父の遺産 其の二


 写真も一枚、山下桜子の今の姿のようです。

 質素な服を着て、髪も後ろに束ねているだけの少女……


「藤子にそっくりね……」


 梅香さん、複雑な気持ちで手紙を読んでいました。

 そしてしばらく考え込んでいましたが、オルゴールを取り出して、妹の藤子さんにホログラム通信をつなげました。


「あら、どうしたの、忙しいのでしょう、そうね、昼休みなのよね」

 梅香さん、手短に手紙の件を話します。


「姉様、いまからすぐにそちらに行きます、お食事でも一緒にとりながら、話をしましょう」

「そうね、待っているわ、私、どうすれば良いのか……、それから軍服で来てね、いろいろお誘いが大変なのよ」


 で、二人は四時にホテルのロビーでお茶をしていました。 


「とにかくその施設長さんに、一度会ってみようかと考えているの、でも藤子の意見を聞かなくては……」

「私もいろいろ思うことはあるけど、とにかくあって見ましょうよ、出来たら早いほうがいいわ、電話をかけてみましょうよ、この施設長さんに」


 で、梅香さん、電話などかけています。


「私、山下梅香といいますが、○▲施設長様をお願い致します」


「お手紙をいただき、ありがとうございます、添付の書類を見ますに、確かに私の異母妹です」

「下の妹と相談し、とにかく施設長様とご面談し、その後に桜子さんにお会いできないかと、お電話を差し上げました」


「正直、私たちにも、複雑な気持ちがあります」

「今後のことは、本人と会いました後にと、考えております」

「出来ますれば私たちも忙しく、今日明日が希望なのですがご都合はいかがでしょうか」

 

 それならと、施設長さんはいまから都合をつけると、いってくれます。


「藤子さん、今からあってくださるそうよ、行きますよ」

 すぐフロントに、タクシーを呼んでもらった梅香さん、そのまま児童福祉施設に乗り付けました。


 施設長さんは玄関で待っており、すぐに応接室に案内された二人です。

「やはり良く似ておられます、とくに下の方はそっくりです」


「桜子さんはどうしていますか?」

「自習室で学校の宿題をしているはずです」

「よく下級生の面倒も見てくれており、皆から姉のように慕われています」

「学業は優秀なのですね」


「たぶんスリーシスターズでも受かるかと思いますが、本人が働くと言い張りますので……」

「働く?尋常小学校卒では、実家から通わなくては……住むところも無いのに……」


「住み込みで働くといって、奉公先を探していますが……桜子さんの場合……」

「確かに、よからぬことが起こりそうですね、親はいない上に美しい娘……納まるところに収まるというわけですね、二番目か三番目……」


「普通ならそれでもいいでしょうが、あまりに聡明、出来ますれば、もっと広い世界で活躍させてあげたい……しかし少ないといえど負債があり、これから返していかなくてはなりませんので……不憫で……」

 

 この世界、相続放棄はありません、ただ破産を申請は出来ます、相続破産というやつで、この場合、それなりのペナルティが発生するのです。


 桜子さんの場合、相続破産は学業を修了したときに選べますが、どうやら本人は返すつもりのようです。

 学業を修了ということは、高等小学校修了でも可、特例で、高等師範学校進学なら卒業後となりますが、桜子さんの場合、生活もしていかなければなりませんので、不可能となります。


 ただこのように保護者がいなくなった場合、負債の利息は免除となっており、元金だけの返金となります。

 弁護士さんがその手続きもしており、百二十万ほどの負債です。


 ……支払ってあげたいけど、あの男の借金を返済するのはしゃくに障るわ……


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