新たな決意を固めて……
はぁ〜……つ……疲れた……正直、こんなにも精神的に疲れたのは初めてかも……あっ、いや……酒の勢いで西園寺さんに手を出したのが発覚したあの日が一番精神的に疲れたかも……祝福の言葉を貰ったのに、その度に胸が痛んでいたしね……
私は精神的にヘトヘトになりながらも、マンションの部屋の扉の前にやって来て、ふと、鼻腔を刺激するいい匂いが漂ってくるのに気づく。
「これって……シチューの匂い……?」
手間がかかるのであまり作った事がなく、最近は外食でしか口にしなかったシチューの匂いに思わず足が止まる。この匂いはどう考えても私の部屋から漂ってきている。そうなると、誰かが私の部屋でシチューを作っている事になるが
「西園寺さんしかいないんだよね……」
この部屋の合鍵を持っているとしたら、今や私の両親か西園寺さんだけだ。私の両親はもう29歳になった娘の面倒なんかみないと宣言していたから、必然的にこの匂いを作ってくれているのは西園寺さんという事になる。
「そっか……これが……1人じゃないって事か……」
いつも帰ってくる部屋は、暗くて何の匂いも漂ってこない面白みがない部屋。けど、今は部屋に明かりがついていて、美味しそうなシチューの香りが……
「って!?いけない!?いけない!?私!この生活に喜びを見出したら絶対にダメよ!!」
もう1人じゃないという事に喜びそうになった私を、振り払うように私は首を横にブンブン振る。そう。私はこの生活に満足してはいけないのだ。私は過ちを犯したが故に、西園寺さんの素敵な人と出会って結婚するという道を奪ってしまったのだ。
「そう。私はあくまで、西園寺さんが本当に素敵な人に出会うまでの代理よ。代理。だから、西園寺さんの為にも、早く西園寺にお似合いの素敵な人を私の方でも探していかなくっちゃ!」
私は新たな決意を固めて、それをしっかりと言葉にする事で自分を戒めた。そして、軽く深呼吸していつものように部屋の扉を開ける。
「ただいま」
正直、この言葉を言ったのは何年ぶりぐらいだろうか?そんな考えがチラッと頭をよぎる。
「おかえりなさいませ。先生♡ご飯にします?お風呂にします?それとも……わ♡た♡し♡」
…………帰宅した私を、西園寺さんは何故か朝着けていたエプロンだけを着け、他は何も身につけていないいわゆる裸エプロンスタイルで私を出迎えた。しかも、お決まりのあのセリフ付きで……
決意を固めたばっかりなのに、早速頭が痛くなった私だった……
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