はどこか自分よがりでかなり子供じみているとの事なので、その善と悪・生かすか殺すかの二択でしか人を判断しないというその断罪はまさに、極端且つ、歪んだ正義と言われても否定はできないだろう。だからこそこの断罪の切断蟹は極端な絶対正義を掲げる狂者として、その数々の噂と都市伝説を信じている人達からはカルト的な人気を博しているのだ。


 そしてこの大挟みを持った狂人にその命を狙われた者はその首と胴体をまっ二つに切断され無残な最後を遂げるとの事だが、あるもう一つの噂ではこの狂人は人の道に外れた悪党以外は人は絶対に殺さないと言う変わり者の狂人らしいので、先ず普通に生活をしていたら絶対に遭遇する事はない無害な狂人なのだが、春ノ瀬桃花にしてみたらそういう訳には行かない。なぜならこの大鋏を持った狂人に春ノ瀬桃花の父親は首を切断され殺されているからだ。

 そんな断罪の切断蟹の行方を追うため今日も春ノ瀬桃花は断罪の切断蟹の手がかりを知っていそうな人達に場をはばかる事無く聞き込みをする。


 そのような内容の話をつい先ほど車椅子に乗った五十代くらいの気品のある叔母さんにした所、目を見開き、体を小刻みに震わせながら少し驚いたような顔をされたが、それくらいの反応は今までの経験上慣れているせいかもう既に織り込み済みなので、その車椅子の叔母さんに「変な事を聞いてしまってすいません。ご協力ありがとうございました」と和やかに言いながら、また次なる人へと聞き込みをするため、有益な情報を知っていそうな人達を懸命に探す。


「すいません。この駐車場内で大鋏を腰に携えて赤いマフラーを首に下げたバイク乗りのライダーを見かけませんでしたか。もしそのようなライダーを見かけたと言う方がいたらその情報を私に教えて下さい。どんな些細な事でも構いませんから!」


 どこかの他県から来たと思われる家族ずれや、いかにも厳つそうなバイク乗りのライダーに臆すること無く話を聞きに行く春ノ瀬桃花だったが、そんな彼女を呼び止める三人の男達が何やらニヤニヤしながら春ノ瀬桃花の前に立つ。

 そのいかにも柄の悪そうなバイク乗りの三人はまるで舐めるかのように春ノ瀬桃花の姿を見ると「俺達……その大鋏を持った男の事を知っているぜ!」と言いながら春ノ瀬桃花の体を回りから隠すかのように囲む。

 そのいかにも危なげな状況からしてこの素行の悪そうな三人の男達は明らかに危険な雰囲気を醸し出しているのだが、断罪の切断蟹の情報を知っていると言って来たこの男達の言葉を信じたのか春ノ瀬桃花はその話を素直に聞くことにしたようだ。


「それで、その大鋏を持ったライダーにはいつ何処であったのですか。教えて下さい!」


「教えてやってもいいが、ここでは駄目だ。どこで誰が聞いているかは分からないし、もしかしたら命に関わるかも知れないからな」


「た、確かにそうですね……あの鋏男の事ですからね……」


「そんな訳で、もし俺達からその話を聞きたいと言うのならこの駐車場の外の裏手にある小高い山の中で話をしようぜ。あそこなら誰にも話を聞かれる事もないし安全だろうからな」


「た、確かにそうですね。あの狂人達の仲間がいつどこでこの話を聞いているか分かりませんからね。分かりました、では裏山に行きましょう。そこでお話を聞かせて下さいね」


 そう言うと春ノ瀬桃花はその三人の男達に言われるがままにその後ろをついて行く。


            *


 歩くこと約五分、なんの疑いも示さずにその三人の男達の後をついて行った春ノ瀬桃花は声が届かないくらいの山深い奥まで来ると、ニコニコしながら三人の男達に声を掛ける。


「もうそろそろいいんじゃないですか。では教えて下さい。大鋏を腰に携え、首から赤いマフラーを羽織ったフルフェイス姿のライダーについて!」


 その春ノ瀬桃花の言葉を聞いた三人の男達は『もうここら辺でいいか』といいながら、不気味に行き成り笑い出す。


「ゲゲゲゲッ、知らねえよ馬鹿が、情報欲しさにのこのことこんな所までついて来やがって、やっぱりお子様だな!」


「ああ、未成年を騙すのはいつもながら簡単だぜ!」


「ハハハハ、もうお前は逃がさねえぞ。この距離ならいくら泣き叫んだって他の人達は誰も気づかねえからな! こんな可愛いカモが掛かってくれて今日は楽しい思いができそうだぜ!」


 この三人の男達の下品な台詞から察するにどうやらこの三人の男達は未成年の少女を襲う為に春ノ瀬桃花をこの草木の覆う小山の奥まで連れて来た暴漢者達のようだ。その状況から彼らに騙された事に普通の少女なら絶望に顔色を変えるのだが、何故か春ノ瀬桃花は特に顔色を変えること無く不敵に笑いながら三人の男達を堂々と睨みつける。


「やはりあなた方はただの悪漢達でしたか。こんな人気の無い所に連れてこられましたからきっとよからぬ事をしようともくろんでいる人達だと言う事は分かってはいましたが、まさかこんな所で婦女暴行の常習犯と出くわしてしまうだなんて、思わぬ所で犯罪に巻き込まれてしまいました。でもあなた方のような犯罪者を私は自称探偵見習いとして決して許してはおけませんから、どうかここはこれまでに罪を犯した自分の行いを悔いて自らの足で警察に自首して下さい。それとも私の手で警察に突き出されないと分からない人達なのでしょうか!」


「自称、探偵見習いだとう。なんだ、それは? 探偵小説の読み過ぎじゃないのか」


「なんだ、なんなんだ、この中学生女子は。お前この状況が分かっているのか。お前は人に助けも呼べずに今から俺達に暴行されるんだよ。それが分からないほど世間知らずなお子様ではないだろう!」


「ハハハ、いやきっと世間知らずなんだろうぜ。きっとこの状況で誰かが必ず助けに来てくれると思っているんだよ。なら俺達は大人としてこの少女に世間の残酷な厳しさを教えてやらないといけないよな」


「そうだな、悪い大人達にのこのことついて行き、さらにはそんな舐め腐った態度を取ったら一体どうなるのか……その厳しい悪夢のような現実をその体に教え込んでやるぜ!」


 そう言いながら飛びかかろうとした男に対し春ノ瀬桃花は左のスカートのポケットに忍ばせていた小型の催涙スプレーを手に取るとその噴射口をその男に向けて噴射する。


 プシューゥゥゥ!


「うわぁぁぁぁ、目が、目がぁぁぁ!」


「おい、落ち着け!」


「まさか、痴漢撃退用の催涙スプレーを持っていやがったとは。くそ、なら取り囲んで一気に押し倒してしまえ!」


 そう叫びながら近づく二人の男達に間合いを計りながら春ノ瀬桃花は更に左のスカートのポケットから抜き出した防犯用ブザーの留め金を一気に外す。その瞬間大音量でブザーが鳴り、春ノ瀬桃花のいるその一帯はけたたましい音に包まれる。

 自分達の話す声すら聞こえないこの状態にかなりの精神的な焦りを見せたその三人の男達は春ノ瀬桃花が持つ携帯用の防犯ブザーを奪い取ろうと更に近づこうとするが、そんな三人の男達の顔に向けてすかさず春ノ瀬桃花がスマホを構えると、カシャカシャと写真のシャッター音を何度も切る音を回りに響かせる。


「こいつ物凄く手慣れた感じで俺達の顔写真を取りやがった。まさか俺達の犯行を示す確たる証拠を押さえようとしているのか」


「このクソガキがあぁぁ! 舐めた真似をしやがって。だがそのスマホと防犯ブザーを奪って壊してしまえば特にどうと言う事はないだろう。早く抑え込んでしまおうぜ。なに中学生の女子にビビってんだよ!」


「だけどよ、こんなに防犯ブザーが鳴っているんだから誰かが何事かとここに様子を見に来るかも知れないぜ。こいつのスマホだけを奪って一早くここから退散しようぜ!」


「馬鹿、俺達はこの女に顔を見られているんだぞ。こいつも一緒にここから連れ出すか、脅しの材料を急いで作るとかしねえと、この少女の口を封じる事はできねえぞ!」


「そうですよね……時間がないですよね。ならあなた方には更に焦って貰うようにこんな衝撃的な事実を知って貰いましょうか。実はここに来るまでの間にここから一番近い最寄りの交番に電話をつないだままここまで来ていたのですよ」


 その春ノ瀬桃花の話を聞いた三人の男達は顔を青ざめさせながらその発言は嘘だと言い張る。


「ハッタリだ、嘘に決まっている。あの時点ではまだ俺達のことをそこまで疑ってはいなかったはずだ!」


「確かにそうなのですが、さっきも言ったように私はある有名な黒服の探偵に憧れている探偵見習いの中学生女子ですから、いつあの断罪の切断蟹に襲われても言いようにといつも万全の準備をしているのですよ。このようにね。と言いながら春ノ瀬桃花の体に触ろうとした男の手にすかさず電流を流し込む。


「い、痛えぇぇー、一体この衝撃はなんだ?」


 痛みが走った右手をさすりながらそう叫んだ男のその視線の先にはスタンガンを左手に持ち替えた春ノ瀬桃花の姿があった。その春ノ瀬桃花は右手に持ったスマホをその三人の男達にかざしながら堂々とした態度で男達を見据える。


「もうおとなしく観念しなさい。もうあなた方は逃げられませんし、言い訳もできませんよ。なぜならこの大音量のブザーの中でも、今までの私達の会話はこの通話の先にいる警察の人達には皆筒抜けになっていますし。それに今メールであなた方の顔写真を添付した物を警察のホームページに送りましたから、そこからあなた方の情報は時期に暴かれると思いますよ。だから覚悟してください!」


 その春ノ瀬桃花の言葉に合わせるかの用に、その手に持つスマホのスピーカーから誰かの怒鳴り声が飛ぶ。


「私は神奈川県警の警察官だがもうお前らは誰一人として逃げられないぞ。ついさっきまでのお前らと彼女との会話は全て聞かせて貰ったからな。もう言い逃れはできないぞ。いままでに犯した婦女暴行の件の事も後で聞かせて貰うからな、覚悟をしておけよ!」


 その春ノ瀬桃花が持つスマホから聞こえて来る警察官らしき人の声に動揺し冷静さを失った二人の男はこの場から一早く逃げる算段をお互いに示すが、一人の男が春ノ瀬桃花に憎しみと逆上の表情を浮かべながら傍に落ちている木の棒を拾い上げる。


「おい、何をしているんだ。早くこの場から逃げないと時期に警察が来てしまうぞ。それまでに少しでも早くこの場所から離れるんだ!」


「ああ、だがその前に散々俺達をコケにしてくれたこのガキにはちゃんと礼くらいはして置かないとな。そのスタンガンの電気ショック、結構痛かったんだぞ。痴漢撃退用のスタンガンなんか持ち歩きやがって、どんだけ自分の容姿に自信があるんだよ。このクソブスが!」


「そのクソブスを襲おうとしたから、今あなた方はこんな事になっているのでしょ!」


「う、うるせえ、このアマが生意気な奴だぜ。お前は警察がこの場に到着する前に、今この場で叩き殺してやるぜ!」


 そう叫びながら迫り来る木の棒を持つ男に春ノ瀬桃花が身構えていると、行き成りその男の前に現れた黒い大きな何かが、その男が持つ木の棒に目がけて勢いよく齧りつく。


「グルルルル、グルルル!」


「お、おい、なんだこの黒い大きな生き物は。見てないでお前らも加勢をしろよ!」


 そう叫びながら木の棒を持つその男は助けを求めるかのように他の二人の男にその視線を向けるが、二人の男達は恐怖と驚きの顔を向けながらその場からゆっくりと後ずさる素振りをみせる。その仲間達のただならぬ行動に再度その手に持つ木の棒に噛みついている生き物をマジマジと確認する事ができたその男は、あまりの恐怖の為か心を激しく取り乱しながら大量の汗を体全体から掻き始める。


「こ、こいつはまさか……あり得ない……あり得ないよ。で、でたぁぁ。あの黒いライオンだあぁぁぁ!」


 そう、その男が持つ木の棒の先に噛みついていた物は、物凄く大きな体を持つ黒いライオンのような生き物だった。

 そのライオンのような謎の生き物を間近で見てしまったその男は、恐怖で顔を引きつらせながらその場から全速力でこの山の下にある駐車場へと走り出す。


 ラ、ライオン? 黒いライオンだとう。な、なんでこんな所にあのテレビでも最近話題になったあの黒いライオンがいるんだよ。あの黒いライオンが、このデパートの裏山にも現れるだなんて、一体どうなっているんだ。あの東京中の公園に出没したと言われているあの黒いライオンがここにも現れたということは、本当はまだあの黒いライオンは捕まってはいないと言う事なのか。い、いずれにしてもこの状況はさすがにやばい、やばすぎる。一刻も早くこの場から立ち去らないと……。


 そう思ったその男は黒いライオンが噛みついている木の棒を手から離すと大きな声で叫びながらその黒いライオンの恐怖の象徴とも言うべき恐ろしい呼び名を叫ぶ。


「で、でたあぁぁぁ。本当の……黒いライオンだぁぁぁ。喰人魔獣だあぁぁぁ!」


 その大きな黒い体と立派なたてがみを見せつけながら間近まで近づいて来る黒いライオンもどきの姿を目撃してしまった他の二人の男達は、我先にと逃げだしたその男の後を目で追いながらどうにかしてこの場から逃げ出す隙を窺うが、蛇に睨まれた蛙のように動けないでいるようだ。

 そうこの三人の男達は皆喰人魔獣の本当の正体に気付くこと無く、目の前に行き成り現れた黒い野獣を本物の黒いライオンだと本気で思い込んでいるようだ。その恐怖と不安を体全体で感じてしまった三人の男達は今いるこの場所から無謀にも走りだそうとするが、黒いライオンを間近で見てしまった為か皆足下がふらつき逃げる事ができない。


 その千鳥足でこの場から逃げ去ろうとする三人の男達の前に杖を地面に這わせながら歩く長身の女性が立ち塞がる。


 目が見えないのか目をつむりながら歩くその女性は、物凄い勢いで迫って来る男達の勢いにも特に動じること無く(まるで研ぎ澄まされた杖術使いのように)手に持つ杖を静かに構える。


「……。」


「こら、そこの女、そこをどけ。邪魔だぞ。あの黒いライオンの姿が見えねえのか!」


「ライオン……? 確かにライオンの匂いも少しはしますが、この匂いはどちらかと言うと犬の匂いの方が強いですわね。それに気配も犬の用ですし、近くに野犬でもいるのでしょうか。そんな事よりもです」


 その杖を持つ長身の女性は自分のいる方に逃げてくる三人の男達の存在を音と匂いで確認すると、三人の男達の距離を音で的確に把握しながらその男達の胸の鳩尾や足の脛の辺りに杖の先端部分を素早く叩きつける。


「いきなりこっちに走ってきて邪魔も何もないでしょうに。でもあなた方からは何やら子悪党のような嫌な臭いがしますから、今ここで沈んで貰いますね」


 ドカ! バキッ!


「ぐわぁぁー、あんた、一体なにをするんだ!」


 ゴツン、ガツン!


「こんな状況の時に、お前は分かっているのか。ぐわぁぁー、やめろ、やめてくれ!」


 バコン、ガタン!


 黒いライオンに気を取られていたとはいえ大の二人の男がこうもあっけなく倒されてしまった事に最後に残った男はかなり焦っているようだったが、直ぐに気を取り直すと拳を振り上げながらその杖を持つ長身の女性に向けて猛然と襲いかかる。


「もう容赦はしねえぞ。お前も俺達の邪魔をしようと言うのか。そこをどけぇぇ!」


「三人目の男との距離はざっと約3メートルと言った所でしょうか。1秒後に私の顔に彼の拳が当たってしまいますね。なのでこのタイミングでしょうか」


杖を持つ長身の女性がそう言うと、左手のスナップを効かせながらその襲い来る男のいる方に向けて何かを物凄い速さで投げつける。その男の眼前に投げつけた物は数十個に散らばる小さな小石だった。

 その石砂利のような小石がまるで散弾となってその男の顔に直撃しそうになるが、直撃する寸前の所で条件反射的に両手でガードをしてその小石を防いでしまう。その為か大きく態勢を崩してしまったその男は目の前にいるはずのその女性の姿を完全に見失うが、その隙を突くかのように突如音も無く近づいて来たその長身の女性は物凄い手の力でその男の首を押さえ込むと片手だけでその動きを止めてしまう。


「な、一体何が起こったと言うんだ。何だこの手は、あの長身の女性が片手だけで俺の首を締め付けているのか……しかも軽く頸動脈の部分に指を掛けている。くそ、離せ、その手を離しやがれ!」


 だがいくらその男がもがき暴れてもその細身ながらもよ~く鍛え込まれたその女性の腕はびくともせず、それどころかまるで鉄で出来ているかのようにその場に固定されているかのようだ。

 その万力を締めるかのような強い締め付けに徐々に酸欠で意識を失い始めたその男は徐々にその視界が薄れていくのを感じるが、その青ざめていく顔を覗き込みながらその長身の女性は特に何も感じないかのように無機質にその男に向けて言ってのける。


「私は、まだ年端もいかない子供に対して理不尽な暴力を振るったり卑劣な行いで陥れようとする大人は絶対に許せない、そんな性格なのですよ。か弱い子供に対しての性暴力は絶対に許しません。なのでもう面倒くさいですから、このまま首をひねってくびり殺しちゃおうかしら。どうせ生きていても(この私のように)その罪を重ねていく、そんな仕方の無い人間の用ですからね!」


 ググググ……。


「や、やめろ……やめてくれ……それ以上は……」


「だめです、あなたはここで死ぬべきです……」


 そう言いながら男の首に一気に力を込めようとしたその時「それ以上首を絞めたらさすがに死んじゃいますよ。だからもうそれ以上はやめて下さい!」と言う若い子供の声が長身の女性の耳にハッキリと届く。その声で我に返ったその長身の女性は男の首から片手を離すと、子供の声のした方にその顔を向けて声を掛ける。


「あの~あなたは大丈夫ですか。怪我はありませんか!」


 先ほどとは打って変わりその長身の女性は物凄く優しい言葉と笑顔を向けながら相手を気遣うかのように春ノ瀬桃花の所まで歩いて行こうとするが、その行く手を黒いライオンこと喰人魔獣は何故か止めようとその長身の女性の前に堂々と立ちはだかる。その勢いと気迫は凄まじく、その鬼気迫る警戒心と威嚇は目の前にいる杖を持つ長身の女性に向けられている事は言うまでも無かった。


 その長身の女性は、自分の前に立ちはだかる喰人魔獣にその美しい顔を向けながら大きな溜息をつく。


「はあ~っ、黒いライオンを見たと言う幾つかのタレコミ情報から選抜して興味本位にこのデパートの駐車場によって捜索をして見たけど、どうやら正解だったみたいね。まさかあの暴食の獅子が残した最後の生き残りの喰人魔獣に偶然にも出会う事ができるだなんて、可笑しな運命の組み合わせもあった物ね。それになぜこうなったのかは正直分かりませんが、まさかこんな所であのお馬さんの忘れ形見に出会う事ができるだなんて、まさに神の悪戯的な意思を感じずにはいられませんわ。これは一体どうした物でしょうか」


 杖を持つその長身の女性はまるで独り言のようにブツブツと小声で呟いていると、目の前まで来た春ノ瀬桃花は防犯用のブザーの音を止めながら深々と頭を下げる。


「あの、背の高いお姉さん。助けてくれて本当にありがとうございました。お陰で助かりました!」


「フフフフ、どうやら無事だったみたいですね。怪我も無くて何よりです」


「でもお姉さんは一体何故ここに?」


「あなたがあのガラの悪そうな三人の男達について行くのをウチの母がしっかりと見ていましたからね。なので足の不自由な母の代わりにこの私がここに出向いたと言う訳なのですよ。案の定いろんな意味で来てみて正解でしたがね。しかし……こんなに大きな犬は流石の私も杖一本だけで仕留めたことはないのでかなり不安なのですが、腕の一本を犠牲にしたらどうにかあの喰人魔獣を仕留められるでしょうか。ほんと世話が掛かりますわね。本当に……フフフフ!」


 ボキボキボキ……ボキボキボキ……ボキボキボキ!


 そう言いながらその長身の女性は喰人魔獣の首の頸動脈を握り潰すイメージトレーニングをしながら右手の指を何度も動かすポーズをみせるが、そんな緊迫した怪しげな雰囲気を春ノ瀬桃花がとめる。


「ま、待って下さい。この黒いライオンさんも私を助けてくれましたから決して悪い動物では無いと思います。だからこの子の事を許してあげて下さい! あの悪い大人達を追撃して襲う素振りも見せないですし絶対に悪いライオンではないと思うんです!」


「いや、そもそもライオンにいいライオンも悪いライオンもないでしょ。彼らは単純に野生の本能で生きているんですから」


「それでも……それでも……このライオンは人を無闇に襲わなかったから、いいライオンだと信じたいです」


「いいライオンね。あなたはこの黒いライオンが怖くは無いの?」


「こ、怖くはないです。この子からは何だか優しい臭いがしますからおそらくは大丈夫だと私は思います。私は昔から優しい人と敵意のある人が何となく分かってしまう、そんな特技があるんですよ。だからおそらくはこの子は大丈夫です」


「特技ですか。目の見えない私とは明らかに違う別の方法で相手の心の内側が何となく分かる特技を生まれながらに持っていると言う事でしょうか」


「はい、まあ平たく言えばそんな所です。だからあの三人の男達の悪意が伝わってきたのを私は何となく分かっていたので事前に対策を練る事が出来ました。あと少し待てば地元の警察の人もここに来てくれますからもう大丈夫だと思います」


「そんな事を言って……もし私がこの男達よりも悪い存在だったとしたらあなたは一体どうするつもりなのですか」


 その長身の女性の少し意地の悪い言葉に春ノ瀬桃花は笑いながら一蹴する。


「フフフ、大丈夫です。あの三人の男達と対峙をしている時は何だか近寄りがたくて物凄く怖いと感じましたが、私と話をしている時は普通ですから、きっとあなたは悪を許さない正義感を持つ真面目な人なんですよね。私にはそう感じます」


 いや、全然違うんですけど。どうやら彼女は自分に向けられる悪意だけならどうにか直感程度には感じる事が出来るようですが、他の人達に向けられる悪意をより深くに感じることはさすがに出来ないのでしょうね。まあ全くないよりはマシだと言った感じでしょうか。


 長身の女性がそんな事を考えていると、春ノ瀬桃花があることに気付く。


 もしかしてお姉さんは目が不自由なのですか。そんなハンデがあるのにこんな山の中まで私の身を案じて探しに来てくれただなんて本当に感謝の言葉もありません。


 そう言いながら春ノ瀬桃花は黒いライオンこと喰人魔獣の頭を撫でる。


「よ~しもう大丈夫だからね。この背の高いお姉さんは敵では無いです。だから落ち着いてこのどら焼きでも食べていなさい!」


 そう言うと春ノ瀬桃花は背中に背負っている小さなリュックサックから紙で梱包された一個のどら焼きを手に取ると、目の前にいる喰人魔獣の口に目がけてその持っているどら焼きを黒いライオンの口の中に無理矢理に押し込む。


「さあ~お食べ!」


「バックン、ムシャムシャ……ゴックン!」


 そのどら焼きをおいしそうにムシャムシャと食べる喰人魔獣の姿に春ノ瀬桃花はうっとりしながら黒いライオンもどきの顔を正面から覗き込む。


「この子……よ~く見たらライオンの毛皮の様な物を着ぐるみのように着ているわ。それに首の辺りに生えているたてがみの中には首輪らしき物が隠されているみたいね。その首輪には番号で56号と書いてあるけど、これは一体なんの番号なのかしら。一体この黒いライオンのような生き物は何者なのでしょうか。そして一体だれが何の目的でこんな真似をしたのでしょうか。そう考えたら私、この黒いライオンには興味が尽きませんよ!」


「あなたは怖い物知らずですか。黒いライオンの口の前に手を差し出すだなんて、もしこの黒いライオンもどきが本物のライオンだったらその手は無くなっていた所ですよ」


「え、じゃこの黒いライオンのような生き物はやっぱり本当のライオンではないのですか。ならこのライオンのような生き物は本当は一体なんの動物なのでしょうか?」


「まあ、この動物の動く気配と周囲に漂う匂いから察するに恐らくは犬でしょうね。それもかなりの大きな体を持つ逞しい犬のようです。この犬の犬種は分からないけど、どうやら本物のライオンではないようです。そうこの動物こそがつい最近、東京中の公園に出没し騒がせた喰人魔獣と呼ばれている物の正体です!」


「これがあの黒いライオンの正体……。東京中の公園に出没し人々を恐怖のどん底に叩き落とし騒がせて来たあの黒いライオンが実はただの大型犬の犬だっただなんて未だに信じられません。ですが、あのどら焼きをたったの一口で食べるその姿をみたらそう言う事だったのかと素直に納得はできます。だってこの子が本当のライオンだったらお姉さんの言うように私の手はこの時点で無くなっていたかも知れませんからね!」


 そんな春ノ瀬桃花の言葉を聞きながらその背の高い女性は喰人魔獣の方にその顔を向けると殺気を解きながら優しい声で話し出す。


「分かりました。では喰人魔獣さん、私達もここら辺で仲直りをしましょう。私の言葉や気持ちをどこまで理解しているのかは分かりませんが、私はあなたやそこにいるお嬢さんには危害を加えるつもりは毛頭ありませんから、いい加減その威嚇と警戒を解いてはくれないでしょうか。いい加減にこの不毛なにらみ合いには疲れましたからね!」


 その言葉が通じたのかどうかは流石に分からないが、黒いライオンは警戒をしながらも春ノ瀬桃花の傍から少しだけ離れる。


「あらあら、随分とお利口さんな犬ですわね。少し離れた所からこの少女を守るかのように見守ってはいるがその警戒は決して解きはしないと言った所でしょうか。もしも私がこの少女に襲いかかる素振りを見せよう物なら直ぐにでも私に飛びかかるつもりなのでしょうか。見ず知らずの人をまさかここまで守ろうとする犬がいただなんて、正直以外だったと言うほかはありませんわ。私が知っているあなたの本当の飼い主なら、あなたのような優しいだけの犬は絶対に許してはおかないと思っていましたからね。だからこそこの地に逃げ込んだ喰人魔獣は人を見境無く襲う極めて危険で凶暴な猛犬だと思っていたのですが……まさかこんな予想だにしない自体になっていようとは正直思いませんでした。なのでこれからあなたの身柄を一体どうしたらいいのかを考えなくてはならなくなりました。このままあなたを警察と保健所に知らせて、安楽死の殺処分送りにするか……それともこのままあなたを助けてくれそうな人の所に送って……その人にあなたの運命を預けるか……その二つに一つですわ」


「二つに一つ……ですか」


「ええ、このまま見逃すという選択肢がない以上、この二つしか考えられませんね」


「保健所に知らせて殺処分は流石に許してください。この犬はとても賢くていい子なんです。なのでどうか、どうか!」


「この犬は決して人は襲わないと……その言葉を一体誰が信じるのですか。大体の大人はこの犬の異様な姿を見たら恐ろしくて直ぐに殺処分を考えるはずです。それがあの喰人魔獣と呼ばれていたあの黒いライオンもどきの正体なら尚更です。それにこんな姿に改造された犬が人の手を借りずにこの外の世界で生きていく事はハッキリ言って無理だと私は思います。ならここはこの犬の為にも安楽死という選択肢も考えて見なくてはならないのではないでしょうか」


「こ、この犬はちょっとライオンに似ているだけで、本当は物凄く優しい犬なんです。だから保健所行きだけは許してください。一体誰がこの犬の体をこんな風にしたのかは分かりませんが、生まれた時からこんな理不尽な目に遭ってせっかくその場所から逃げて来たのにそのまま保健所に送って殺処分だなんて、人は身勝手で勝手過ぎます!」


「ならあなたがこの犬を飼いますか」


 その長身の盲目の女性の言葉に春ノ瀬桃花は少し困った顔をしながら申し訳なさそうにその喰人魔獣に向けて言う。


「すいません、私も施設暮らしなので……残念ながら犬は飼えないんです」


「そうですか、勿論私の家も犬は飼えないのでこれは困りましたね。まあ取りあえずはその犬の体に纏っているライオンの本革を脱がせましょうか。そんな本革をまとっていたら近くの猟師に射殺をされてもとても文句は言えませんからね」


「本物のライオンの本革を被っている……なぜ目の見えないはずのお姉さんにそんな事が分かるのですか?」


「フフフフ、臭いでしょうかね。本当のライオンの臭いとその革を被った犬の匂いが同時に臭って来ましたからね、だからこそこの犬があの最近東京中を騒がせていたあの黒いライオンもどきの正体だと分かったのですよ」


「なるほど、そう言うことだったのですね。ならこの犬が被っているライオンの本革をこの犬の体から外して上げましょう。こちらに向かっているはずの警察がここに到着する前に」


 そう言うと春ノ瀬桃花は背負っている背中の小さなリュックの中から全てのお菓子を取り出すと、そのお菓子を与えているウチに喰人魔獣の体からその身に纏っているライオンの本革を素早く丁寧に剥ぎ取っていく。勿論その作業には背の高い盲目の女性も手伝う事が出来たので、そのライオンの本革を犬の体から剥ぎ取る作業は約一~二分程度で終わらせる事ができた。


「これでよしと……それにしてもこの着ぐるみのように羽織ってあるライオンの本革を脱がせて見たらこの犬……なんだかかなり痩せて見えますね」


「まあ、このライオンの本革を身につけている限り、犬本来が持つ本物の毛はかなり邪魔でしょうから、恐らくは前の主人から定期的に体全体の毛をバリカンか何かでカットして貰っていたのでしょうね」


「なるほど、それで……お姉さんの言っていたもう一つの方法とは一体どんな方法なのですか。ある人にこの犬の運命を決めて貰うとか言っていましたが?」


「その通りの意味ですよ。実はこの犬を飼ってくれそうなお人好しを私……一人だけ知っているのですよ。その人がこの犬を飼うと言ってくれたなら恐らくこの犬は一応は助かります。まあ、変な羊の格好をした変人やその周りにいる刑事達があれこれと助言めいた事を言っては来るでしょうが、そんな言葉の妨害にも屈せずにその彼がこの犬の命を見捨てなければおそらくこの犬は助かると私は思いますよ。て言うかこの方法以外にこの喰人魔獣を引き取ってくれる人を私は知りません。どんな動物愛護団体だってあの喰人魔獣の数々の血生臭い伝説と悪行を知ったら、とてもじゃないけどこの喰人魔獣を生かして飼うことは決してしないでしょうからね」


「そんな、こんなに大人しい犬なのに、そんな残酷な事件に関わっている犬だっただなんて未だに信じられません!」


「まあ、この56号と書かれてある喰人魔獣は人は襲ってはいないとは思いますが、あの黒いライオンの事件に深く関わっている以上、殺処分は免れないでしょうね」


「何とかならないのですか」


「なのでその人がこの黒いライオンもどきの犬を殺処分にすると決めたならその時は素直に諦めて下さい。これが私がこの最後に残った喰人魔獣にできる……最大の譲歩です」


 そういいながらその盲目の女性は、今度は喰人魔獣の方に顔を向けながらしみじみと答える。


「あなたは犬とはいえ、あの暴漢者達から彼女を守った立派な犬です。だからその敬意を込めて私はあなたを警察や保健所には突き出さずに、私が一目置くあの探偵に全てを任せることにしたのです!」


「お姉さんが一目置く探偵ですか。そんな人がいるんですね。実は私にもとても信頼している探偵がいるんです。私はその勇気ある探偵のようになりたくて、今もある一人の犯罪者を独自に追っています!」


「犯罪者をですか。確か私の母があなたから聞いた話では、その犯人の特徴はフルフェイスのヘルメットを被ったライダースーツを着たバイク乗りで。首には赤いマフラーを下げ、両方の腰には長く大きな鋏を携えているとの事ですが、あなたはそんな可笑しな格好をした犯罪者を今も追っていると言う事ですか」


「はい、とても有名な犯罪組織に所属をしている犯罪者で、断罪の切断蟹と言われている殺し屋だそうです」


「そうですか……殺し屋ですか。それで……その殺し屋の事で知っている情報はそれだけですか」


「はい、それだけですが、なにか?」


「いいえ、当然私もその鋏男の事は知らないのですが、あまり深入りはしない方がいいと思いましてね」


「なぜですか」


「だってその鋏を持った犯罪者は一人では無く何処かの大きな犯罪組織に所属をしている人物だと言う事ではないですか。いつか貴方のことを疎ましく思う組織の誰かが貴方のことを狙いに来るかも知れませんよ。そうなる前にこんな危険な事からは身を引いた方がいいと思いましてね。見た感じではあなたはまだ中学生の低学年ですよね。なら尚更単独でこんな事に首を突っ込むのはあまりにも危険だと私は思うのですよ」


「私はもう子供ではありません。もう中学生になったのですから!」


「いえいえ、中学生はまだまだ子供ですよ!」


「そ、それでも私はあの断罪の切断蟹とかいう犯罪者を追わないといけないんです。あの鋏男も、悔しかったら自分を追ってこいと言っていましたからね」


「そうですか……ならもう何も言いません。ですが無茶だけはしないで下さいね。あなたが持つ危機感知能力に少しでも触れる人物があなたの目の前に現れたら迷わず逃げて下さい。それがあなたの身を守る最大の武器にもなりますからね。今回のように決して一人で犯罪者には挑まないこと。もしも誰も助けに来てくれなかったら一体あなたはどうするつもりだったんですか。あまりにも危険過ぎますよ」


「そうですね、以後気をつけます」


 そう言うと春ノ瀬桃花は今回の事を反省したのか、目の前にいる杖を持った長身の女性に向けて深々と頭をさげる。


 まるで本当の姉妹のように語り合う二人の女性と一匹の犬とのやり取りを黙って見ていた三人の男達は隙を見てその場から逃げようとするが、背の高い盲目の女性に杖で腹部を思いっきり突かれて、また地面へと倒されてしまう。


 ドカン、バキ、バッシュン、ゴロゴロ!


「ぐわぁぁー、もう勘弁してくれ!」


「俺達が悪かったから、もう許して下さい!」


「もうその杖で体を突かないでくれ。物凄く痛いんだよ。もう逃げないからさあ!」


「フフフフ、なら警察が来るまで、ここでおとなしくしていて下さいね。そうしてくれないとまた私の杖があなた方の急所に入ってしまうかも知れませんよ。なにせ私は目が見えませんからね、どこに当たるかは自分でも分からないのですよ」


「くそ、どうせこれから待つ俺達の人生はろくでもない人生なんだから、もう好きにするがいいさ。警察でも何でも連れてこいや!」


 そんなやけくその態度を取る一人の男に対し、春ノ瀬桃花はまるで諭すかのように言う。


「あなたが自分自身の人生を台無しにしてどうするんですか。あなたの人生はまだまだ長いのですから、これまでに傷つけて来た被害者達に対し心から償い、その罪を刑務所の中で猛反省をしてきて下さい。そしていつの日か刑務所の中から出所ができたら、その時は、少しでも人を思いやれる……そんな人間になっている事を心から願っています。そうです、人は罪を悔い猛反省をして何かを学んだら、絶対に変われるのですから。私はそう信じています!」


 そんな春ノ瀬桃花の態度を見ていたその長身の女性は「本当に素直で優しく、そして可愛らしい人ですね……あなたは」と和やかに言いながらポケットから携帯電話を取り出す。


 プルプル……プルプル……プルプル……ガシャリ。


「あ、もしもし、お母さん、私です。ちょっとしたある事に巻きこまれちゃいまして……はい……なのであの例の闇の運送会社の力を借りて……ある人物の家にあの喰人魔獣を一匹送りつけてやろうと思っているのですが、よろしいでしょうか。ええ……その手配を至急お願いします……はい、では後ほど」


 そう言うとその長身の女性はスマホの通話を切ると、にこやかに「もう大丈夫ですよ。ここからは私に任せて下さい。なのであなたはもう家に帰った方がいいですよ。どんな情報をつかんでこのデパートの駐車場に来たのかは分かりませんが、あなたが追う組織の殺し屋がそう何度も同じような所に出没しているとは思えませんから、その殺し屋の情報を聞き出すことはもう出来ないと思いますよ」と言いながら春ノ瀬桃花に向けて優しい言葉を掛ける。


「わかりました、今回は素直に帰ります。ですがその鋏男の事でなにかわかった事があったら私に知らせて下さい!」


「ええ、分かりました。今の話は心にとめておきますね」


 まるで話に合わせるかのようにそう言ってのけるその長身の女性に、春ノ瀬桃花はあることに気づき慌てて言葉を付け加える。


「あ、そう言えばまだお姉さんの名前を聞いてはいませんでしたね。私の名前は『春ノ瀬桃花はるのせももか』といいます。とある有名な探偵に憧れる、自称探偵見習いの中学一年生です!」


「とある有名な探偵さんの見習いですか。これはまた有望そうな探偵候補がいた物ですわね。これは近い将来……その組織に所属をする狂人達もかなり警戒をする事になるでしょうね。フフフフ、これは願わくば相まみえたくはない物ですわね」……と小さな声で呟く。


「え、今何かいいましたか?」


「いいえ、こっちの話ですわ。そうですか……自称、探偵見習いの……春ノ瀬桃花さんですか。なら私も名前を名乗らないといけませんね。私の名前は『甕島佳子かめじまけいこ』といいます。とあるデパートの地下売り場で金物店を経営する母と二人で切り盛りをしながら地道に暮らしている、目の不自由な盲目の女性です。どうぞお見知りおきを」


 そう言うと甕島佳子は春ノ瀬桃花に向けて和やかに頭を下げるのだった。



            *



 程なくして駐車場から見える裏山に登り入って来た数人の警察官達は地面に横たわる三人の男達に向けて手際よく手錠を掛けて行くが、そんな警察官達に向けて三人の男達は明らかに怯えを見せるかのように自ら助けを請い、慌てふためきながらこの場所にあの黒いライオンがいたと言う事を話出す。

 だがそのいるはずの黒いライオンの姿はもう既にどこにも無く、その状況に合わせるかのように春ノ瀬桃花と甕島佳子の二人は初めからそんなライオンなどはいなかったと言い張った事で、警察はこの素行の悪い三人の男達の証言よりも春ノ瀬桃花と甕島佳子の言い分の方を信じてくれたようだ。どうやら警察はこの三人の男達は苦し紛れに嘘を言って話をかき乱そうとしているとそう判断したようだ。


 裏山を降り、警察に軽く状況説明を求められた春ノ瀬桃花と甕島佳子の二人は、程なくして甕島直美のいる駐車場へと帰って来る。


 その後、バスの来る時間に合わせるかのように春ノ瀬桃花・甕島佳子・甕島直美の三人は近くの喫茶店で軽く時間を潰しながら色々と雑談をして楽しい時間を過ごしたが、いつの間にかバスが来る時間が近づいて来た事で春ノ瀬桃花は、盲目の甕島佳子とその母の足の不自由な甕島直美に向けて「いろいろとありがとうございました。お陰で助かりました!」と別れの挨拶をしながら近くのバス停へと急いで歩き出す。

 名残惜しそうに何度も後ろを振り返りながら笑顔で手を振るう春ノ瀬桃花に対し手を振って返事を返していた甕島佳子と甕島直美の二人は、春ノ瀬桃花を笑顔で見送りながらこれまでに感じた各々の心の心境を語り合う。


 先に話し出したのは車椅子に座る母親の甕島直美の方だった。


「春ノ瀬桃花さんでしたか。あの時、彼女があの三人の男達と一緒に裏山に行く所を私が目撃していたのであなたに知らせる事ができましたが、もし誰も気付いていなかったらどうなっていたか分からなかったですね。しかし今回はいろいろと可笑しな事に遭遇してしまいましたが、結果的には事が全て上手く行って良かったと言った所でしょうか。でもまさかあの少女があの強欲なる天馬の娘さんだっただなんて、何か運命的な物を感じますね。あの少女が鋏男の行方を追っていると言う話を聞いていなかったらその正体を見過ごす所でしたわ」


「あの狂人・強欲なる天馬こと春ノ瀬達郎の娘さんでしたか。確かに少し因縁めいた物を感じますね。あの強欲なる天馬こと春ノ瀬達郎と断罪の切断蟹は個人的にも中が良かったという話を風の噂で聞いた事があります。夜は他の人格達にその意識を乗っ取られていたはずの春ノ瀬達郎が一体どうやってあの断罪の切断蟹と知り合って仲良くなったのかは未だに謎ですが、春ノ瀬達郎はそんな自分の意思ではもう既にどうにもならない所まで追い詰められていたことで自分の後始末を無二の親友でもあったあの断罪の切断蟹に自分の殺害の依頼をしたと後に円卓の星座側から送られて来た調査資料にそんな事が書かれていたのを思い出しましたわ。そんなに自殺がしたいのなら他の人格達が動かない昼間のウチに済ませたらいいのでは無いかと私はそう考えてしまうのですが、まだ直ぐには死ねない何かがあったのでしょうか?」


「その直ぐには死ねない理由が、今帰りましたがね」


「あ、そう言うことですか。私とした事がうっかりしていましたわ!」


「フフフフ、あなたは親の気持ちが知らなさすぎるのですよ。もしも自分が死んだらあの天馬寺に巣くう高田傲蔵和尚がもしかしたら娘になにか危害を加えるのでは無いかとそう考えたのでしょうね」


「でもあの白い羊と黒鉄の探偵をあの天馬寺の事件に関わらせた事で、高田傲蔵住職が率いるあの怪しげな宗教団体をどさくさ紛れに潰す事が出来ましたから、その後に高田傲蔵住職の確信たる失墜と逮捕を見た後は安心して断罪の切断蟹にその首を切られに行ったと言う訳ですか」


「本当はあのどさくさに紛れて断罪の切断蟹自らがあの高田住職の首を切断する算段だったらしいのですが、その役目はあの黒鉄の探偵が逮捕という形で決着を付けてしまいましたから、あの高田和尚を殺すチャンスを失ったと後に断罪の切断蟹がそんな愚痴をこぼしていたらしいですよ。そんな事をあの壊れた天秤が言っていたのを思い出しましたわ」


「その壊れた天秤も春ノ瀬桃花さんと偶然出会ったかのように見せかけてわざと彼女を煽り、たきつけてあの黒鉄探偵事務所に依頼に行くようにとそう仕向けたらしいじゃないですか。つまり最初の発端を作ったのはあの壊れた天秤だと言う訳ですね」


「壊れた天秤はあの高田住職の事を内心ではかなり嫌っていましたからね。狂人のエージェントでもないのにまるでマネージャーのように我が物顔で話に首をつっこんで来ていたので、壊れた天秤からして見たらそれはもう邪魔で邪魔で仕方が無かったのではないでしょうか」


「でも結果的にはあの高田傲蔵住職が円卓の星座に謀反を起こす兆しを見せていたので、その裏切り者を排除する為に人知れずに壊れた天秤と断罪の切断蟹の二人が白い羊と黒鉄の探偵を利用して陰ながらに動いていたと言った所かしら」


「フフフフ、まあそんな所でしょうね」


 そこまで(母の)甕島直美が言うと、(娘の)甕島佳子は少し考え込みながら断罪の切断蟹の事について話し出す。


「あの断罪の切断蟹の行方を必死に追っている春ノ瀬桃花はその証拠と彼の居場所を突き止める事は生涯ないとは思うのですが、あの断罪の切断蟹と言う狂人は一人の少女に追い詰められたからと言って危害を加えるようなそんな狂人なのでしょうか。もしも噂とは逆にどんな追撃者も問答無用で排除をするそんな狂人なら春ノ瀬桃花さんの身が危ないのではないでしょうか。こんな事を同じ狂人の私が言うのもなんですが、円卓の星座の狂人達は皆情け容赦の無いまさに狂った集団ですからね!」


「それは流石に無いと思うわ。あの断罪の切断蟹が掲げている信念は、法律では決して裁く事のできない悪党共を己の価値観と正義で裁くのが彼のやり方ですからね。その子供臭い正義に照らし合わせたら見るからに善良そうな春ノ瀬桃花を殺すことはまずないと言う事です。今回の狂人ゲームを起こしたあの暴食の獅子の事でもあの断罪の切断蟹は、もしも暴食の獅子に恨みを持った何処かの依頼者があの男を殺す依頼を直接頼みに来たら、その時は真っ先に自分に知らせてくれと言っていたほどにあの暴食の獅子の事を毛嫌いしていましたからね」


「確かに彼の殺しは必要以上に相手に長い恐怖や苦痛を与えて極限状態にしてから生きたままライオンに食わせてその光景を見て楽しむという残忍なやりかたですからね。まあ私も人のことは言えないのですが」


「それでもあなたはこの闇の仕事に楽しさを見いだした事はないじゃないですか。ただ一切の感情を押し殺して一撃のもとにそのターゲットの頭をかち割るだけです。そう考えたら一撃のもとに相手を放るあなたの殺しは少しは情けがまだあるとも言えますね」


「まあ、結局はそのターゲット達を確実に殺すのですから同じですがね」


「それを言ってしまったら全ての円卓の星座の狂人は皆同じですよ。ただ今回の暴食の獅子は少しやり過ぎたと言った所でしょうか。あの白い腹黒羊に喧嘩を売って逆に彼女の策略によって殺されてしまったのですからね」


「いいえ、あの暴食の獅子とサシで対決をして勝ったのはあの黒鉄の探偵こと黒鉄勘太郎さんの方ですよ。黒鉄勘太郎さんはあの暴食の獅子に揺るぎない勇気と何事にも屈しない不屈の精神力で見事に打ち勝ったのです。ですから本当にあの暴食の獅子を負かしたのは黒鉄勘太郎さんの方です。その事に関してはあの白い腹黒羊とも意見は一致すると思いますよ。本当に黒鉄勘太郎さんは凄い人です。あの春ノ瀬桃花さんが彼に憧れるのも分かるような気がします。あの羊野瞑子は黒鉄勘太郎がいるからこそ光って見えるのですよ。そこを忘れないで下さい!」


「あなたは白い腹黒羊のことは随分と嫌ってはいますが、あの黒鉄勘太郎のことは過剰なほどに認めているのですね」


「勿論です。私は大概はなんの感情も示さずに相手を無情に殺すのが定番なのですが、黒鉄勘太郎さんとの命の駆け引きだけは別ですわ。いつか彼と狂人ゲームで戦って私が負ける時が来たら彼に優しく殺して貰う事が、今の私の究極の夢ですからね!」


「そ、そうですか。そう易々と死んで貰ったら私が困るんですけどね」


 そう言うと甕島直美は自分の言葉に酔い知れる甕島佳子を見つめながら話を元に戻す。


「ではなぜ断罪の切断蟹は暴食の獅子にだけではなく、私達、円卓の星座の狂人達にその正義の反旗を翻さないのか、答えは簡単です。円卓の星座の狂人同志では余程のことが無い限りは勝手に仲間内での殺し合いは出来ない事になっているからです」


「なるほど、だから円卓の星座の狂人どうしの殺し合いは基本的には御法度、つまりは出来ない事になっているのね。ならあの円卓の星座の狂人をやめた白い腹黒羊はどうなの。もしも本当のただの裏切り者なら狂人ゲームをする事無く狂人達を総動員してあの白い腹黒羊を仕留めに行けばいいだけの話しじゃないかしら」


「白い腹黒羊の脱藩と謎の離脱には、あの壊れた天秤と初代・黒鉄の探偵の黒鉄志郎との密約が密かに絡んでいるみたいだから、そこの所の詳しい事情はまだ謎だしハッキリ言ってその経緯は未だにわからないままだわ。ただ二代目・黒鉄の探偵こと黒鉄勘太郎の代から始まった新たな狂人ゲームでは必ずあの白い腹黒羊を事件の捜査に加える事が絶対的な条件になっていて深く義務づけられているみたいだから、だからこそあの白い腹黒羊は警察の法律や円卓の星座の狂人達からも特に狙われることも無く、のうのうと町中を闊歩できると言う事になっているみたいね。全く……あの白い腹黒羊こと羊野瞑子とは一体何者なのかしら?」


「普通正体のばれた狂人はその鉄の掟により他の狂人達に殺されるか、自らが自害をしてその命を果てるかと言う二択に迫られると言うのに、あの白い腹黒羊だけは特別だとでも言うの?」


「それはわからないけど、白い羊と黒鉄の探偵には私達の知らない謎がまだまだ沢山ある物と私はそう感じるわ。なにせあの食えない黒鉄志郎が残した黒鉄の探偵としての謎の権限をあの二代目の黒鉄勘太郎がそのまま受け継いでいるのですから、絶対に油断は出来ないと言った所かしら。そんな訳で今後もあの二人の探偵の事を遠巻きに監視をしていきましょう。そうできるだけ慎重にね。いつかあの二人と対決をする本当のチャンスが訪れるその時まで!」


 そう言いのけた甕島直美に対し、甕島佳子は気の抜けた溜息を吐きながら駐車場の隅に置いてある大きなプラスチック製の箱にその顔を向ける。


「それにしても、このプラスチック製の大きな箱の中にあの喰人魔獣が入っているとは夢にも思わないでしょうね。この大きなプラスチック製の頑丈そうな檻の箱が黒鉄探偵事務所に届いて、その贈り物の宛先が羊野瞑子さん本人にだったら彼女は必ずその贈り物を怪しむでしょうが、その好奇心旺盛な彼女の性格からしてこの大きな箱の中を必ず見るはずです。その箱の中を見た時の白い腹黒羊のびっくりした顔が今から思い浮かびますわ。もうそのどさくさに紛れてこの喰人魔獣が羊野瞑子の手にでも一噛みしてくれるとなお面白いのですが、そんな可笑しな要望は流石に贅沢なのでしょうか。フフフフ、そう考えたらあの喰人魔獣が黒鉄探偵事務所に行った事で今後は何やら楽しい転回になるのかも知れませんね。これは今後が楽しみです!」


「しかし随分と大人しい犬ですね。さっきから鳴き声どころか身動きをする音すらも聞こえないのですが」


「まあ、それだけ大人しい犬だと言う事でしょうか。そんな事よりもです。先ずはあの白い腹黒羊に向けて私から一言言葉を送りたいと思っているのですが、文章書きの方はよろしくお願いしますね。私は目が見えないので紙に字は書けませんからね」


「文字を書くのも全く別の誰かに代わりに書いて貰う予定なので筆跡で警察にバレる事は無いとは思いますが、その文字の内容次第ではこの喰人魔獣を送ってきたのが私達だとあの白い腹黒羊には直ぐに分かってしまうかも知れません。なのでまかり間違っても私達の名前や住所や電話番号と言った類いの証拠は一切乗せないようにしなくてはいけませんね。そうしないとあの黒鉄探偵事務所に関わる刑事達にあの喰人魔獣を送りつけてきた私達の事がバレてしまうかも知れませんからね。そうなっては後々面倒くさいことに巻き込まれてしまうかも知れませんよ」


「それを見越して、その全ての証拠の隠滅をしたままどんな品物でも運んでくれる闇の運送会社に喰人魔獣の運送の依頼をしたのですから、そこは抜かりはないのでしょ」


「まあ、そうなのですが、一応は警戒はしないといけませんからね。なにせこの喰人魔獣をあの羊野瞑子の元に送ったら必ず彼女にだけは私達の事がバレるのですから、彼女が無闇に警察に告げ口をしないことを願いますわ。まあ私達が送ったという確たる証拠がない以上、おそらくはそんな事はしないでしょうがね」


「了解ですわ。さあ~て、ではあの羊野瞑子に向けて一体どのような文章を送ったら彼女は地団駄を踏んで悔しがってくれるのでしょうか。フフフフ、今から言葉を口にするのが楽しみですわ。そういう訳で私の言葉を紙に書く役目はお願いしますね!」


「はあ~、しょうがないですわね。じゃ文章にして書くから早く言いなさいよ」


「ええ、それじゃぁ、言いますね……」


 そう言うと甕島佳子は生涯の宿敵とも言える羊野瞑子の悔しがる顔を思い浮かべながら不気味に微笑むのだった。



                        第五章、喰人魔獣。終わり。

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