真由美の想いは……

正直、あれからどうやって部屋まで行ったのかよく覚えていない。

呆然と立ち尽くす私に声をかけてくれたのは西園寺さんだったろうか?藤村君だったろうか?それすら思い出せないまま、私は気づけば案内されたと思われる部屋にいた感じだ。


「先生。せっかくですから温泉に入る前にここの温泉街も観光しませんか?」


西園寺さんが笑顔で私に尋ねてくる。何故だろう……今西園寺さんのこの笑顔に胸が痛む……


「ご……ごめんなさい……今ちょっと体調が良くなくて……」


「えっ!?大丈夫ですか!?先生!?」


今度は心配そうに尋ねてくる西園寺さん。再び私の胸の奥が締めつけられるような痛みを感じる。


「だ……!大丈夫よ……!?少し休めばきっと良くなるから……!だから……西園寺さんは佐藤君達と観光してきてちょうだい!ね?」


佐藤君の名前を出してあからさまに不機嫌な顔をした西園寺さん。けど、もう半分は私の事を本当に心配してくれている。それがまた更に私の痛みを激しくさせる。


「まぁまぁ、遥香。ここは本人の言う通りにしてあげたら?休むなら一人で休む方が気が休まるだろうしね」


佐藤君がそう西園寺さんに声をかけたら、西園寺さんはチラッと佐藤君を見て、すぐに私の方を振り向いて溜息をついた。


「……そうですね。私はこの周辺の観光スポットも確認しなければいけませんし……体調の悪い先生に無理はさせられませんからね……先生。ゆっくり休んでくださいね」


「え……えぇ……そうするわ……」


私がそんな返事を返すと、西園寺さんはニッコリ笑って退室した。その西園寺さんの後を慌てて追うように佐藤君も部屋を出て行った。


そして、気がつけば部屋には私一人になっていた。そういえば藤村君と柊さんがいなかったわね……あの二人は恋人同士と聞いていたから、すぐに二人でデートに出かけたのかしら?


……恋人……か……


私と西園寺さんは、私の過ちというのもあって婚姻関係を結んでいる。けれど、恋人のようにお互い愛し合っているかと聞かれたら違うと答えるだろう。私の西園寺さんに対する想いは、一人の生徒としての愛情はもちろんあるけど、一人の女性としての愛情は……少なくとも佐藤君のようなものはない。

だけど、一ヶ月程一緒に生活してきて、彼女の意外な面を色々と知る事で、生徒に対する愛情よりは大きくなってる気はする。けど、それはきっと佐藤君の想いよりは絶対に弱い。むしろ、あれ程強い想いに敵うとも思えない。


早く別れを言って、佐藤君みたいな子に西園寺さんを託した方がいい。頭の中でもう一人の私が訴える。


けど、そんな事をしたらまた独りぼっちの生活に戻ってしまう。もう一人は嫌だ。と、頭の中で別のもう一人の私が訴えかける。


「最低だ……私……」


自分のせいで西園寺さんの輝かしい将来を奪ったのに、一人の生活に戻りたくなくて西園寺さんを手放したくない自分の存在がいる事に嫌気がさす。


「……温泉……入ろう……」


頭の中のごちゃごちゃをどうにかしたくて、私は立ち上がり、部屋にある浴衣に着替えて、この温泉宿にある大浴場の温泉に向かう事にした。

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