父の遺産 其の一
ミヤコメイドハウスの番組は、驚異的な視聴率を上げました。
なんせ初めてメイドハウス内が、一般の眼に触れたわけです。
女の園が見られるのですから、興味津々なのでしょう。
山下梅香が、テレビでインタビューに答えた映像も、話題をさらっています。
応募の問い合わせが殺到し、専用電話で受付事務を受け持っていた都女子学園事務室が、パンク寸前なのです。
結局、足立先生が陣頭指揮を執り、裁いてくれています。
山下梅香宛にも、多数の手紙が届いています。
一応律儀に、眼を通している梅香さんです。
そんな中、一通の封書がありました。
あて先は梅香さんにです、差出人は京都のある児童福祉施設の名前でした。
封を開けると、いくつかの書類の写し、そして一枚の写真、そして一通の手紙がありました。
手紙は児童福祉施設長からのものでした。
この世界の児童福祉施設は、尋常小学校卒業までの児童が対象で、特別な理由があれば高等小学校までとなっています。
* * *
先ごろテレビで拝見いたしました。
放映中に、一乗寺の波切不動尊さんの近くに住んでおられ、失礼ですが、身売りにあったとか聞きました。
実は当施設にいる尋常小学六年女児に、山下桜子という子がいます。
この子の境遇が、貴女のいわれていることと似ているので、入所時に預かっていた書類を調べますと、どうやらこの女児は、貴女の妹ではないかと思われます。
売り証文がかわされている以上、お父様との親子の縁は切れているので、山下桜子が法的には貴女の妹にはならないのは承知しております。
さらに心穏やかではないのも、理解しております。
しかし本人は感づいたように見えました。
テレビを食い入るように見て、涙を流しておりました。
私が聞いても、何一つしゃべりませんが、同室の子に一度、自分には二人の姉がいるといったそうです。
どうやら写真も持っているようですが、決して誰にも見せないのです。
この子は非常に賢く優しく、上級学校へ進学させたいのですが、施設としては高等小学校が限度です。
また本人の行く末を考えると、何とかならないものかと考え、非常にぶしつけなのですが、私個人の責任で、この手紙を差し上げることにしました。
添付の書類は、入所時に預かったもののコピーです。
このようなことはいけないのでしょうが、もし貴女の血のつながった妹であり、援助の手を差し伸べていただけるのなら、どうか、この子の未来の扉を、貴女の手で開いてやってはいただけないでしょうか。
* * *
添付の書類の一つは、父の戸籍謄本、たしかに父の名前があり、梅香も藤子もあり、そこに『親権譲渡 宮川遊郭六条楼』と記載されていました。
さらに母の名前、そして後添えの名前、娘として山下桜子の名前もあります。
父は一乗寺の波切不動尊近くの自宅に、そのまま住んでいたようです。
書類はもう一つ、山下桜子の入所時の、身上調査のコピーも添付されていました。
それによると、親権譲渡された者以外の肉親は全て死亡、父にはどうやら膨大な負債があったようで、山下桜子に対しては、京都市の弁護士が、財産整理の手続きをしてくれていました。
桜子さんの負債はかなり少ないのです。
マルス移住直前に、父は死んだようです。
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