エメルデスからルメリネス

 これは、なかなかの見ものだった。


 ザイコ‐アーセナルのドローン対謎の巨大騎士団、遮蔽物の乏しい荒れ地にて、真っ向勝負だった。


 数有利はドローン、小粒ながらバリエーション豊かで、プログラム通り展開し弾幕を張る。


 これに騎士団、混乱しているのか足並みが乱れる。盾を構えるもの、バリアーのようなものを展開するの、どこからか光弾を発射するもの、対応はバラバラだった。


 一見すればドローン側有利、しかし実際は騎士団が勝っていた。


 降り注ぐ弾丸、落雷、ロケットハンマー、しかしそれら一切が、騎士たちの甲冑に傷一つ付けられてなかった。


 火薬が湿っていたのか、あるいは鎧が頑丈すぎたのか、ドローンの猛攻はただのにぎやかしにしかなっていなかった。


 それに気が付き始めた騎士団、攻勢に転じる。


 勇猛に剣を掲げ、それでも盾を構え、突撃する様は絵物語の中のようだった。


 そして絵物語同様、異形であるドローンたちが蹂躙されていく。


 あのサソリさえも、レーザーを弾かれ、ミサイルを無視され、ロケットハンマーを斬り飛ばされて、逆さに構えられた剣でぐっさぐっさと突き潰されていく。


 一方的な虐殺、に陥るかに見えてドローンが意地を見せる。


 唯一の有効打、六輪車両型鳥もち臼砲装備ドローンが奮闘していた。


 データによれば対車両用非殺傷虐殺兵器とある鳥もち弾、名の通り着弾と同時に中のゲルがばら撒かれ空気と反応、ガム状に固まり相手の動きを封じる。


 車両自体を破壊しないため非殺傷となっているが、これに直撃された人間はへばりつくガムに溺れて死ぬことになる。


 騎士は溺れなくとも張り付くことはあって、特に肘や膝と言った関節にへばりつかれた騎士は露骨に可動域が失われた。


 それを助けようと他の騎士が剣でガムに切り付けるが、斬ることも剥がすこともかなわず、ただ剣を失うだけだった。


 ドローンの逆襲、その前に勝ちきるか騎士団、盛り上がったところで、この喧噪からオワリは駆け抜け終わった。


 ドローンと騎士との足元で走る小さな人間の姿など取るに足らない。それでも律義に反応し、追いかけようとした騎士もいたが、背後からの砲撃に傷つかなくともバランスを崩し、追いかけるまでにはならなかった。


 やはりオワリ、幸運を持っている。


 ドローンと騎士の間抜けな潰し合いに乗じて、難なく高速道路まで戻れた。後はこのまま反対側に入り、廃墟に紛れれば逃げおおせられるだろう。


 食事は惜しいが、何、女の子は痩せっぽっちの方が可愛い。


 だけど息が切れてるのは可愛くない。どこかで隠れて休憩しないといけない。


「バウォ」


 優しく声をかけると、オワリは立ち止まった。


 少し乱れた呼吸、湿った肌、ほんのりと顔が赤くなっている。これはこれでセクシーだが、先を睨む目つきが気に入らない。


「バウァ」


「狗闘天、刀を」


 静かな要請、何でと問い返す前に、のそりとまた、新たな騎士が現れた。


 真っ赤っかだった。


 デザインや大きさは先ほどの騎士たちと似通っている。ただしこちらの方が、なんというか、落ち着きがあって、えらそうだった。


 そいつがシュルリと、わざわざ作ったであろう鞘から剣を引き抜き、盾と共に構える。


 ……一騎打ちの様相、逃げ場は乏しく、時間をかければ背後の喧騒がこちらに届く。


 戦うしかないらしい、そうオワリは覚悟したようだった。


 ならばそれに応えて力を与えるが私の役目、言葉に従い姿を変える。


 形は刀、鍔はなく、握りは細長く、片端の刃はオワリの片腕帆の長さ、もろ刃作りで限界まで薄く、柄頭に私のコアを置くことで重心を手元に、切断極振りの刀となった。


 オワリお気に入りの形態、手に馴染む。


 軽く素振り、それでそこにあったスクラップ車のサイドミラーを斬り飛ばせた。


 芸術的な切れ味、反動として刃こぼれボロボロとなるも、そこは私、すぐさま整えなおせる。死角はない。


 両手で握り、拳は額に、刃は上に、切っ先は前に、改めてオワリ、私を構える。


 これに恐れをなしたか、あるいは滅び去った騎士道か、真っ赤騎士が御大層に構える。


 左手の盾を前に、右手の剣を真横に、足は肩幅で、だけども前かがみに、ご丁寧にはるかに体格が劣るオワリへ、構えていた。


 ……そしてどちらも動かない。


 睨み合い、緊張の糸が張り詰めていく。


 先に動いた方が先に死ぬ、よくある状況、オワリにとっては懐かしい状況だろう。


 しみじみと思う中、流れた時は数瞬、合図はどこかの爆発だった。


 糸が切れる。


 先に動いたのは騎士、壁にしか見えない盾を内から外へと振るう。


 打撃としてははるかに遠い間合い、それでも押しのけられた空気が突風となってオワリを揺さぶる。


 かき乱される髪、巻き上がる砂塵、それでも構えを崩さないオワリへ、騎士は二の手の剣を放っていた。


 真っすぐ垂直、ぶ厚い刃を真上から、オワリの頭上へと、振り下ろす。


 これにやっと動くオワリ、重力に身を任せ落下、下への流れを前に流して加速、縮地の疾走、一気に懐へ、巨大な騎士の足元へと駆け込んだ。


 刹那に遅れて背後で爆発、アスファルトとスクラップが押しつぶされた。


 絶対の重量さ、それでも振り下ろした騎士の手は止まっている。これは、ねらい目だった。


 これを逃すオワリではない。飛び込んだ先でクルリと回り反転、優雅に私を持つ手を旋回し、全身を伸びやかに全身のばねを用いて斬り返した。


 飛び込み反転カウンター、本来ならば同サイズの相手の手首を跳ね上げる剣技、しかし体格差から伸びた間合い、埋めるに動きの大きさが必要だった。


 それがオワリを舞わせた。


 優美な、全身を用いた曲線美、躍動感を持たせて刹那の死闘に超越した美を刻み付ける。


 この美しさに、騎士は間に合わず、私の切っ先がその太い手首へと吸い込まれた。

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