vs魔法少女エネルギッシュ4

 ドローンが忙しなく動くのを背景に、美少女戦士オワリと魔法少女ゴリラが向かい合う構図は、衰退した文明に残る『格ゲー』を思わせる。


 手数重視のトリッキーな上級者向けと、大技投げ技主体の別の方向での上級者向け、どちらが強いかはゲームバランスによるが、私のイメージでは、後者が覇権を握るのが多い。


 そんなゴリラ、我が覇者だと言わんがばかりに踏み潰したドローンよりヒラリと飛び降り床を踏みしめる。


 その一連の動作の中にもスカートがめくれ上がらないよう、気を使う所作が見てとれて不快だ。


 その不快さを前にオワリは逃げず、ただじっと、その剛毛を見つめていた。


 危うい雰囲気、自暴自棄とも言える感じ、それが私の役目を思い出させる。


 逃げずに戦うのがオワリの覚悟なら、そのためにこの身を武器すること、それが今できる最善だ。


 ずっと握り続けてくれていたオワリの手の中で流動する。


 量は少なめ、コアを除けば握りと鍔と若干の剣身のみ、それでも伸ばし、束ね、尖らせ、返して切り込みを入れる。


 形状はナイフだ。


 太い剣身に斬れ味は無く、代わりに先端の鋭さと釣り針のような返しが付いている。深く刺さり過ぎないようにの鍔と、最低限の柄の根元には切れ込み、

 左右にひねれば簡単に折れるように施してある。


 刺して折り、剣身を体内に残す使い捨てのプリズンスタイル、歯ブラシの柄を削って作る簡易ナイフの最上位版だった。


 我ながら禍々しい形状に、オワリは冷たい視線をチラリと落とす。


 ゾクリときて心地よい。


「うぼああああああああ!!!」


 嫉妬か、触発されたゴリラが絶叫、そして突進してくる。


 もはやナックルウォークとも言えない四足疾走、対してオワリ、あくまで自然体だった。


 両手を下げて、力を抜いて、受け流しの構えを取る。


 その無防備さ、知能があれば疑うものを、獣のゴリラは迷わず右の拳を可愛いオワリのお顔に叩き込んだ。


 その刹那に脱力、握られている私にも伝わる力のなさ、そして踏んでた床がメコリと鳴る。


 名もなき防御奥義の成功、それを感じるより先に、次が、その次が、来ていた。


 右の拳と左のバナナ、滅多打ちだった。


 手応えの奇異など理解できずにラッシュラッシュラッシュ、ありったけをぶちまけ、床が凹んで行く。


 その絶え間ない攻撃に反撃の間はなく、カウンターも打てない。


 防戦一方、そして奥義成功の連続記録は程なく途切れた。


「オェ」


 口から漏れ出た嗚咽に透明なゲロ、実に、実に実に実に素晴らしい腹パンだった。


 一瞬浮いたオワリ、そのコメカミへ今度はバナナが振り下ろされる。


 あ、ヤバイ。


 足の浮いた状態では下へ衝撃は逃がせない。つまり奥義が出せない。


 まずい。せめて顔は綺麗なままでと祈ると同時にコメカミへ、クリーンヒットした。


 鈍い打撃音、まさしく旋風が如く回転しグルグル回りながら木の葉のように、派手にぶっ飛ばされた。


 ……あぁこれも防御の奥義だ。


 名前は確か『暖簾のれん』名の如くその身を布切れに変え、受けた力のまま体を動かすことで散らす。


 この場合は回転とぶっ飛びにエネルギーを消耗させ、ダメージを拡散させてるのだ。


 だが失敗した。


 原因はぶつかった、大型ドローンだ。ワゴン車サイズの本体にタイヤサイズのプロペラが六つついた形、色は紺色、ここらで見る中では一番大きいやつ、そいつの後部に肩からぶち当たってしまった。


 一瞬焦点がぶれるオワリ、その見た目にダメージはない。が、空いている左手は無意識に腹パンされた腹をさすっていた。


「うごあしゃああああああ!!!」


 そこへゴリラ、更なる突撃、これにオワリ、奥歯を噛み締めながら前に出た。


 ふらつく足取り、そこへ迫るゴリラの剛腕、これをオワリは一気にしゃがみこみ掻い潜る。


 そして立ち上がるのとほぼ同時に、オワリは派手にスカートをめくった。


 目が腐った。


 何かを見たかも知れないが、何を見たかを思い出そうとすると脳が拒否する。


 なので良くは見えなかったが、オワリはゴリラから離れ、ゴリラは頭に被せられたスカートをなんとか戻そうともがいている。フリフリが耳かどこかに引っかかった上、太すぎる指が不器用で、そこに羞恥心からか慌ても混ざって滑稽な踊りで私の目を腐らせる。


 その身へ、オワリは全力疾走、駆け出し駆け込み、そして飛んだ。


 放ったのは実に見事なドロップキック、あたり弾かれよろめいて、今度はゴリラが大型ドローンにぶつかった。


 その表紙にスカートが戻るゴリラ、そこへオワリが追い打ちをかける。


 使うは私、順手に持った返しのついた剣身を突き立てる。


 ……だが外した。


 刺さったのはゴリラの分厚い肉ではなくそのフリフリドレスの脇の下あたりの余り布、そしてその向こう側の大型ドローンの背面、二つ重ねて刺し貫いて、そして折ってしまった。


 無駄使いだ。


 ゴリラの服をドローン貼り付けたところで意味はない。あの剛力ならば

 ドレスなど引きちぎり秒も拘束できないだろう。


 完全な無駄使いだった。


 ……しかし、ゴリラはモタモタしていた。


 離れるオワリを追おうとして、ドレスがビリリと鳴るや止まって、その目はオワリを睨みながらもドローンから離れようとしない。


 …………まさかと思うが、このゴリラは、服が破けるのを嫌がっている?


 理由、思い浮かぶのが羞恥心、だった。


 パンチラを嫌い、一々スカートに手を伸ばすゴリラなら、服が破けていやーーんエッチー、も嫌いなのだろう。


 脱いだところで黒の剛毛、誰も喜ばないぞと吐き捨てようとしたのを察知してか、貼り付けられた大型ドローンが起動する。


 安全装置も後方確認も丈量の過剰搭載も気にせず、滑るように外へと飛んでいく。


 それに引き摺られるよう、ゴリラも続いて続いて、それでも服が破けないよう体制変えて、バナナまで落として、ついにドローンへ張り付いた。


 そのままテイクオフ、外へ空へドローンが飛び立ち、ゴリラの体も浮く。


 そこから飛び立っていくドローンを見送りながら、オワリは落としていったバナナを拾い上げる。


 一瞬の間と体幹の移動から、バナナは見た目以上に重いらしい。


 それを片手に何度か持ち直し、ゴリラを見て、振りかぶり、投擲の体制をとった。


 狙撃、ゴリラに当たらなくても、いやゴリラではなくドローンに当てて墜落させれば一網打尽だ。


 やれオワリ、殺せオワリ、醜いゴリラをやっつけろ!


 ………………なのに、オワリは、振りかぶるのをやめて、バナナを足元に放り捨てた。


 そして黙って見逃すオワリに、見逃されるゴリラ、見つめ合う両者が何を考えてるか、どうでもいい。


 これは、だめだ。


 不殺系ヒロインなど今時流行らない。それどころかこの崩壊ディストピアでそんな甘い考えのヒロインなど価値もない。


 ……ひょっとすると、オワリは次元パズルのせいで変わってしまったのかも知れない。あるいはあのパンチラで脳まで腐ってしまったのかも知れない。


 ならば、オワリを終わらせる、私の最期の役割も、存外すぐにくるのかも知れなかった。


 美しいものは美しいまま、終わらせる。


 この世界にぴったりなエンディングが、私の頭の中で組みあがりつつあった。

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