※ここから再び高橋 真由美に戻ります

あの佐藤君とのすったもんだの出来事から数日後、結局佐藤君は……


「まだ僕は遥香の事を諦めた訳じゃないからなッ!!絶対に遥香をあんたから取り戻してみせるからなッ!!」


と、「ズビシッ!!」というような効果音が聞こえてきそうな程、私を指差してそう宣言した。そして、その宣言通り佐藤君は


「昼食一緒にさせてもらうよ。構わないよね」


どうやってこの場所を知ったのか、藤村君を連れて私達が昼ご飯をよく食べている場所に現れるようになった。藤村君はすごく申し訳なさそうというか、完全に西園寺さんに怯えていたけれど、佐藤君は構うことなく西園寺さんに話しかけていた。

最初こそは出て行くように言っていた西園寺さんだったが、どれだけ言っても聞かない佐藤君に諦めたのかもう何も言わなくなり、佐藤君が話しかけてもひたすら無視していた。が、確実に佐藤君が昼ご飯の場所に現れるようになって西園寺さんの機嫌が最悪になっていた。


「はぁ……どこか遠い所に行きたいです……」


と、夕飯時に遠くを見つめて溜息をつくほどである。そんな気持ちが積もり積もったのかとうとう西園寺さんはこんな事を口走った。



「先生。一緒に旅行に行きましょう」


あぁ……とうとう我慢出来ずにそんな事を……


「もうすぐゴールデンウィークですよね。先生も休みですよね?だったら私と一緒に旅行に行きませんか?」


あっ、そういう話だったか……私の思い違いだったみたいね……そういえばもうすぐゴールデンウィークか……以前の私はゴールデンウィークをほぼ寝て過ごすという無駄な時間を費やしていたなぁ〜……。いや、日頃の仕事のストレスから解放されるのが長い休みの使い方よ。決して、出かけてもカップルがイチャイチャする現場に遭遇して寂しい気持ちになるからとかじゃないわよ。


「旅行かぁ〜……う〜ん……行きたいのはやまやまなんだけど……」


「行き先は◯◯県の温泉街で有名な所です」


ゴールデンウィークをいつも通り過ごしたいと思った私は、西園寺さんの提案をやんわりと断わろとしたのだけど、西園寺さんが微笑んで言った言葉に私はものすごく反応してしまった。


「まぁ、旅行と言いましたが、その目的は西園寺グループが資金提供してる温泉宿の感想を先生からいただきたいのです」


西園寺さん曰く、◯◯県の温泉街に西園寺グループが資金提供してる温泉宿があるのだが、その温泉宿を利用した感想が欲しいという事らしい。要するに視察のようなものらしいのだが、西園寺グループとは全く関わりのない第三者の視点の感想もあれば欲しいというのがあり、西園寺さんと結婚してまだ日が浅く、西園寺グループとの関わりはまだ薄い私に白羽の矢が立ったのである。


「そ……そっか……そういう話なら仕方ないわね。私なんかでよければ協力させてもらうわ」


「はい。よろしくお願いします。先生」


私は必死で何でもない風な感じを装っているけど、頰がヒクヒクと動いているのが自分でもよく分かった。

だって……仕方ないじゃない!温泉よ!温泉!日々の疲れを癒したいと思って一度は行ってみたいと思いながらも、結局その疲れが足を伸ばせずにいたけど、ついに合法的とも言える理由で温泉に入れるのよ!楽しみなんてもんじゃないわ!もう生きてて良かったって感じよ!あっ、でもそういえば……


「◯◯県までどうやって移動するの?やっぱり電車?」


◯◯県はここからかなり遠い。もし電車移動ならゴールデンウィーク時期だし早く予約とかしておかなきゃいけないと思うんだけど……


「ご心配なく。移動手段は考えてありますわ」


西園寺さんはニッコリ笑ってそう言った。西園寺さんがそう言うなら大丈夫ね。私は安心してウキウキしながらゴールデンウィークが来るのを待った……

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