いつもと同じ朝だから全て夢かと思いました……

意外に響くスズメの鳴き声で私の意識はゆっくりと覚醒していく。見上げればいつもと変わらぬ見慣れた私のマンションの部屋の天井。

うん。やっぱりアレは夢だったんだよね。そうだよね。私がお酒の勢いで教え子(しかも超絶美少女)に手を出して、その責任をとる為に結婚とか、そんなまるでアニメのラブコメみたいなような展開が私みたいな未だに29歳独身で、「行き遅れババァ」って呼ばれてる私にある訳ないわよねぇ〜!


とりあえず、私はいつものように朝食を済ませる為に台所へ向かうと


「あっ、先生!おはようございます!今朝食の支度が出来ましたよ!」



台所には、制服姿に可愛らしいエプロンを着けた西園寺さんがいて、私を確認するとそれはもう誰をも魅了する笑みを浮かべていた。



うん。やっぱり夢じゃなかったみたい。私はついに独身という称号を卒業したようである。ただ、それは自分が酒の勢いで犯した過ちによる、若干不名誉な事でなのだが……





「コレ……全部西園寺さんが……?」


「はい!先生のお口に合えば嬉しいのですが……」


西園寺さんが作ってくれた朝食は、和食のザ・定番なメニューだった。その食欲誘ういい香りが私の鼻腔を刺激するが、私には一つだけ気になる事が……


「あの……私の冷蔵庫……そんなに食材入ってないはずじゃ……」


私も一応は簡単な料理なら出来る。……本当に出来るよ?けど……その……やっぱり仕事とかしてると、自炊するのが面倒になって、ついついインスタントや冷凍食品に頼っちゃうって言うかね……


「はい。ですから、うちに余ってる食材を持ってきました」


西園寺さん家から持ってきた食材……それってものすごくお高いのでは……?しかし、西園寺さんはそんな私の考えを見透かしたかのように首を横に振った。


「高級な食材は入ってませんよ。西園寺家は、いかなる場合にも備えよ。が、モットーですから。基本無駄な出費などはしないようにしてますよ。高級食材を使うのは、祝い事とかそういう場合のみです」


意外な西園寺家の仕来りをまた知ってしまった。しかし……全ての料理の数々が眩しく輝いて見えるのは気のせいだろうか……いや、単純に私が作る料理より見栄えがいいからそう見えるだけなんだろうなぁ〜……


とりあえず、私は「いただきます」と言って西園寺さんが作ってくれた料理を口に運ぶ。


「……美味しい」


「本当ですか!?良かったぁ〜!!」


私の言葉に嬉しそうにはしゃぐ西園寺さん。しかし……本当にどれも美味しい……この焼き魚なんかちょうどいい塩加減だし、味噌汁も薄くも濃くもない味噌の加減が染み渡る……正直、朝からこんな贅沢なご飯を味わったのは、数年前に旅行で朝ホテルで朝食をとって以来かもしれない。


「西園寺さんって料理まで出来たのね」


「出来るって程ではありませんよ。和食はそれなりに得意としてますが、洋と中は普通に出来る程度ですし、イタリアやフランス料理だと流石にレシピを見ないと作れませんね」


うん。いや、十分過ぎる程出来てます。私なんて、和・洋・中の本当に初歩中の初歩の物しか作れないし……作れたとしても、この西園寺さんの味に勝てる気がしないし……


ふと、私は視線を机の上にある新聞紙に向けた。私は新聞紙はとるようにしている。新聞紙は情報の収集だけでなく、色んな事にも使えるからね。そんな新聞紙の今朝の一面には……


西園寺さいおんじ 遥香はるか電撃結婚発表!?』


と、デカデカと大きく書かれていた。ちなみに、相手は一般の方という以外一切西園寺グループからの公表はないとも書かれていた。きっと、大半の人は一般の男性が西園寺さんと夢の結婚を?と思ってるかもしれない。ごめんなさい……結婚相手は「行き遅れババァ」と言われてる私です。夢を壊して本当にごめんなさい……


しかし、やはりというか……西園寺さんはこうやって新聞にデカデカと載ってしまうほどの有名人なんだなぁ〜と改めて思い知らされた。

西園寺さんは、西園寺グループが手がけた商品の宣伝の為に、モデルの真似事や、役者、果ては歌まで歌ったらしい。それら全てが絶賛の嵐で、各芸能事務所からスカウトが来たが、西園寺さんは全て断ったらしい。本人曰く


「あくまで家の為にやった事で、芸能界には特に興味がありませんので」


との事である。そんな、彼女だからこそ、すでに日本……いや、西園寺グループの名も考えれば、世界からも有名な人なので、こうして、新聞に載るのも不思議ではない。1番の不思議は、そんな人がこんな「行き遅れババァ」と呼ばれている私を結婚相手として選んだ事ぐらいだろう。正直、今でも夢じゃないかと思ってます。はい。


「あっ!そうだ!先生。左手をいいですか?」


「えっ?何?」


疑問に思いつつも、私は普通に西園寺さんに左手を差し出すと、西園寺さんは慣れた手つきで私の左手の薬指に指輪をはめる。それは、まるで王子様がお姫様の指に指輪をはめるように優雅に。いや、まぁ、現実は超絶お姫様のような見た目の人が、「行き遅れババァ」と呼ばれる私の指に指輪をはめてるという、なんとも形容しがたい光景なんだけど……


「えっ……コレって……?」


「もちろん。結婚指輪です。学校側にもすでに先生の結婚の話が伝わってるはずですが、相手を公表してない為、信じない人がいるかもしれません。ですので、それを証明する為の……いわば虫除けみたいな物でしょうか」


いやいやいや……!絶対市販の虫除けとかよりも数百倍は高そうな物だから!?けど、こんな指輪をはめてもきっと信じない人がいそうなのよねぇ〜。主に、あの教頭とか……


私は内心で重たい溜息をつきつつ、西園寺さんが作ってくれた朝食を食べ終わり、「食器は洗っておきますので、先生は先に出勤なさってくださいね」という西園寺さんの言葉に完全に甘えてしまい、私は西園寺に渡す事ないと思っていた合鍵を渡して出勤した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る