当然この人にも注目がいっている……
私は先生方からの注目や祝福の声から逃れる為、定例会議が終わってすぐに自分が受け持つクラスの教室に向かった。正直、まだチャイムが鳴るには早いけれど、あの空気感に耐えられなくなった私は逃げるように職員室を出て行ったのである。
そして、私は3年A組の教室の前までやって来ると、教室にはある一ヶ所に集中するように人集りが出来ていた。私は何となく嫌な予感がして、こっそりと気配を殺しながら中の様子を伺ってみると……
「西園寺さん!結婚おめでとう!!」
クラスメイトが西園寺さんにそう言って祝福の言葉を述べていた。いや、祝福の言葉を述べてるのは女子生徒と一部男子生徒だけだ。大半の男子生徒は涙を流して天を仰いでいた。うん。やっぱりと言うか……当然というか……私と違って完璧美少女である西園寺さんが結婚となったら注目されないはずがないよね……
「ありがとうございます。皆様」
西園寺さんはクラスメイトの祝福の言葉に、とても綺麗な笑顔で返事をする。
「ねぇ!西園寺さん!お相手ってどんな人なの!?」
噂好きの女子生徒が身を乗り出して西園寺にそう質問した。その質問に、私が質問されてる訳じゃないのにドキッとしてしまう。
「申し訳ありません。お相手の方については公表出来ないので……」
しかし、そこはやはり西園寺さん。しっかりと丁寧にそう返した。私が同じ質問されたらしどろもどろになっていたかもしれない……
「えぇ〜!だったら!せめて!どんな人かだけでも!性格とか!見た目だけでもいいからさぁ〜!」
それでも尚食い下がる女子生徒に、西園寺さんは「そうですね〜」と指を顎にあてて考える仕草をし
「とても可愛らしい素敵な方ですかね」
と、誰をも魅了する笑顔でそう言った。その言葉にクラス全体にどよめきが走る。
「やっぱり……あの笑顔はマジで結婚相手がいるんだ……」
とか
「可愛い系かぁ〜。もしかして年下かなぁ〜?」
西園寺さんの結婚に改めてショックを受けたり、西園寺さんの結婚相手を推測したりするなどと言った反応が多数を占め、クラス全体が西園寺さんの話題で盛り上がっていた。
すいません。結婚相手は年下どころか、29年間彼氏なしの「行き遅れババァ」と呼ばれていた私です。それと、男子生徒の皆の夢を私なんかが壊して本当にごめんなさい……
キ〜ン!コ〜ン!カ〜ン!コ〜ン!
私がそんな風に罪悪感で胸がいっぱいになっている時、朝のHR開始のチャイムが鳴った。あれだけ騒がしかった生徒達も、慌てて自分の席に座り始める。とりあえず、私も気持ちを切り替えて教室に入る。
「はい。皆さん。おはようございます。それじゃあ、出欠の確認をとりますね」
私はいつものように朝のHRを開始した。
しかし、私は分かっていなかった。結婚して注目の的になってるのが西園寺さんだけじゃないという事実に……
私は、朝のHR終了後に生徒達から結婚へついての質問の集中砲火を浴びせられた。西園寺さんが折を見て助け船を出してくれたおかげで何とか逃れる事は出来たが、まさか自分の受け持つクラスでも注目されるなんて……私はもうヘトヘトになりながら職員室に戻った。
そう言えば、田中君が
「あぁ……高橋先生……狙っていたのに……」
と言って泣いてる気がしたのだけど……きっと気のせいね。田中君が私をなんてあるはずないのだから……
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