vsエメルデス1
月が丸い夜、まだ形を残す高速道路の出入り口、ETCの機械の上、目的地を観察する。
出口の先、道路以外は全部土塊の広い荒野、そこにポツリと、さして広くない敷地の中にひしめくコンクリートの倉庫群、ザイコ-アーセナル、その周囲を走ったり飛び回ったりしてるドローンども、人間が滅ぶ前から続くシステムがここから一望できた。
多くが滅びた中でなお人がいた時代を色濃く残す施設群は。この世界から人類を滅ぼした一因だった。
一局集中からのネット通販、家にいながらお手軽お買い物、それも注文から決済、集積に運搬に、その前段階の商品の生産、運送、倉庫入れに管理、一切合切を全て自動化、ドローン化することにより効率化、低コスト化に成功した、とそこらの看板に誇らしげに書いてある。
その結果が若者の大量失業だった。
小売に関わる雇用のほとんどがドローンに奪われた。
稼ぐものがいなければ買うものもおらず、結果小売全体が失速、関連するわずかな人員もドローン制作方面も落ち込み、最終的には既得権益と年金もらってる世代だけが『人』となった。
……そして買い物する人間が居なくなった現在でも、商品は運び込まれ、保管され続けている。
自然の消えたこの世界で、オワリが食料を得ることができる数少ない場所だった。
当然安全ではない。
貧困から犯罪に走るのは当然で、それに対抗するのも当然、高い壁や厳重なカギなどはなんとかできるが、脅威はドローンだった。
一番目につくのが、巡回型ドローン、数多く、やたらと高感度なセンサーで、一度補足すると中央に控えている大型ドローンを呼び寄せる。
それらは警備とは程遠い殺戮機械だ。重火器装備、威嚇も警告も捕縛もなく、盗み出した荷物と無関係な隣人もろとも虐殺する。
最新から一世代前の最先端装備、それがたっぷりと飛び出してくる。
そいつらの相手は流石のオワリでも苦労する。
だから戦わず、こいつらを躱し、監視カメラの上を通って、中に入れたら、もう後はこちらのもの、六時間毎のイオンガス殺菌まで好き放題食べ放題ができる。
そのためのルートどり、重要なのは躱しやすいドローン探しだ。いかに優れた機械でもメンテと交換なしの経年劣化で故障する。そいつを見つけるのが安全への鍵だった。
そのための何気に大事な準備段階、だが、今のオワリは手に乗せた宝石にばかり目がいっていた。
掌で転がる輝きを、あの男は次元パズルと呼んでいた。
私は、正直これが何かは知らない。
オワリが話してくれたことには、武術を教えてくれた老人の一人が今際に託したらしい。
故人との繋がり、形見というやつだと、心の慰めになると、これまでは思っていた。
しかし、これには何かがあるらしい。
それも、命を狙われるような、何かだ。
「バウウウ」
ならば捨ててしまおうとオワリに提案する。
「……わかってる。今は飯だ」
そう言って眩しい笑顔を見せる。可愛い。
見とれてる間に宝石を皮袋にしまうと、スクリと立ち上がった。
……だが踏み出さない。
代わりに表情が、どんどんと険しいものになっていく。
これは知ってる。お腹が痛くなったのだ。
やはりあの男の残した未知の食料に手を付けたのは間違いだったのだ。さっさとどこかで吐いて出してスッキリして、ぐったりしたお腹をサスサスさせてもらおう。
そう言う前に、オワリは振り返る。
睨むのは高速道路の反対側、こちらと違ってまだビルや看板などの廃墟の残る方、じっと見つめる。
そして、遅れてわたしにもわかった。
それは振動、地震とも異なる揺れ、それが一定間隔で、しかも段々と強くなっている。
まるで、何か巨大なものが歩いて迫っているような感じ、猛烈に嫌な予感がする。
「バウウウ」
警戒の声、だけどオワリは逃げず、振動の方へと向き直った。
異常事態だ。普段なら、見知らぬ状況ならば撤退を選ぶ慎重賢いオワリが、止まっている。これは、まさかとは思うが、あの男の再来を期待しているのではないか?
訳のわからない先に人間の男がいたから、同じような状況で同じ期待をしてしまう。
ギャンブラーの錯覚とも呼ばれる愚かな思考、そこまで落ちてしまったのかと、私は虚をつかれた思いだった。
そして時間切れとなった。
もはや振動は音が加わるほどに近く、同時に廃墟が崩れ、踏み潰される音まで聞こえてくる。
逃げ隠れするには若干遅れたタイミング、最後の廃墟を押しのけて現れたのは、まぎれもない、巨人だった。
二本の足、二本の腕、ライトグリーンの装甲、背丈は10メートルに近く、なんの冗談か剣と盾を持っていた。
まるで騎士のような姿形、合理性からもかけ離れた、古代のロマンが実体化して歩いているような巨体が、高速道路の反対側より、すくりと現れたのだった。
あんなドローン、データにない。それ以前に、これほどまでに巨大な機械での二足歩行は、この世界では建造されてないはずだ。
ならばこいつも、あの男と同じジャンルだろう。
「バホオオオオオ」
警戒の声をあげる私を、オワリの手がそっと制した。
そして見上げる眼差しは、輝いていた。
しまった。オワリはまだ子供、つまり巨大ロボットは、大好物だったのだ。
でかい、強い、カッコいい。それも剣持ち、欠点はたてて持ってることだけ、自分を男の子と思ってるオワリにはエロ本並みの興味津々なのだろう。こうなっては、言葉は届かないだろう。
その騎士は、そのオワリの期待に応えるように剣を高々と掲げた。
そして躊躇なく、私とオワリめがけて振り下ろしてきた。
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