vs蛸壺3

 触手は滅ぶべき存在だ。


 下劣、醜悪、卑劣、自在に姿形を変え、わずかな隙間から入り込み、美しい女性の肢体に絡みつき、さらに奥へとあんなことそんなこといっぱいやりたがる。


 異種族でありながら人間を求め、人間以下の知性と道徳しか持ち合わせてない分際で、さも自分がご主人様だと言わんばかりに振る舞い、支配して、舐る。自然界にいてはならない邪悪な存在、それが触手なのだ。


 そんなものをありがたがって薄い本にして広め、ハッスルし、結果として少子化を加速させた、思えば人間絶滅の遠因であり、しかるべくして滅びたと言えよう。


 やはりつり合いは大事だ。


 そう思うだろオワリ?


 ……定期的に頭の中で話しかけているが、オワリに反応はない。


 怒っているのか拗ねているのか、あるいはただ単に心が読めてないだけかもしれない。だがここまで一緒に来た仲、以心伝心が超テクノロジーを突破してても驚かない。


 現に私はオワリの気持ちが舌に乗せてるみたいにはっきりとわかる。


 この、エレベーターから始まってずっと同じ、代わり映えのしない風景に飽き飽きしてるのだ。


 ドアはほぼ全てが施錠していて開かないし、開いてたと思ったら中はぐしゃぐしゃで、壊れたガラスケースとか、砕けた土器とか、そんなのが転がってるだけだ。


 得るものは少なく、終点の見えない廊下が続いて、挙句その全てを超えても得られる保証はない。


 ……せめてもの救いは帰り道がまだわかることだ。ただ反転して来た道をまっすぐ戻ればまたあのエレベーターだ。触手の残骸がちょっと気になるけれど、お外に出れるならへっちゃらぷー、間違いなくそう思ってる顔だ。


 ズバリ正解、とでも言うかのようにオワリの足が止まった。


 だけど反転せずに前だけ見つめる。


 ……突き当たり、遮る壁、そこにあるドア、上には緑の蛍光色で階段の印があった。


 まいった。これが開いたら行動範囲が上下に広がる。絶対大変、一人だったら絶対へこたれちゃう。けど、狗闘天が一緒だからへっちゃらだい!


 オワリの心を読んでるとギィ、と音がした。


 階段へのドア、開いて、中からワラワラと、三人美形が出てきた。


 映像や写真、彫刻に残されそうな美形揃い、全員が男、オシャレスーツにネクタイに、ビジネススーツでびしりと決めて、さも仕事ができる大人な風貌だ。


 そんな三人、アイコンタクトもなく、じっとオワリに見惚れながら、言葉を交わす。


「ヒモ?」


「ノー。ニート」


「ニート」


「ニート」


 こいつらは殺されたいらしい。


「びひゃー」


 進言、だが、声が出ない。


 ダメージチェック、コアへの軽微な損傷、音声機能が若干壊れている。


 話せない。だけど心は繋がっている。


 必要なのは、武器だ。


 変形、手慣れた変身、形状は薙刀だ。槍の長い柄に脇差の刀身、適度な間合いに遠心力を乗せて、下段ではらって足を、上段で凪いで首を、自在に刈り飛ばす。


 何よりオワリが長ものを構える姿は美しい。


 惚れ惚れ見惚れようとワクワクする。


 が、オワリは構えなかった。


「いい」


 一言、言い捨て、私を静かに壁に立てかけて、素手で、無謀に、進み出た。


 なんで?


 疑問に答えるより先にオワリと相手三人、動く。


 駆けるオワリ、対して三人は左右に広がり、ぱかりと口を開けただだだだだだだだだだだだだっっだだだだだだだだっだっだだぁ。


 振動、超音波、あのニタリブスと同じ、ただし三人三倍の威力、薙刀となった私の身が震える。


 その只中オワリは止まらず、むしろ加速し、そして拳を振り上げた。


 体をひねり、右の拳は肩の高さ、肘は背後に向け、まるで演劇かのようにシンボリックな見え見えパンチ、しかし心が綱がっている私はその拳の握りが軽いのを見逃さなかった。


 見逃したのは三人側、その真ん中へ、オワリは拳を叩き込んだ。


 防御も回避もなく、そのまま顔面に叩き込まれた。


 その衝撃に、表情は変わらず、瞬きもなく、ただ後頭部が弾け飛んだ。


 奥義『鎧通し』必殺技なはずの一撃を雑に放っていた。


 普通なら上手くいくわけのないはずの一撃、だが効果は抜群だった。


 食らった男は後頭部の内よりの力で裂けて脳みそブシャー、ではなく触手がでろりん、と飛び散らせた。


 最低、触手、一人じゃなかった。


 二人目? 二匹目? 二本目?


 とにかく次に出てきたのの真ん中は、その後方、階段へのドアへ触手を吹き付け、へばりつけ、重力に従いずるりと落ちる。


 その先端が床に着く前にオワリは駆動する。


 頭パーンな死体を右側に、突き飛ばした反動でオワリは左に、別れて駆けて二発目を胸板へと打ち込んだ。


 ベシャーと派手に背中から触手、今度は床へ広がり、その上に体が倒れることで汚い枝が生えたみたいになっていた。


 そして駆動、三人目へオワリ、そこそこあった間合いを踏み越え跳んで拳を放つ。


 対する三人目、真ん中一人目を突き飛ばし前へ、音を発しながらも両腕を胸の前で交差し、真っ当な防御の構え、拳を受けた。


 ……それに効果があったのか、なかったのか、弾けたのは背中ではなく、足首だった。


 ガクリと力失い、崩れるように倒れ掛かってくるのを押し飛ばし、うつ伏せに倒れて手を突いた首の後ろへ、追撃の一撃を見舞った。


 音のない衝撃、その身が沸騰したかのように震え、蠢いた後、その背が、まるで蝉の脱皮が如く割れて、だけども羽化には失敗して、ただキモい中身を晒して動かなくなった。


 惚れ惚れする三人虐殺、相手が触手人間だったが、それでもオワリは美しい。


 ……ただ、私を使わなかったことは、喉に刺さった骨のように鈍い痛み残した。


 まぁきっと、コアが壊れかけな私を気遣っての優しさだろう。


 一人きりのオワリなのだ。私からはあっても、自分から別れを言える訳もない。


 ずっと一緒なのだ。


 まだ、一緒なのだ。


 お別れは、私が決めるのだ。


 心の繋がりを再確認しながら、私は武器から私に戻った。

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