完璧美少女は接待まで上手い

そのアルバイト店員らしき女性は、長い髪を纏めて三角巾で隠しているが、間違いなく西園寺 遥香その人である。しかし、とうの西園寺さんは特に慌てた様子を見せず


「あら?誤魔化せるかと思っていましたけど無理でしたね。流石は先生です」


と、誰もが見惚れるあの笑顔でそう言ったが、流石の私もこの状況で見惚れて呆然となる訳がなく……


「ちょっ!?西園寺さん!?これは一体……」


「まぁまぁ、先生。全てお話させていただきますので、まずは落ち着いて私の話を聞いてくださいますか」


西園寺さんはそう言って微笑みながら、私の向かい側の席に座った。「高嶺の花」「学園のマドンナ」と呼ばれる彼女と、29歳独身で「行き遅れのババァ」と呼ばれる私。そんな2人が向かい合って居酒屋の席で座ってるのを見たら、学校の人が見たらビックリするだろうなぁ〜とほんの僅かに思いながら、私は西園寺さんの話に耳を傾けた。



「……つまり、ここでアルバイトしてるのも西園寺家の仕来り?のようなものって事?」


「はい。その通りです。先生」


西園寺さんの話を要約すると、西園寺さん家の両親は高校時代にあらゆる種類のバイトをしたらしい。そのバイト経験を生かして今の「西園寺グループ」を築いたので、自分の子供達にも同じように、あらゆる経験をしてほしいと願い、高校生になったらバイトを沢山しなさいと両親から言われているという。


「けど……だからって……何で居酒屋のバイトなんか……」


「一年生の時からバイトを経験させていただいて、やはり私は人と接する機会の多い接客業が好きなんだと自覚しましたので、せっかくだから他にも色んな人と出会ってみたいと思い、18になってある程度夜遅くまでバイトも可能になりましたから、この居酒屋を選んだのです」


なるほど……流石は西園寺さん。理由がしっかりしてる……確かに、西園寺さんは四月が誕生日だと聞いていたので、年齢は今年18歳になってるはずだ。けど……だからって……


「何も居酒屋を選ばなくても……」


居酒屋の客はだいたいが酔っ払いである。そんな輩の相手を西園寺さんにさせるのは流石にいかがなものかと思うのだが……

そんな私の考えを見透かしてるかのように、西園寺さんはクスリと笑い


「大丈夫ですわ。先生。このお店は西園寺グループの系列店ですもの」


「えっ!?そうなの!!?」


「真由美ちゃん。前にも言った事あっただろう……」


私が驚いてそう声を張り上げると、私が注文した品を持ってきた店主が、呆れたような溜息をついて、注文した品をテーブルの上に置いた。

あぁ……そういえば前に聞いた覚えがあるような……自分には関係ない話だと完璧に忘れてた……そっか……でも、「西園寺グループ」の系列店なら安心か……西園寺さんに何かすれば、あの「西園寺グループ」が動く訳だし……

それにしても……西園寺さんも大変だなぁ〜……家はお金持ちだからバイトする必要がないはずなのに、家の仕来りで高校でバイト漬けの日々を送って、それでいて学生らしくちゃんと勉学にも励んでて……私には到底マネ出来ないな……私の高校時代は、将来教師を目指すべく勉学にのみ集中していたし……

あれ?そういえば……高校時代と言えば……私の同級生と一個上の先輩の兄弟も、西園寺さんと同じくバイト三昧の日々ながら、成績優秀だったっけ……しかも、2人も西園寺さんと同じくお金持ちの家の子だったような……あれ?私……何か大切な事を忘れてる気が……


「先生。とりあえず一杯どうぞ」


私が大切な何かを思い出そうとしていると、西園寺さんが微笑みながら私のコップにビールを注いでくれる。その注がれたビールはいわゆる見事な黄金比率で注がれていた。なんだろう……完璧美少女はビールの注ぎ方まで完璧なんだろうか……


「いや……でも……流石に……」


生徒の手前、お酒をグビグビ飲む訳にはいかず戸惑う私。


「先生。私の事なら気にしないで。冷めてしまったらせっかくのビールやお魚も台無しになってしまいますよ」


西園寺さんは笑顔でそう言った。その笑顔と、ちゃんと黄金比率で注がれたビールの誘惑に負けた私は……




「29歳で独身の何が悪いのよおぉ〜ーーーーーーーー!!!!?」


教師であるのを完全に忘れ、完全に酔っ払いの仲間入りをしてしまった。これで、こんな私の姿に西園寺さんがドン引きしてくれるなら、私も途中で飲むのをやめたかもしれないけれど……


「大丈夫ですよ。先生は何も悪くありませんわ。先生の魅力に気づかない人達が悪いのですから」


と、微笑みながら、私の事を受け入れてくれるようにそう言ってくれて、しかも、私のコップが空になったらすぐにまた見事な黄金比率で注いでくれる為、私は今までにないぐらい気持ち良くお酒を飲めていた。アレだ。キャバクラで女性にチヤホヤされながら飲む酒が美味いというおじさん達の気持ちが、今の私ならよく分かるかもしれない……


「うぅ……!ひっく……!私だって……!私だって……!女なんだから……!綺麗なウェディングドレスを着て結婚したいに決まって……!!」


完全に酔いが回った私は、意識が朦朧とし始める。元々、お酒はそんなに強い方じゃないので、なるべく沢山は飲まないようにしてたんだけど、西園寺さんがあまりに上手く接待してくれるから、私はついつい甘えて飲みすぎてしまった……明日が土曜日で仕事が休みで良かったなぁ〜……と、ぼんやりとそんな事を考える私は自分でも真面目過ぎるなぁ〜と思ってしまった。


「大丈夫ですよ。先生。その願いも、私が必ず叶えて差し上げますから。だから、今はゆっくりとお休みください」


西園寺さんがそんな事を言ったような気がするが、私の意識は完全に途絶え、私は完全に寝落ちしてしまった……



翌朝目覚めた時、とんでもない出来事が起きるとも知らずに……

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