妹は可愛い
「状況は理解いたしました、とにかく妹に会いましょう」
桜子さんが応接室に入ってきました。
二人を見たとたんに、涙を浮かべた桜子さん、本当に幼い頃の藤子さんそっくりです。
「桜子さんね、私が誰だか分かるのですか?」
「梅香姉さま……そして藤子姉さま……」
「どうして分かるの?」
桜子さん、黙って大事そうに持っていた、小さい写真を取り出しました。
プラスチックのケースに入り、首からかけていたようです。
その昔、梅香さんが売られる前に、藤子さんととった一枚の写真、セピア色の写真、いま二人には、その写真もありません。
身売りされたときに、私物の持込は許されなかったのです。
藤子さんがその写真を見て、涙腺が緩んだようです。
「お父様が元気な時、お母様には内緒といって、姉様たちの写真を下さったの、後ろには名前もお書きになったわ、でもお母様がそれを見て、お二人のことを教えてくださったの、私は申し訳なくて……」
ここで桜子さん、堰を切ったように泣きじゃくり始めました。
「私とお母様が悪いの、そのお陰でお姉さまはこんなにご苦労なされて……なのに私はそんな眼にもあわず、こうして何とか幸せに生きていられる……私は申し訳なくて……」
「ねぇ、貴女も十分に辛い思いをしたはずよ、もう昔のことはいいのよ、私たちは姉妹、血がつながっているのよ、これからは仲良くいたしましょう」
藤子さんが声をかけています。
「もう大丈夫、桜子さん、貴女のことは私たちがなんとでもいたします、負債も私が払ってあげます」
「可愛い妹のためなら、なんてことはありません」
梅香さんはこういうと施設長さんに、
「私たちが桜子の面倒を見させていただきます、とにかく今日は、三姉妹で水入らずに過ごしたいので、桜子をつれて帰らせていただきます」
「明日またつれてきます、すぐに住む場所を探しますが、それまでしばらくは、預かっていただけますか?」
「そんなこと当然のことです、桜子さん、お姉さまが見つかってよかったわね」
こうして三人は、ホテルへとにかく帰ります。
フロントに一人宿泊人数の追加を頼み、簡易ベッドを入れてもらいました。
午後七時を過ぎています。
この頃には梅香さん、桜子さんが可愛くて仕方ないようです。
やはり母性本能が高いのでしょうね。
「お腹が減ったわね、夕食にでもいきますか?」
「そうね、桜子は何か食べたいものがある?」
「私は……その……お好み焼き……」
二人が笑ったのは確かでした。
「でもお好み焼き屋って、ホテルにはないわ、困ったわね」
フロントで聞くと、通り向こうに一軒あるそうです、何とか予約を入れるので、お待ちくださいとのことでした。
「まっ、そこへ行きましょう、ただし軍服でね、でないと本当にうるさく声がかかるわよ」
三人は歩いていきますが、桜子さんは二人の手を取り離しません。
お好み焼き屋に行くと、一人の女がデンと座っていました。
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