vsアイン・ダイン1
昼、眩しい太陽、輝く下で、廃墟から廃墟へ、オワリは風のように跳び移る。
窓枠を蹴り、電柱を跳ね、電線を伝って、時折ドローンを蹴り落として、次の窓枠へ、その体重を感じさせない疾駆は、可憐だ。
いつものオワリの道筋、ショートカットはこの世界では効率的ではある。
地上は混沌だ。
道路公団のため、非効率的に延々と作られ、伸ばされ、入り組んだ道、そこには瓦礫に廃車、肝心のアスファルトは割れ、マンホールが外れてて、唯一まともな部分にゾンビが密集し、水溜りまでもある。
それらを飛び越え、道を無視して最短距離を行くのは効率的だし確実でもある。
だが私は不満だ。
滞空時間は無防備の隙、高速で移動してるとはいえ方向転換はできず、高さは目立つ。
それに着地するのは小さな点、そもそもから足を乗せる場所ではないし、だから不安定で危なく、それに汚い。
それでも、危なくなれば私が体を伸ばし、盾なりハシゴなりでカバーできる。
だがそれでも姿を完全に隠せるわけではない。
特に真下、飛び越えた股の下、大きく開いた足の間、パンツを履いてないオワリのデリケートゾーン、丸見えなのだ。
私は不満だった。
私が見えない部分を、ゾンビ如きが、見えるかもしれない幸運を、有しているのを、看破できなかった。
……彼女にはもっと女性らしくとも思うが、世界に一人きりならば、この世は彼女の部屋のようなもの、どのような格好をしていても文句を言われる筋合いはない、のだろう。
思う私の気も知らず、オワリは新たなビルに入る。
そこそこ大きなコンクリートの建築物、いわゆる会社の跡地、入ったのはオフィスの一角、デスクに椅子に電話に書棚に書類、ホコリを被っている。壁には何かのグラフ、床に転がるのはボールペンだろうか。
ドローンを飛ばす技術を持ちながらここにはコンピュータのかけらもない。オワリは気付いてないだろうが、壁のコンセントは電源と電話線のみ、ルター系統も設置されていない。
全時代的な仕事場、それはここだけでなく、多くのオフィスはここと同じような風景だった。
最新技術を用いて仕事場のアップデートを、と全時代の人間は考えなかった。
むしろアップデートについていけなくなる旧来の人々を保護するため、規制していた節まである。
だから滅びたのだろう。
今は関係ない話、それよりも早く移動すべきだろう。これまでの経験で、ここに食料はないがゾンビは多いと知っている。危険は避けるべきだ。
「バァオ」
「わかってるよ。でも突っ切った方が速いだろ?」
応えながらオワリは奥へと足を踏み入れる。
割れた窓から日が入り明るい廊下もまた同じよう、邪魔な観賞植物、通路の半分を埋めるソファー、悪臭を漂わせるタバコ捨てバケツ、奥に何かの自動販売機が見えるが、取り出し口から溢れてるカビが、中の状態を教えていた。
得るもののない廃墟を進むとエレベーターと階段に、当然エレベーターは動いてない。階段はいわゆる直角に曲がる螺旋型、金属の手すりに、それだけで、ポスターも何もない綺麗なままで、おそらく会社の時から誰にも使われなかったのだろう。
その前を横切る。
「クソが!」
怒声、上から、それに何かを蹴る音、階段に響いた。
これにオワリはガバリと反応した。
「人の声、だよね?」
その声は、希望が溢れてた。
……この世界に人間は彼女だけだ。
少なくとも私の知る限り、他は死に絶えている。
残酷な現実、だがオワリは、それを完全に受け入れていない。
まだどこかに、きっとどこかに、仲間が生き残っている。
そう、夢見ていた。
それにこの声は、抗えるわけがなかった。
「男みたいだけど、でも人だ。だよね?」
返事を待たずに登り始めてる。
これは、よくない兆候だった。
「バフゥ」
「大丈夫、見てくるだけだから」
そう言いながら、ゆるい段差を三歩でのハイペースで駆け上っていく。
これはもう、良くない。
以前もあった。だけどどれも外れだった。
壊れたスピーカー、ただのマネキン、人に見えて人でなかったことには事欠かない。
だが、それでもいい方だ。
悪いのは悪意がある場合だった。
それを伝える前に四階ほど登っていた。止めねば。
思う矢先、階段、上、角、これから足を乗せる段に、何か、黒い穴があった。
大きさ3センチほど、それだけの黒、なのに猛烈な嫌な予感が雷のように走った。
変身は、間に合わなかった。
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