vs魔法少女エネルギッシュ3

 オワリとこのゴリラとは真逆な存在だった。


 可憐で可愛く、なのに女性らしさを強調しないオワリ、一方で結構毛だらけケツまで毛だらけ、なのにぶりっ子全開のゴリラ、戦いも同じだ。


 力の絶対量こそ女子ながら、その伝達技術に秀でているオワリ、対して技術が何かも理解できるわけないゴリラの絶対的なパワー。


 真逆な両者が戦えば拮抗した良い試合になるかもしれないが、しかしオワリにはゴリラにはない圧倒的アドバンテージがあった。


 それは私だ。


 狗闘天、最先端にしてロストテクノロジーで作り上げられたナノマシーン集合体の身体とそれを操る忠実にして知的でクールでお茶目な私、適材適所で形を変え、最適な武具を供給すれば、敗北は有り得ない。


 めり込んだ水槽より身を引き出すオワリに合わせて指示より先に姿を変える。


 今回は剣だ。


 太く厚い諸刃、重心は切っ先に、鍔は指を斬らない程度に最低限に、剣身にポエムを刻むのがお茶目なところだ。


 薄くては折られる、片刃では掴まれる、軽ければ止められる、対獣、対ゴリラを考えての素早い選択、私でなければこうはできないだろう。


 私の意を察して手に取るオワリ、軽い素振りで手応えを確かめそれから腕を垂らして自然体に、ただ剣身は床に平行になるよう構えて、俗に言う『フロムの構え』を取る。


 対するゴリラ、いつの間にか液晶画面にめり込んでたバナナを左手に取り戻していた。


 ゴリラも猿、バナナから逃れられないらしい。これだから草食獣は。


「うぼあああああああああ!!!」


 嘲る空気が伝わったのか再び咆哮、再び突っ込んでくる。


 対するオワリも迎え撃つべく前に出る。


 さしてない間合いは瞬時に潰れ、剣は届くが腕は届かない距離にて、オワリの先制、斬撃、右から左へ、刀で言えば逆胴、ヘソの高さでの横一閃、残像残さぬ斬速、だが空振る。


 ゴリラ、野生の勘か、斬撃の初動に合わせて歩みを止めて一歩引いていた。


 空振り、回避され、できた隙、重心が切っ先にある分、止めも返しも困難で、素人目でもわかりやすい反撃チャンスができてしまった。


 それを見逃せないゴリラ、再加速、接近して腕を伸ばす。


 これに、オワリも加速した。


 空振りの斬撃を止めるでなく更に加速、踏ん張ってた足を解放し、更に蹴って蹴って、横へ一転、降り出しの斬撃に戻る。


『空転二剣』これは奥義ではなく秘技だった。


 一手目の斬撃は囮、あえて回避させ、続く隙に誘い込み、一転しての遠心力を乗せた二手目の斬撃で叩き斬る。


 一瞬の躊躇も迷いも無しの流れ技、背を向ける勇気と相手の動きを読み切る技量を持って完成となる。


 ……相手がゴリラ程度なら余裕でかませる秘技だった。


 それでも誘いこまれたと察したらしいゴリラ、大袈裟に見える表情で半端に立ち止まり、苦し紛れにバナナを盾にして身構える。


 無様、ならばそのバナナごと両断…………なぜバナナでなく私が砕けるのだ?


 バナナだぞ?


 バナナだぞ?


 たかがバナナだぞ?


 あの、遠足の時におやつに入りますかとの質問は芋のように主食にしている食文化へのヘイトスピーチだと訴えられて賠償金請求される、あのバナナだぞ?


 なのにまるで未知の合金作られてるが如く硬く、私の剣身は綺麗に砕け散った。


 せめてもの効果は、その破片がゴリラの顔にかかってることだが、目潰しにはなれてない。


 僅かな怯みに呼応してオワリ、今度はこちらから距離を取る。


 同じく破片を振り払い、戻るゴリラ、降り出しに見えて実際は私を失っての一手損、オワリピンチだ。


 と、そのオワリ、びくりと顔を上げるや出口へと駆け出した。


 やっと逃げることを思い出したようだが、迂闊だ。あまりにもバレバレな軌道にゴリラも気づき、先を越されて出入り口に立ち塞がれる。


 ゴリラからは逃げられない。


 勝ち誇った表情に見えるゴリラ、その前屈姿勢の肩に上からシャッターが落ちた。


 何事か、急いて周囲を見回せば、水槽より大量に中の液が抜け、中の人体が干上がっていた。しわくちゃな肌が急速に乾燥し、まるで泥が乾いたかのようにひび割れて、気持ち悪く死んでいた。


 それを察知しての緊急隔壁だろう。勘付いて逃げ出そうとしたオワリに、勘付けずに邪魔しようとしてできてないゴリラ、一瞬目を合わせた後に、オワリは駆け出しスライディング、ゴリラが挟まりできた隙間をすり抜け外へと飛び出した。


 そのすれ違う風に一瞬捲れたスカートに目をやる間もなくオワリ、来た道を走る。


 上下左右揺られて降りて、またあのドローン発着場にたどり着いた。


 ここまで警報の効果はないらしく、ドローンは変わらず忙しなく、外への出入り口は開いたままだった。


 しかし、外壁を伝って降りるなど疲れるだけで意味はない。また来た時同様、柱と柱の間を伝えて降りる方が安全だろう。


 ……だが、その間もなかった。


 ズドオオン!!!


 凄まじい破壊音、床に響く衝撃、オワリの目の前で、小型の飛行ドローンが降ってきたゴリラに踏み潰された。


「ウッホ」


 意味ありげな一鳴き、表情だけならばただのイケメンだろう。


 だがしかし、その右手がめくれないようスカートを抑えてる仕草がこの上なく腹立たしかった。

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