vsルメリネス
私は悪くない。
私はオワリの要望通りの刀の形を取った。
切れ味は抜群、強度も一太刀ならば十分、試し切りで車を輪切りにしたこともある。
なのに、騎士の手首を飛ばせず、それどころか刀身が柄を残して砕け散ったのは、私のせいではない。
悪いとまでは言はないが、原因はオワリだろう。
恐怖で委縮、体格差に戸惑った、久しぶりだった、理由はいくらでも考えられるが、一番は空腹だろう。やはりむっちりと肉月が良い方がセクシーではある。
ともかく、オワリのカウンターは失敗した。
得られたのは二つの金属音、一方は私、もう一方は騎士の装甲、それらが鳴り終わる前に騎士に動かれた。
巨体であっても無理な体制、それでも蹴り上げられた足、大きすぎて右か左かもわからない真っ赤がオワリの背面に迫る。
迫る危機にこの身の多くを失った私は吠えることすらできない。
だけども杞憂、オワリは地を蹴り右外側へ、転がり飛び退き蹴りをかわす。
まさしく脱兎、逃げる兎が如き跳ね、跳び、逃げる。
バニーガールも悪くないと思いつつスクラップの車一台を跳び越し、二台目のボンネットの上に、そこで急停止した。
そして振り返ると同時に、我らの頭上を影が通過した。
ズゥン、地に響く振動、逃げようとした先を投げられた盾が壁となり塞いだ。
そうやすやすと逃がしてはくれないらしい。
どうする?
こういう時に知恵を示すのも私の役割、ここで一発バニーガール以上のセクシーアイディアで逆転すればキャー素敵―になれる。
……だがそれが思いつく前に騎士が動いていた。
深い踏み込みに合わせて薙ぐ剣、同じ背丈なら足を狙ったであろう斬撃は、オワリにしてみれば胴を狙った過剰殺傷だった。
防御など無意味、オワリは垂直に飛び上がる。
己の背丈を軽く飛び越える脚力、その足下を掠め、背後の車に引っかかり止まったところを更に蹴って、前方へ、騎士へと向かっていた。
破れかぶれ、苦し紛れの突撃、これこそ止めねばと思う私を、オワリは手放した。
自由落下、捨てられた。
呆然とする私の目の前で、オワリは加速する。
剣から手首、腕を蹴って二の腕を駆け上り、振り落とされる前に肩へ、体としては大きくとも足場としては心許ない騎士を踏破し、オワリは肩へ。
これに騎士の頭が左右に振られ、体も揺すられオワリを振り落そうと騎士が暴れる。足場だった腕を上げ、肩へ首の後ろへと追いかける。
踏ん張るオワリ、アスレチックに回避して、這いつくばって、そしてついに騎士の頭の上に立った。
揺れ続ける巨体の真上、なのにオワリは、まるで固まったかのように安定していた。
抜群のバランス感覚、優れた体幹、呼吸を整えすぼんだ口より静かに吐き出すと、右の拳を握り、前かがみに、肘を天に引き絞り、構えた。
これは知ってる。
格闘術の試し割り、レンガや瓦を素手で叩き割る大道芸、そのための構えがあああ見えない! せっかくの下からのアングル! ノーパン! 丸見え! なのに騎士頭じゃあだ伏せろかがめ首を取れクソが!
地面に落ちた私にかかる影が、拳を打ち込んだ。
……金属音は、なかった。
当然のように、打ち込まれた騎士の外装には、ヒビも凹みもない。
変わらず腕を上げ、上げ、上げ、そしてそのまま体を仰け反らせ、仰向けに傾いていく。
これに踏ん張り引いていく足、だけど上げ続けられる腕がよりのけぞらせて、不恰好なまま騎士は後退を続けた。
どうやら成功したらしい。
格闘術の奥義の一つ『鎧通し』金属の壁を無視して衝撃を中へと伝える高等技術、今し方放ったのはその三つ上らしい。
細かな原理は知らない。感覚的なものでデータに残せないものらしい。
だが結果は知っている。
拳により叩き込まれた衝撃は、衝突音含めた一切の無駄なく対象に、今回は騎士の内部に打ち込まれ、そして反響する。
まるでピンボールのように内を跳ね回り、そして最後には最も弱い部分に凝縮される。
鎧を着た人間ならば人体に、人体ならな脳みそに、最も弱く、柔らかいところに衝撃が集まり、圧縮され、爆発する。
『爆拳』と呼ばれる一撃必殺の奥義は、オワリの必殺技の一つではあるが右拳のみだったり特定の構え限定だったりと未完成だった。
それでも、中がどうなってるかはしらないが、巨大な騎士にも十二分に効果があったようだった。
ついぞ仰向けに倒れて動かなくなった騎士から飛び降りたオワリは、手早く私を拾い上げると、余韻も流して駆け出す。
まだ敵が残っている。逃げ去るのは正しい判断だった。
「俺、決めたよ」
走りながらオワリは私に語りかける。
「ただの綺麗な石だと思ってたけど、だけど前の男とか、あのでかいのとか、みんなこいつを狙ってるみたいだ」
そう言って私を持ってない左手で首の袋を握る。
「この、次元パズルとか、調べてみるよ」
宣言、意思表示、同時にオワリは、大きく蹴って廃墟へと飛び込んだ。
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