残された希望
触手どもがこんなところにいたのも頷ける。
失われた植物、失われた羽虫、失われた世界、その残骸が、ここに眠っていた。
考えてみれば、ごく自然の流れで、ここはミュージアム-シオズケ、人類の歴史を保管する場所、ならば一番残すべきものは希望だろう。
次元パズル、はどう関係してるかはわからないが、おそらくはここへの道しるべか、触手とオワリがぶっ壊したあの鉄扉の鍵だった、みたいなオチだったんだろう。
ゲームとしてはクライマックス、最初から名前だけ出てきたお宝の正体判明、あとは話を畳むだけ、もう中古で売ってもいい段階まできた感じだ。
そんな中にいきなり飛び込めば、オワリだってスキップの一つも披露する。
嬉しそうな笑顔に、私はそうじゃないと感じる。
例えるなら、苦労して手に入れたヌード映像が、法人類学の学術的サンプルとして撮られたもので、何もかも丸見えなのに直立不動でちっともエロくなかったような、さらに言うならモデルが学者の中では美人かもしれないが一般常識に照らし合わせるとブスババァだった、みたいな、そんなガッカリ感に溢れていた。
このディストピア体現中の世界で地下の希望といえば人間牧場だ。
女どもが機械につながれ、家畜が如く並び、人権を剥奪された上で、ひたすら子孫を残し続ける。
それを管理するのは無慈悲なコンピュータ、いやそこはサイボーグ化した犬にしておこう。つまり私だ。
私なら、下手なエロゲーよりも立派に運営する自信がある。脳内シミュレーションではいつもハイスコアだ。
オワリもそう思うだろ?
「ぴーーひゃらら」
音が出ない。
いよいよコアがダメらしい。
所詮は遠隔操作ユニット、壊れようともいくらでも替えは効く。
だが新しいのが届くのには当然それなりの時間がかかる。その間、ここでオワリを一人にしてしまうのは、好ましくはなかった。
だから戻ろう、そう言ってはみたが、声が出ないのループだった。
進むオワリ、未来建物入り口へ。ブォン、と開いた自動ドアにビクンと跳ねたオワリは可愛い。
それでも恐る恐る入って見れば、未来と生活感が混在していた。
オレンジの壁紙、ただし壁は平面ではなく曲線で落ち着かない。そこから飛び出てるランプに植物が吊り下げられ干されている。
奥には戸棚と本棚、何が置かれているかはわからなくとも整理整頓はできてないとはわかる。
部屋の中央には白色のテーブルとイス、どちらも流線型でお尻の形にフィットしそうだが噛みごたえは悪そうだ。
そしてテーブルの上には、まさしく未来人か宇宙人が着そうな、青色全身タイツが、広げて置かれていた。イスの下にはブーツが、泥が付いていて乾いてない。
オワリの表情に力がこもる。
それが何を意味してるか、察する前にオワリ、跳ねた。
ザスリと身を飛ばし、構え、睨むは入り口左、影になっていた場所、そこにいた、天使だった。
美しい。
輝くような金色の長い髪、その間から覗かせる左目は青、肌は雪のように白く、だけど触れずとも温かみが伝わってくる。
土の付いた鍬を振り上げる腕は細く、だけども張った筋肉がそれとなく、だけど極上の曲線美を作り上げている。
薄い胸を隠すのは長い髪だけ、丸出しな谷とも呼べない間と小さなおへそは愛らしく、思わず舐めまわしたくなる。
そして下半身も裸、むっちりとした太腿、その間に、本来は恥じらいを持って隠されるべき秘密の花園が、付いてんじゃねぇか。
こいつ、この顔で、男とか、死ねよ。
いや、マジ、死ねよ。ここは荒ぶる荒野を生きるオワリと、隠されてた温室での美少女とのキマシタワー展開からの間、乱入、私、の展開だろう。
それが、男とか、美形ショタとか、誰も望んでない。私は望んでない。
死ねよ。いや殺す。オワリ、殺せ。
「「あの!」」
声二つ、同時に重なる。
発したのはこれから殺される男と、オワリ、気のせいか二人、まるで時が止まったかのように、見つめ合う。
……なんだこれは?
理解する前に男が指差しす。
「怪我」
差されたオワリ、ボロボロの右腕、見せようと捻るや痛みか、表情が歪む。
「待ってて」
男、言い捨て、鍬を残して奥へと走り出す。
残される私をオワリ、今のうちに殺せる武器になろうともがくも、ナノマシーンは思うように動かず、オワリもまた動かなかった。
そしてすぐさま、ドタドタと下品な足音立てて戻ってきた男、手には小瓶、封を開け、オワリに差し出す。
媚薬だ。今はまだ飲むな。
言うより先、オワリは受け取り、そして口へと近づける。
「あ!」
男の奇声にオワリが跳ねる。
男、首を振り、無言でジェスチャー、中身を腕にかけるようして見せる。
罠だ殺せ。
だけどオワリは、愚かにも初心にもそれを信じ、従い、腕にかけた。
緑色の粘度の高い液体、ローションのように絡まり、腕全体を包むも一滴も垂れず、だが変化はすぐに起こった。
震える腕、盛り上がる筋肉、色が緑から赤色へ、赤色から灰色へ、目まぐるしく変わる。
驚きの表情のオワリ、痛みはないらしい。
そして乾いて、ぼろりと灰色が剥がれ落ちると、そこには綺麗な腕が現れた。
超回復薬、まるでSFだった。
戻った腕を呆然と見つめるオワリ、だがハッと気づいて男を見る。
「あり、がと」
「あ、うん」
「俺、オワリ。オワリ-ウチドメ」
「トォイ。トォイ-ソドミィ」
唐突な自己紹介、続くはたどたどしい態度、そこから続かない会話、始まらない虐殺、もはや顔を見ることさえしなくなる二人、これは、なんだ?
自分の問いかけに自分で答える。
これは、これではまるで、豚の餌にもならないボーイミーツガールではないか!
絶望だった。
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