vs魔法少女ゲヘナ3

 世界が金色に埋まっていく。


 まるでスロットマシーンのジャックポット、大当たりに溢れかえるコインだった。


 降り注ぐ金盥かなだらい、ほとんどは地面や建物や先に落ちた盥に当たって跳ねながら金属音を響かせる。その中のいくつかはゾンビに当たり、昏倒させ、また別のいくつかはスパイドーンに当たって爆発させた。


 跳び避け続けるオワリもいくつかかわし損ね、頭に肩に当たってまた金属音を響かせる。


 その表情から、そこそこの硬さながらさほど重くはない様子だった。


 地獄と呼ぶには生温かな、災害レベルの金盥、しかし一向に収まる気配は見えず、いずれ世界は金盥に埋まるのではないだろうか?


 疑問を抱きながらもオワリにしがみつくことしかできない私の目が、金の中の赤を見つけた。


「ゲヘへあだ!」


 四足歩行、器用に盥の上を這うゲヘナが笑う。


「見よあだ! これぞおらのあだ! 固有武器あだ! 『天罰覿面ゴールドラッシュ』!あだ あたったらあだ! すんごくいたいあだ!」


 ところどころで変な声を上げるゲヘナ、姿勢のせいで上部が見えないらしく、片っ端から盥に打たれ続けていた。


「このままだ! 生き埋めにしてあだ! 好き放題あだ! してやあだ! ゆゲヘあだ!」


 喋りながら当たりながら金盥の中を泳いで這い上がって来るゲヘナ、強力な武器らしいが、制御はできてないらしい。


 だが消耗させられているのは事実、華麗に飛び跳ね、まるで花々の間を飛び舞う妖精のような軽やかさ、だけどもそれだけの体力が消耗させられる。


 ほんのりと滲める汗がセクシーだが、それも長続きしないであろうことは、オワリ自身も自覚していたようだった。


 軽く呼吸を乱しながらの困り顔、ゲヘナの表情が更に下品ににやける。


「そうだあだ! オラのタライあだ! でぐったりさせて石化させてぐっちょあだ! ゲヘしてやゴボッ!」


 ゲヘナの最後のは上からの盥からではない。正面からの盥だった。


 オワリ、落ちて跳ねた金盥を足で踏み立ててひっ掴み、アンダースローで顔面へ、ゲヘナのにやけた顔へとぶち当てた。


 上からの盥にはなれてたらしいゲヘナでも顔面セーフとはいかなかったらしい。両手で顔を押さえてしゃがみこみ、背中で盥を受けても動かない。


「そんなのずるいゲば!」


 タイミング悪く立ち上がった顔面へ二つ目の盥、私の体が万全ならば尻尾を振って追いかけたくなるような見事なフリスビースロー、威力も制度も抜群だった。


 ……薄々わかってたことだが、このゲヘナ、バカだ。


 触れたら終いの石化能力、かなり強力だ。


 実際、私を失ったオワリから見れば、触れられないゲヘナへの攻撃手段がない。


 だがそこにこの金盥は、食い合わせが悪い。


 単体で見れば、規模や範囲や量はかなりの脅威、だがお陰で武器が手に入った。


 投げる、打つける、殴る。これでやりたい放題だ。


 オワリ、両腕を前に軽く挙げて広げた構え、両手に持つのが盥金であっても決まっている。


 ジャリ、と足の爪で金盥を削り、前方へ、ゲヘナへ向けてオワリが飛ぶ。


 対するゲヘナ、流石に立ち上がり、両手を広げて迎撃の体勢、その顔はもうにやけてなかった。


 加速、双方接近、間合いはあっという間に潰れていく。


 先に動いたのはオワリ、右の盥を投げつける。


 これにゲヘナ、両手を顔の前で交差させて防御の構え、当たって弾いてもその足は止まらない。


 そこへ二発目、左、投擲する。


 これも同じく交差の腕で受けるゲヘナ、だが金盥が当たって弾かれる前に、オワリが大きく踏み込んでいた。


 そして放たれる右の拳、狙いは金盥、ゲヘナの腕へ押し付けるように、挟み込むように、一撃、打ち込む。


『鎧通し』金属の壁を無視して衝撃を中へと伝える高等技術、本来は名の通り鎧を超える技なれど、遥かな高みに届きうるオワリの前では、金盥もまた同じ金属の壁だった。


 オワリにとっては奥義とも呼べない稚拙な技に、派手な炸裂音が鳴り響いた。


 これは、失敗だった。


 本来、この技は、打撃の力を無駄なく向こうへと流す技、音一つ鳴るだけの無駄はあっては力は霧散してしまう。


 失敗、だが鳴った音は、金属音ではなかった。


 そして刹那、金盥が爆ぜる。


 粉塵、飛び散る破片は、灰色だった。


「っっっんぁ」


 小さく、だけども艶かしい苦悶の吐息、甘やかすように抱きかかえるように引いた右拳、肘の付け根近くまで、石化していた。


 これが失敗の原因、粘り気のある金属と、粘らず割れる石とでは力の伝導の仕方が違う。少なくとも、石相手に鎧通しを打つことは、今のオワリでもできなかった。


 その結果があの爆発、そして部分石化、速度重視の姿勢をブラフとした強烈なカウンターだった。


「ゲヘへ」


 ゲヘナが笑う。


「オラの石化はすげぇだろぉ? ちょーーっと触っただぁけぇでぇ、こんだけいくだぁーよぉ」


 破片が落ちた後に現れた顔にはびっしりと石の破片が刺さっていた。加えて大きく開いた口からは、左上の前歯がへし折れてるのが見えた。


 だがそれを間抜けに見下せるほどの余裕はなくなった。


「さぁさ、残りの手足も石石しちゃってぇ、四つ足セクシーしてやるだぁよ」


 それは魅力的な提案だった。

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