全てを兼ね備えた完璧美少女

1人の女子生徒の一声だけでその場の喧騒が一瞬で静まりかえった。まぁ、それもそのはずだろう。何故なら、その一声を発したのは西園寺さいおんじ 遥香はるかなのだから。


西園寺 遥香。それを一言で表すなら全てを兼ね備えた完璧美少女である。腰まで届いていそう長い黒髪、手入れとか大変そうだけど、彼女の髪はきちんと整えられたサラサラのストレートヘアーだ。肌は本当に日本人かよって言いたくなるような白さに、桜色の唇がよく映えている。しかも、制服越しからも分かるそのスタイルの良さは、大袈裟でもなんでもなく、モデルがビックリしてしまいそうな完璧なスタイルだ。

茶色みがかった黒髪で、肩ぐらいの長さの髪を簡単だからとポニーテールにしてまとめ、健康的と言われる小麦肌……いや、最近衰えが見えて健康的ではない肌か……に、地味な厚いレンズ眼鏡をかけ、とある事がきっかけで、ワンサイズ大きめの服を着てブカブカの格好のせいで密かに「デブ」とも呼ばれている私とは大違いだ。いや、比べるのすら烏滸がましいというやつだろう。


もちろん、優れているのは容姿だけでなく、成績優秀・スポーツ万能。しかも、あらゆるものに手を出しては成功を収めている大会社「西園寺グループ」の一人娘である。そんな肩書きを持ちながらも、誰とも分け隔てなく喋る性格の良さの持ち主でもある。


ここまで完璧だと最早嫉妬心すら出てこない。現に、彼女に嫉妬心を抱いていると言った話はあまり聞かない。

そんな完璧美少女故にやはりモテる。この29年間男子に一度も告白をされた事がない私とは違い、彼女は平均したら1日に1回のペースぐらいで男子生徒から告白を受けている。噂好きの生徒からの又聞きだと、教員の中でも彼女に告白をした者もいるらしい。が、彼女はそれらの告白を全てキッパリ断っている。それ故なのか、彼女は「高嶺の花」だとか「学園のマドンナ」と皆から呼ばれている。


そして、私は偶然にもそんな完璧美少女の西園寺さんの担任を3年間勤めている訳だけれど……まぁ、それは偶然なのでどうでもいい話か……


「皆さん。先生の言う通り私達はもう受験生なのです。一つ一つの気の緩みが大失敗に繋がる可能性だってありますから、気を引き締めなくてはいけませんよ」


西園寺さんの注意喚起に皆黙って頷く。思わず私までも頷いてしまった。そして、次に西園寺さんは田中君の方を向き


「それと、田中君。女性に対してババァなんて言葉は失礼ですよ」


「おっ……おぉ……すまん……」


お調子者の田中君も、西園寺さんにキツめに注意されて、気圧されながらもそんな謝罪の言葉を出すが


「謝る相手が違うのでは?」


西園寺さんの一言に田中君はビクッと一瞬怯えた表情をし、すぐに私の方を向き


「先生!!ババァなんて言ってすいませんでしたぁ!!」


土下座でもするんじゃないかと思うぐらいの勢いで頭を下げて謝罪してきたので、謝罪された私の方が逆に戸惑ってしまった。


「いえ……あの……まぁ、先生はあまり気にしてないので、次からは授業を邪魔しないように……ね?」


私は言われた事は本当にあまり気にしてないのでそう注意すると、田中君は「はい……」と言って本当に反省した様子で着席したので、逆に私が言いすぎたかしら?と言ったような気分になってしまった。


「授業を中断させてしまいすみませんでした。先生」


西園寺さんはそう言って私に軽く頭を下げてきたので、私は慌てて


「気にしないで!?西園寺さんは何も悪くないのだから!?」


と言って着席するように促すと、西園寺さんはそれはもう女性の私ですら一瞬見惚れるような笑顔を浮かべて着席した。そして、私は呆然としてしまった気分をすぐに切り替えて授業を再開した。


私も、彼女のように場を支配出来るのような力強さがあったら、29歳独身でもババァなんて言われて馬鹿にされないんだろうなぁ〜……と思い、内心自分の性格の不甲斐なさに溜息を漏らしてしまった。

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