vs蛸壺1
緑を見せて期待させ、近づいてがっかりする。
絶滅したと思われた木々の緑が溢れんばかりに広がる公園、近づいてその葉に触れてみれば全部がプラスチック、偽物ばかりで本物はやはり絶滅してたと絶望に突き落とされる。
悪趣味な人口自然の公園を、絶望踏み潰しオワリ、突き進む。
目指すはこの先、神社の形をした地下への入り口だった。
……考えてみれば妥当な場所だ。
この次元パズルとやらがどんなものかは知らないが、価値あるものならちゃんと保管するべきだろう。
それがどこかと聞かれたら、私の頭に浮かぶのは一箇所だけだ。
ミュージアム‐シヲヅケ、人類の歴史を残すために作られた巨大地下博物館、ここだけで世界のこれまでが全て詰まっていると言われていた。
その保管物には、あのグランド-ユリカゴのガラクタとは格の違う、本物の国宝や貴重な書物が残されていると聞く。
ただし機密事項も多く、中へ一般公開もないため、オカルトな噂が飛び回り、さらに人間絶滅の混乱でやたらと情報が錯綜していて、真実がなんなのかもはやわからなかった。
だからこそ、こんな価値もよくわからない次元パズルとやらがあっても、その情報が残されていても、別段不思議とは思えなかった。
そこへの侵入、私はこれまで同様に賛成してなかった。
絶対に正しいと言える情報でさえここは要塞、シェルターに等しいセキュリティー、加えて外界とは閉ざされた内部にどれほどの危険が残されてるかもわからない。危険レベルはこれまでの比ではない。
……だが、私は内心では心配もしていなかった。
セキュリティーの強さは索敵力や攻撃力だけが全てではない。地下への入り口はこの先にある神社型の建物の中にある。
そこから下へ降りたければ気の遠くなる手続きが必要だ。それを無視したければ分厚い扉をこじ開けなければならないのだが、いくらオワリでもそんなパワーは持っていない。
入れない入り口前で足止めを喰らい、あれこれ試して諦めるまでの仮初めのちょっとした冒険、ならば良い思い出になるだろう。
ただ、これが最後の思い出だ。
……オワリはこの世界最後の人間だ。
この上ない孤独、この先ない絶望、優しかった人たちはみな死に絶え、残るは残酷な世界と私だけ、それがオワリだ。
どんなに気丈に振る舞おうとも、笑って見せても逃れられない孤独と絶望から逃れる術は、私にすがるしかない。
だが、それが揺らいでいる。
新たな、そして何故か現れた人間たち、彼らの存在がオワリを壊そうとしている。
幸か不幸か、彼らは問答無用でオワリを襲ってきた。それだけパズルに価値があるのだろうが、問題はそこではない。
問題は、オワリが情けを、即ち融和の可能性を示したことだ。
……これで、相手側に交渉できるかもしれない可能性を示してしまった。そして実際そうなった時、オワリはそれを断る理由が薄い。
パズルを守る理由、これが最後の希望で、人類を、さらにはオワリも救うと言われてたからだ。
それが交渉道具として、との可能性を、オワリが気がつけば全てが終わってしまうのだ。オワリだけに。
…………もしも他の存在を認めたならば、私とオワリの関係はどうなるか?
長い年月、共に死線を潜った間柄、種族を超えた愛に目覚めて、私はオワリの一番だろう。
だがそれは100%ではない。
オワリの中の数%でも他人に取られる、そう想像しただけで全身の毛が逆立つほど不快だった。
そうなる前に、終わりにする。オワリだけに。
最低な想像だが最悪よりも幾分マシだろう。
そうなるのはまだ先、そう思いたい。
「…………やな感じだね」
「バフェ!」
唐突に声をかけられ変な声が出てしまう。
考えを読まれた? 今のはうっそでーす! ほんとはオワリのことが大好きで! ちょっとジェラシーしちゃっただけなんだよーん! オワリを終わりにとか寒いのギャグギャグ! さぁわらいましょー!
ストン、とオワリが立ち止まる。
……目の前には壊れた神社があった。
木製に見えて鉄筋コンクリートな外壁は崩され、むき出しになったエレベーターの扉はこじ開けられ、下へと伸びるワイヤーが底なしの闇の中へと落ちている。
壊れた入り口、壊したのは誰?
危険度が一気に跳ね上がった。
「バウァ」
撤退を進言する。
「わかってる。先を越される前に急がないと」
違うそうじゃないと言う前にオワリ。底なしの闇に飛び込む。
ガクリと遠心力、左手をワイヤーに引っ掛け、回転し、原則しながら降りていく。
構図で言えば失われた技術、ストリップショーのポールダンス、闇の中で外から見れないのがもどかしい花びら大回転だった。
……そして意外と浅く到着した下のフロア、ここも開いていたドアの向こうへ飛び込むと幸か不幸か明りは生きていた。
薄暗い中に見えるのは前と左右に伸びる廊下、コンクリート打ちっ放しの床、壁、天井だった。
床には数字とアルファベット、それと線が赤青黄色で引かれていてどこぞへ案内している。
壁にはドアが、等間隔に並んでいる。それらドアのドアノブの上にはカードスキャナーがセットであって、シンプルだが丈夫そうだった
天井には無地だしのパイプ、灯りは裸電球、監視カメラもいくつか見えた。
無機質で規則正しく見える空間、空気は冷たく、乾いている。
その中へ一歩踏み込むとその足音がどこまでも木霊した。
何もない、無人の平和に見えて安堵する。
「…………さっそくだな」
オワリが呟くのと、ドアの一つが開くのはほぼ同時だった。
音もなく、なのに重々しく開いたドアの影より現れたのは、つるりとした白い肌の、絶世の美女だった。
…………そうか、女同士ならばまとめてハーレムで無限の可能性だったか。
オワリにしなくてよかった。
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