一方こちらでは……

side:西園寺 遥香


私は蓮を連れて人のいなさそうな所を探して歩く。正直、本当は蓮じゃなくて先生を連れて人のいない場所でイチャイチャしたいところだが、彼女に一言言わなくてはいけない事が出来てしまったから仕方ない。


「ねぇ?遥香。ここどう考えても観光スポットから外れてるんだけど……」


私が観光スポットとは別の場所に行ってる事に気づき、若干不安そうな声色で私にそう尋ねる蓮。うん。まぁ、この辺りでいいかしら。人の気配も感じられないし……私は軽く周囲を確認して蓮の方を振り向いた。


「蓮。あなた。先生に何を言ったんですか?」


私が単刀直入にそう尋ねたら、蓮は驚いて口ごもってしまった。私が受付で対応している時、2人で抜け出した辺りから先生の様子がおかしい事には気づいていた。だから、蓮が何か言ったのは明白だったので、私は率直に蓮に聞いてみることにした。


「……だって……あの女……遥香の事を好きでも何でもないのに遥香を独占してるから……」


蓮が若干悔しさを滲ませた表情でそう答えた。あぁ、なるほど。そういう事ですか。蓮の一言で私は何があったのかを察しました。


「やれやれ……当たり前じゃないですか。のは当然の話なんですから」


「へっ……?はぁ……?それってどういう……」


あら?私が誰と結婚したかは聞いていても、何故結婚するに至ったのかの経緯までは聞いてないみたいですね。


「私は先生を愛してます。先生が欲しかった。だから、先生を手に入れる為に一芝居をうったんですよ」


「えっ……?何……?それ……?」


私の言葉に動揺している蓮に、私は懇切丁寧に事情を説明した。


私は数年前に先生と出会ってから先生に一目惚れしたこと


そこから、先生を手に入れる為に色々計画を練っていたこと


先生を手に入れる為には、多少強引にでも関係をもつ必要があると判断し、酒の勢いで過ちを犯したという風にして、私との結婚を迫ったこと


それら全てを蓮に説明したら、蓮は酷く動揺した表情を浮かべていた。


「そんな……!?嘘だ……!?遥香の方があの女に惚れてたなんて……!?てっきり、遥香の親父さんが遥香に悪い虫がつかない為の対策だと……!?」


やれやれ……私のお父様を何だと思ってるのでしょう。それに、例え対策だろうと好意もない相手に私が1カ月もの間押掛け女房みたいなマネをするはずがないのに……


「私は先生が好きです。愛してます。こんな卑劣な手段をとってでも婚姻関係を結ぼうとする程に。私に恋してる貴女なら、私の言葉が嘘偽りじゃないって分かりますよね?」


私の言葉を受けて蓮は押し黙る。蓮も私と同じく狂おしい程に恋してるから、私の言葉が本当なんだと理解したのだろう。


「貴女が私を好きでいるのは構いません。私も恋を知りましたからね。その感情がなかなか消えないものだとは理解しています。ただ……」


私は蓮を見つめると、何故か蓮は怯えるように一歩後ずさった。


「先生を傷つけるのだけは許しませんよ」


私は蓮にそれだけ忠告し、私はすぐに宿へと戻るべく足早に蓮の横を通り過ぎて行った。


私が宿へと戻る道中、蓮は私を追うようなマネをしなかった……

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